昭和史発掘 本場所編


昭和56年夏場所

概要

トピックス

北の湖が連覇 相星決戦制す

千代の富士綱取りへ 3場所連続で王者と楽日決戦

 

優勝

北の湖

2場所連続22回目

横綱

14勝1敗

楽日本割(相星決戦)

 

記録

 

歴史的観点

3場所連続で北の湖ー千代の富士の楽日決戦

大関候補は拮抗、二強との格差拡大

 

見どころ

「不沈艦」最後の連覇 剛柔自在

ウルフ、内から外から足技で3勝

大ちゃん キラーの面目躍如

懐かしの御前掛かり土俵入り

麒麟児ー富士櫻突っ張り合戦

巨漢弓取り江戸の華

春日野理事長挨拶

 

前場所からの流れ

 先場所中に輪島、増位山が引退し2横綱1大関に上位陣が縮小。大関が東西に揃わないため、若乃花は、西の横綱大関となる。その若乃花は、昇進後初の休場明け、どこまで復調できるか未知数。

 56年に入り、連続で千秋楽決戦を戦ってい北の湖と千代の富士が、今場所も軸となりそうだ。

 先場所揃って初日から白星を並べて前半戦を盛り上げた両関脇。最終的に隆の里10、琴風9勝に終わったが、次の大関が期待される実力に疑いはない。さらに小結で11番勝った巨砲も張出となり、昇進レースが盛り上がる。二桁勝って大関挑戦権を得たいところ。曲者栃赤城と朝汐、実力者も小結に復帰。2枚目まで上がってきた新鋭北天佑も新三役を伺う。

 

この場所の成果

 やはり横綱北の湖と大関千代の富士の一騎討ちとなり、相星決戦の末に北の湖が連覇を果たした。今年も王者は変わらないとばかり、安定した相撲で14勝1敗。千代の富士との直接対決では、本割に限れば4連勝。まだまだ格上であることを見せつける完勝だった。初場所の優勝決定戦が余りにも有名だが、決してそれが王者交代の一番となったわけではない。

 

 輪湖に代わる北若時代と期待されて横綱となった若乃花。2年半が過ぎて番付上も2横綱となったが、初日から連敗し、連続の途中休場。長らく二桁勝利を続けてきた偉丈夫が陰り、代わって台頭したのが千代の富士。若乃花の昇進直前の如く、毎場所北の湖との優勝争いを繰り広げている。13勝を挙げて連続準優勝、いよいよ来場所の成績次第では横綱も期待される。なお直近2例は、対象期間に優勝なしで昇進している。

 

 もし千代の富士の綱取りが成れば、異例の大関不在となってしまう。そこは実力十分の3関脇から抜け出して欲しいところだったが、最右翼の隆の里は先場所負った怪我も影響したのか終始低調で負け越し。弟子たちが大関目前でヤキモキさせるのは師匠譲りか。琴風も今場所もあと1番二桁に届かず。小結で11勝した巨砲も、連続二桁とはいかず。ここに三賞トリオの朝汐、蔵間、北天佑も加わり、次期大関に向けて横一線で再スタートとなるか。

 

 再入幕の闘竜が9日目まで首位を並走、10勝して三保ヶ関勢の層の厚さを見せたが、それ以外に二桁勝った力士は皆無。関脇以下は稀に見る潰し合いとなった。目立った活躍力士が少ないのは寂しい。ニッパチが28歳と円熟期を迎え、千代の富士ら昭和30年組が追い上げ、まだサンパチは登場しない時代。台頭すべき若手がもの足りないが、結果的に30年代半ば生まれは谷間の世代となる。


序盤戦

 

若乃花休場

 初日から蔵間、朝汐に連敗して休場。勝ち急いでの逆転、出足に屈してあっさり後退と、勘も戻っていなかった。

 

三保ヶ関のサンドイッチ作戦

 やはり今場所も道産子の両雄の争いになるのか。

 横綱は、万能ぶりを発揮。得意の型に拘らず、相手に合わせながらも危なげなく自分のペースに引き込み、4つの決まり手で5連勝。

 それに比べると大関はやや安定感には欠け、相手有利になりかけることもあったが、抜群の瞬発力で突破。外掛けも2番。5日目は北天佑の右突きで強襲されたが、得意の形に持ち込む。しかし、この新鋭の底知れぬ力は剛腕大関にも劣らず、引きつけ合いでむしろ優勢。大関が吊り身で強引に征そうとするところ、外掛けで2場所連続の銀星を刈り取った。

