昭和相撲史発掘 本場所編

昭和40年1月場所

概要

 

トピックス

部屋別総当たり導入

序盤戦から上位対決

佐田の山が横綱昇進

正面審判の協議説明開始

 

優勝

佐田の山

横綱

13勝2敗

千秋楽本割

 

記録

横綱が千秋楽勝ち越し

 

歴史的観点

3年ぶりに四横綱の時代へ

部屋別総当たり導入 上位同士の初顔に大きな反響

お約束・名物・見どころ

同門力士の初顔合わせ続々

あわや負け越し 栃ノ海の綱渡り

大関栃光 最後の大仕事

立浪四天王 若羽黒、羽黒山見納め

 

前場所からの流れ

 休場明けから大鵬が連覇して締めた39年。年の前半は大鵬の連続全勝があった中でも、復活した柏戸との全勝決戦、横綱昇進前後の栃ノ海も良く踏ん張って、一強時代阻止への期待があったが、失速。代わって豊山、佐田の山が終盤まで食い下がった。佐田の山は秋、九州と連続の13勝。考えようによっては連続優勝に準じているが、声は掛からず、初場所に悲願をかける。

 このタイミングで部屋別総当たり制が導入。セパ交流戦が始まる以上のインパクトである。上位力士にとっては、平幕中位力士との対戦が減って同門の役力士との対戦が増える。最も影響するのは、誰あろう綱取りの佐田の山。横綱栃ノ海、大関栃光と、最も同部屋に近い関係にあった春日野部屋の好敵手との2番が追加されるのだ。運命のいたずらに翻弄されるのか。

 

この場所の成果

 58年前の初場所、同門相戦わずの伝統を破却した画期的な場所。

 15日制年6場所制、そして部屋別総当たり

 ここに今日まで続くレギュレーションの3本柱が出揃った。その後幕内、十両の定員こそ増減するが、ほぼ同じレギュレーションで定期興行を続けてもうすぐ60年。偉大なるマンネリズムの恩恵で、時代を超えて記録を単純比較できるのが他のスポーツにない魅力である。

 

 これに関連して、もう一つの大変革があった。序盤戦から横綱・大関戦が組まれたのである。突然の同門対決に、力士は非情も覚悟を持っただろうが、手心を加えるのではないかと、外野からの疑いの目は気になっただろう。38年の柏鵬全勝対決で、石原慎太郎に大々的に八百長と糾弾された騒動もまだ生々しい。ましてや今場所は佐田の山が綱取り。そんな時に、角界一密接な関係と言われる出羽海勢と春日野勢が初対決する。好敵手にして盟友たる横綱栃ノ海と栃光と顔を合わせるのである。優勝争いが絞られた終盤にコロッと負けたりすれば、痛くもない腹を探られる。

 そこで佐田の山の対戦相手に、4日目栃ノ海、7日目栃光を持ってきた。3日目大鵬ー北葉山など、同門でない横綱大関戦も序盤にぶつけられた。この変則編成は徐々に数を減らし、九州場所には組まれなくなったので経過措置だったようだが、無気力相撲が問題になった昭和40年代後半にも一時復活している。

 

 さて場所の方は、大鵬がいきなり同門の玉乃島に敗れるなど、大関時代の36年5月以来となる連敗スタート。横綱在位中唯一のことである。大きなハンデをもらった佐田の山、変則編成の栃光戦で土がつくも、虎の子の1差を守って逃げる。援護したのはその栃光。天敵大鵬と再び2差、直接対決には敗れたものの、取りこぼしなく逃げ切った。3場所連続13勝、連続準優勝からの優勝。大関在位約3年、悲願の横綱昇進がかなった。

 

 大鵬は出遅れが響いて3連覇ならず。休場明けの栃ノ海は、佐田の山優勝の余韻の響く千秋楽結びの一番で大鵬に勝って薄氷の勝ち越し。毎場所前半から負けが込んで苦しい星取り。今場所は3連勝スタートも、早々と佐田の山戦が組まれて惜敗、そこからおかしくなった。悪夢の8勝7敗3連発の始まりである。

 

 キーマンとなったのは大関栃光。惜しくも14日目に脱落したが、千秋楽も北葉山と好勝負を演じて11勝。大いに国技館を盛り上げた。出遅れた北葉山、失速した豊山は二桁届かず。2年余り上位のメンバーは変わらないまま、2横綱5大関から4横綱3大関へ。5横綱は前例がなく、遅れを取った3大関は誰かを蹴落としてのし上がるしかないのか。

 

 そろそろ次の大関をという期待も出てくるが、新三役玉乃島は初日かつての兄弟子を破る殊勲も5勝止まり。関脇復帰の北の冨士もムラがあり8勝に終わった。先場所柏戸に小手投げ、佐田の山を極め出した青ノ里は3勝に終わってこれが最後の三役となった。4場所連続三賞受賞の明武谷は大鵬に勝てるのに二桁に届かない。上位初挑戦の淺瀬川は4勝、上位に定着しかけていた若見山は負傷休場。台頭してきたのは清國。筆頭で10勝、組んでも離れても上位陣と互角。基本技の形、力強さが目立つ。故障から出直した琴櫻も二桁勝り、三役に復帰しそうだ。

 

 栄枯盛衰。30年代前半、立浪四天王と謳われたうちのライバル2人が、奇しくも同時に最後の土俵となった。共に翌場所全休して土俵を去った。3勝12敗に終わった房錦もその後上位復帰することはなかった。上位常連の岩風も10枚目に落ちたが4場所連続の負け越し。このまま勝ち越せず年内に引退する。早くも「昭和30年代」の終わりを感じさせた。

 

三賞

殊勲 明武谷  全て一桁勝利ながら4場所連続の三賞。直近大鵬戦5戦4勝。

敢闘 若杉山  3年半ぶり再入幕で連敗スタートから12勝。右四つの相撲が突如猛威を振るった。

技能 清 國  前頭筆頭で10勝。1横綱2大関を破る。突き押しに加えて外掛け、蹴返しも。

 

関脇以下で二桁勝利は他に琴櫻だけ。上位の勝ち越しも少なく、受賞者は妥当というか、候補が限られていた。

 

時代背景

40年不況と大甘対応

 前年10月の東京五輪の盛り上がりの興奮が冷めやらぬ中、経済はきっちり悪化。新幹線開通、五輪開催へ急ピッチで進んだ反動は大きく、ある程度予想された調整局面ではあるが、戦後最大の不況、昭和恐慌の再来と危機感が高まった。結果的に戦後初の赤字国債発行で乗り切り、まだまだ旺盛な内需、輸出の拡大によって高度成長はまだ続く。

 この不況は証券不況とも呼ばれ、5月に山一証券で取付騒ぎが起こるが、田中角栄蔵相の下、特融対応で乗り切った。金融危機を未然に防いだ英断であるが、護送船団方式とも言われる金融業界への大甘対応が、銀行、証券業界のリスク管理を怠らせ、バブル後の倒産劇を招いたとも言われる。

 角界では、同じ5月に拳銃騒ぎが勃発。柏鵬、北の富士らが書類送検される。廃業したばかりの元大関若羽黒は拳銃を暴力団へ流しており、逮捕。そこから足がついた。今日なら大問題となるところ、ただの注意処分で幕引き。こちらも大甘対応となって、さすがに柏鵬共に9勝6敗に終わったあたりは影響がないとは言えないが、切り替えて復調。何事もなかったかのように柏鵬時代は続いた。

 

V9スタート

 東京が五輪に沸いた秋、大阪では御堂筋シリーズで盛り上がった。2年ぶり進出の阪神は南海に敗れてまたも日本一ならず。そして次の優勝まで21年の歳月を要する。その一因が、この年から9連覇を達成する巨人軍の独走。安定と強さの象徴「巨人、大鵬、卵焼き」は、子供の好むこの時代を表すフレーズとして今も語り継がれる。その対義語?として、「大洋、柏戸、水割り」「阪神、柏戸、目玉焼き」などがある。佐田の山が頑張っても、大鵬対抗馬は、やはり柏戸という世評なのである。

 

レジェンド対決と炭鉱町の奇跡

 大洋、阪神の球団名が出たが、奇しくもこの年の春の甲子園決勝は、V9巨人を苦しめたのちの両球団のレジェンドの対決となった。大洋・横浜の球団最多勝利投手となる平松政次の岡山東商が、阪神の球団最多安打者となる(現在は鳥谷に次ぐ2位)藤田平の市立和歌山商を破って初優勝。

 夏の甲子園は春王者が初戦で散る波乱の大会となり、伏兵三池工業が優勝。東海大に招かれた原貢監督は有名だが、同校の出場はこの時限り。石炭から石油へ転換が進む時代、大牟田市の三池炭鉱では、廃坑に向けての労働争議、大事故と暗いニュースが続く中での快挙。時代の変化を感じさせる奇跡の物語として語り継がれる。