 初顔でもヒヤリとさせられ、先場所は派手な下手投げを食った相手にまたしてやられた。破竹の勢いで北の湖の対抗馬にのし上がる千代の富士。その躍進に合わせるように登場した刺客は、三保ヶ関の新星。のちに九重部屋のお家芸となる「サンドイッチ作戦」は、千代の富士自身が苦しめられたものだった。

 千代の富士に土がつき、5連勝は北の湖と、再入幕・これも三保ヶ関部屋の闘竜の2人となった。前頭筆頭蔵間はうっちゃりで惜しい星を落として5日目に土。2枚目北天佑も関脇巨砲の吊りに屈した1敗のみ。

 

関脇・小結は星伸びず

 期待の3関脇2小結だが、いずれも2敗以上を喫した。隆の里はけたぐりを食ったり、双差しを許したりと隙が多く黒星先行。潰し合いも多いが、ここ数場所のように快調な三役がいないのは淋しい。

 

その他

 新入幕琴千歳が4連勝したが、十両の播隆山に敗れて土。魁輝は公傷全休。十両優勝で再入幕の高鐡山(板井)は、引いて倒れて膝を故障、2度目の幕内も未勝利で休場となり、幕内復帰まで1年半を要した。


中盤戦

北の湖も苦手に敗れ、両雄並ぶ

 北天佑が先場所に続いて大関千代の富士を破る援護射撃。今場所も1人横綱となった北の湖が、星一つリードする展開で中盤戦は進んだ。中日、並走していた弟弟子の再入幕闘竜が敗れ、結びで唯一無傷の折り返しを決めるかと思われた。ところが、ここに立ち塞がったのが、やはり苦手の小結朝汐。立ち合い狙い通りの突き落としにあっけなく落ちた。

 高砂一門の同い年に初場所に続いて援護される形となった千代の富士、中盤は左の上手がすぐに引けて、安定して星を重ねていった。北の湖も調子を崩すことなく立て直し、両者1敗で並走して終盤戦に突入。ダークホース闘竜は、10日目に2敗に後退した。

 

3関脇は一進一退

 上位陣2人が前評判通り優勝争いを繰り広げたが、ここに1人、2人、大関候補達が加われば面白いところだった。しかし、序盤の出遅れでリズムに乗れず、中盤に入ってもなかなか調子が上がらず。特に期待された3関脇は、いずれも3勝2敗で通過、二桁の可能性もあるが、給金が現実的な目標に。殊勲の小結朝汐も6勝だが、栃赤城が3勝7敗と後がなくなっている。

 

その他

 平幕では、2敗闘竜が勝ち越し。幕内上位も経験しているが、前年11月に負傷休場、1月も調子戻らず十両に転落したが、1場所で復帰。体躯も充実、出足、突き押しの威力が光り、三保の3本目の矢として活躍が期待される。

 3敗で続くは、入幕4場所目の3敗佐田の海。新入幕で9連勝して敢闘賞(のちに息子の二代目も新入幕で受賞)、一気に2枚目となった1月は跳ね返されたが、中位ではしっかり通用している。体はそれほどないが、差しての速攻が鋭い。

 以下、6勝4敗に三役を狙う蔵間、北天佑と上位力士らもつけている。


終盤戦

3場所連続 北ー千代楽日決戦

 一敗での並走は続く。北の湖は張り差しで止めて左差し狙いつつの突き押しが威力を発揮。8勝3敗で抜擢された佐田の海や両関脇も問題にせず勝ち進む。千代の富士は、対照的に危ない相撲が続いた。琴風、朝汐には二本差され、隆の里には十分の右四つ左上手を許したが、抜群の足腰と勝負勘で危機回避。外四つから体を浴びせるような掛け技は、無茶苦茶なようで成功率が高く、後の53連勝中にも逆鉾相手に繰り出している。