序盤戦

 柏戸は休場で引き続き2横綱4大関。大鵬が初日から連敗する波乱の展開。その後も双差しで攻め込まれたりと本調子でない。対照的に3連勝スタートを切った栃ノ海だが、早くも4日目に佐田の山との同門対決が組まれて惜敗。さらに開隆山の首投げも食った。

 

 両横綱が2つも後退する中、連続13勝で綱取りへ意気込む佐田の山が上位で唯一序盤を無傷で終えた。難敵相手に組んでよし離れてよし。同部屋同然に稽古を重ねてきたライバルとも過酷な一番も乗り越えた。心配なのは北葉山で、大鵬戦を含むとはいえ4敗。栃光は逆転負け2つ、豊山は新上位キラー淺瀬川に強引な攻めが過ぎて敗れたが1敗に留めた。

 

 関脇・小結も2敗以上を喫した。一横綱1大関を破った明武谷は外掛けで2敗。北の富士は初日から同門の横綱栃ノ海に屈したが、3日目から連勝。4連勝の清國も肩透かしで土をつけた。波乱を起こした玉乃島だが、翌日から3連敗。栃ノ海外掛け妙技、清國とは際どい投げの打ち合い、大豪には胸が合って体力負けと、大鵬に勝って覚醒とはいかず。青ノ里は持ち味を発揮できず1勝止まり。

 

 平幕では、十両から中位まで戻してきた荒波が突き押しが良く出て5連勝。1年前の足首骨折から、上位カムバックの琴櫻。怪我の巧妙で前に出る相撲に変わったと言われるが、北葉山を叩き込んだり、立ち合いから動いてみたりと、むしろ足を庇うかのようにケレン相撲に精を出している。呼び込んで危ない形で寄り倒されてもいる。皆話を簡単に語りたがるが、人間すぐに変われるわけではない。

 踏ん張りの効かない羽黒山、ツンのめって飛び出したり、荒波に突き倒されたり、ついに膝を引きずって休場。まだ1勝、再出場なければ幕内維持はどうか。

中盤戦

 6日目、好調清國を掬い投げで破った佐田の山。唯一並走していた平幕の荒波が義ノ花の叩きに落ちて、早くも単独先頭に立った。

 ところが7日目、栃光に左巻き替えられてもろ差しを許してなすすべなし。大事な場所で同門の先輩大関に屈し、土がついた。やはり総当たりがキーになった。

 対抗馬には豊山。開隆山を吊り出し、玉乃島も懐に収めてスケール勝ちで首位に並んだが、翌中日8日目、北の富士に二本差されて振り回し切れず。清國にも中に入られて連敗。「綱取り本命」大関、またしても先を越されるのか。

 

 2敗グループには、連敗スタートから立て直した大鵬、馬力の戻った栃光ら。大鵬は清國を双差しに組み止め、若見山には右四つ。いずれも慎重に構えた上で隙なく、若見山は攻め立てられて膝から崩れ靭帯損傷で休場。栃ノ海は大豪の変化からの小手投げにしてやられ、3敗に後退。

 1つ躓いた佐田の山だが、その後は立て直して安定した強みを発揮。首位を快走する。大鵬は左右四つに拘らず強みを発揮して8連勝、「兄弟子」の意地を見せた栃光も5連勝と乗ってきて3強の様相だ。

 

 10日目、生き残りをかけた3敗同士の上位対決は、栃ノ海2度の外掛けを堪えた浴びせ倒して豊山。

 平幕義ノ花は連敗で後退したが、これと並んで3敗と好調の再入幕・若杉山が、右四つで力強い寄り。鶴ヶ嶺も真っ向寄り切ったが、時津風一門の古参への「恩返し」に恐縮しきり。稽古場の如く、寄り切った途端にペコリ。この場所らしい光景だ。

 5日間休んで再出場してきた羽黒山は即大関戦。北葉山の寄りにタジタジ、イナしたが膝の踏ん張りが効かずに転がった。

十一日目

三強に関脇が挑む

 3敗につけていた豊山は、明武谷との長身対決。廻しを取って胸を合わせたが、吊り合いでは関脇に一日の長あり。早くも脱落。

 

 佐田の山、玉乃島の突っ張りに全く動じず、突っ張り返して10勝目。新小結は負け越し。

 