 斯くて両者一敗で相星のまま、今場所も楽日決戦と相成った。

 両者喧嘩四つ、「左差しを狙ったが、相手が外から上手を取りに来た」と北の湖。見たところ千代の富士もほぼ真っ直ぐ当たっているが、微妙に当たるラインをずらしたのだろうか。千代の富士は右差し左前ミツ、得意の形で食いついたかに見えた。しかし前ミツ引きつけて封じることはできず、北の湖の右もしっかり入って組み合う。右下手も取れた千代だが、これは捨てて腕を上げて上手を遠ざけ、左へ回るべきだったか。左上手許して、がっぷりに持ち込まれるのを嫌って右ワキに隙が生じた。僅かな隙を見逃さない北の湖、素早い左巻き替え。千代も遅れて左を巻き替えるが、画面向こうで見えないものの防がれた様子。さらに左巻き替えの攻防の中で横綱は腰を使って上手を切る。最後はモロ差しとなって勝負あり。

 四つ身の巧さを発揮した北の湖、左でも右でも組み止めれば体力、技術ともに上回る。ウルフフィーバー中と言えども直接対決では相変わらず分が悪い。本割では前年にうっちゃりを決めた1勝のみ。13勝で翌場所綱取りを期待されるが、越えるべき壁は余りにも高く見えた。

 

好調力士

 二敗で終盤を迎えた闘竜は、小結朝汐にぶつけられて後退。それでも技能賞を得た前頭筆頭蔵間を電車道で運ぶなど突き押しが炸裂し、10勝を挙げた。三賞が来なかったのは残念。3敗で付いていた佐田の海は、7枚目にも関わらず北の湖戦が組まれ、脱落。最終的には9勝止まりだったが、速攻の冴えは光った。

 

役力士

 5敗で終盤に入った隆の里、大関への足固めとして負けられない終盤だったが、糸が切れたかのように負けが込んで大関どころか平幕へ転落。琴風は9勝したが、千代の富士にモロに入って圧倒しながら逆転負けのが痛恨で、二桁には届かず。巨砲は4連敗で追い込まれたが、最後平幕に連勝で千秋楽で勝ち越し。巧さは発揮したが、先場所のように星は伸ばせなかった。朝汐も千代に双差しに入りながら内掛けを食ったのが響き、二桁に届かず。しかし好調の蔵間や北天佑を圧倒した突き押しの威力は最後まで衰えなかった。栃赤城は5勝止まり。いつもの腕を手繰る奇手もなかなか決まらず。お株を奪う逆とったりにきた天ノ山をとったりに返したくらい。

潰し合いが激しく、結局誰も二桁には乗らず。大関レースは一旦スタートからやり直し。

 

平幕上位

 筆頭の蔵間が三役復帰確実。終盤は疲れも出たか一気に出られて土俵を割る相撲が目立ち二桁には届かずも技能賞を得た。2枚目の北天佑も同じく9勝で敢闘賞。上位相手にも力相撲が通用し、豪快な上手投げが決まった。

 横綱大関が少ないこともあり、平幕上位は大負け力士は少なかった。4枚目麒麟児の突っ張り健在で最後4連勝で勝越し。負け越した舛田山、天ノ山、高見山、鷲羽山も持ち味を発揮する相撲があった。舛田は連続の叩きを決める引き足、天ノ山の出足を伴ったときの突き押し、高見山は栃赤城を押しつぶし、鷲羽山は若島津にスピードで上回ってモロ差し、好調闘竜の突き押し掻い潜っての掬い投げが見事。

 

その他

 三役から転落した富士櫻は最後まで突き押しの威力が戻らず、絶不調の2人から白星を得たものの連続の二桁黒星となった。上位初挑戦で跳ね返された9枚目の若島津は、先々場所の勢いがなく、終盤もベテラン勢に苦戦。やや地力不足を露呈したが、何とか給金。

 ベテラン大錦、大潮は中位で勝越し。共に鋭い出足と意外なしぶとさを発揮して番人らしい働き。下位に下がった黒姫山も最後は失速も、右差しの力士のような取り口で出足の衰えをカバーし下げ止まった。しかし、これが最後の給金となる。

 絶不調力士は最後まで好転せず、終盤も全敗だった鳳凰が2勝13敗、玉ノ富士3勝12敗。再出場後連勝した荒勢もそこまでで3勝止まり。序盤に休場した高鐵山、幕尻で終盤崩れた黒瀬川と5人は陥落必至の成績。

 新入幕琴千歳は4連勝スタートの貯金を守って勝越し。突っ張りが通用したのは自信になる。