 2敗栃光、頭で当たって諸手で突き放し、一方的に淺瀬川を押し出した。

 

 左下手、右おっつけから浅い上手の北葉山。見事な正攻法の寄り切りで若秩父を退けた。

 

 栃ノ海も清國の突き放しを堪えて右前みつにかかったが、どうも今場所は佐田の山戦しかり、上手が深くなって高い外掛けに出る粗雑な相撲が目立つ。残されて胸が合い、すかさず右を巻き替えたところを上手投げで振り回されて転がった。3連敗で5敗目。清國にはこれで不戦敗含めて3連敗だが、名古屋場所まで負け続ける。

 

 結びの一番、2敗大鵬は北の冨士の先制のもろ手突きに下がったが、はたきにも動ぜず左四つに捕まえる。北の富士さっと上手を切って食いついたが、大鵬慌てずに構え、相手の上手投げにちっとも動かず、左下手投げに返して見事に転がした。北の冨士4度目の挑戦も完敗。

 横綱相撲で追走の大鵬、14日目が予想される直接対決までコケそうにない。

 

1敗 佐田の山

2敗 大鵬 栃光

十二日目

追う大鵬と栃光、直接対決

 

<幕内全取組>

一度呼吸合わず。給金相撲にはやったか長谷川、やや立ち遅れて左差され、右へ動いて打開を図るが、豊國付け入って寄り切り。

 

岩風、右変化で頭で突っ込んだ追手山を叩き落とした。

 

立合い左のどわがバシッと入った廣川、怒涛の出足で羽黒川を押し倒した。

 

張り差しの鶴ヶ嶺、右四つ左上手十分、ガブって金乃花を寄り切り、勝ち越し。

 

好調若杉山、若浪が得意の吊りを仕掛ける鼻に外掛け。いい位置に掛かって、さすがの吊り名人もぐらっと後退、それでもうっちゃって振り捨てたが、すでに体がなかった。

 

左四つ右上手を引き付けて積極的に寄った北ノ國、土俵際荒波の突き落としに落ちたかに見えたが、軍配もらって物言いなし。

 

富士錦は得意の押しで一方的に一方的に義ノ花を土俵の外へ。

 

左差しの小城ノ花に対し、これを右で極め上げて強引に前に出た前田川、土俵際喉輪に変えて止どめ、は決められず。体を入れ替えた小城ノ花が掬い投げを決めた。

 

両者頭を下げるが探り合いで強くは当たらず、機を見て若天龍が引くと、羽黒山あっけなく土俵に這った。

 

海乃山右下手、左も巻き替えて両下手。外掛け、下手投げ。君錦が残すを反対から出し投げ。連続技の末に、体を開いて美しい弧を描いた足の運びが○。

 

両手から叩いた若羽黒、小さくなって当たり直すと双差し。首を巻いた開隆山が下がるのを、右はずでとどめ。

 

当たって右差し合い、上手狙いから巻き替え合って左四つ。右上手を引き付けた淺瀬川が房錦を寄り切った。

 

突いて出た清國、下がった琴櫻が前のめりになるのを叩き落とした。

 

互いに待ったの後、上突っ張りの玉乃島、受け止めて右上手の明武谷が捕まえ数呼吸。向正面への横吊り。まだ小粒な小結が抵抗するの向正面へ運び出した。

 

北の富士が左喉輪で突いて出るのを、右に回って上手の若秩父が組み止め、腹を効かせて寄り切り。

 

長身同士の対戦は、差し出争いから右四つ。豊山が大豪の上手を許さず、振ってから寄り切った。給金。

 

 <優勝争い>

さあ首位佐田の山。大関対決。当たって喉輪でグイグイと押し上げるが、北葉山下がりながらも上体は起こさず我慢し、土俵際で左四つに組み止め両廻し。佐田の山も応じて廻しを引き付け、寄り切ろうとする。両廻し十分の北葉これを左へうっちゃろうとするが、外掛けで防いだ佐田、最後は吊り身に寄り切った。

 

続いて大鵬と栃光の2敗直接対決。もろ差し狙いの大鵬だが、やや高く、低いぶちかましから跳ね上げた大関が左差し右上手で食いつく。大鵬が形を作る前に上手投げで崩して激しく寄り立てると、横綱残せず土俵を割った。栃光会心の相撲、1年半ぶり、自身最後の大鵬撃破。横綱昇進後は4勝目。

 

結び。栃ノ海は右前みつ狙いが成功、左下手も取って万全の形で青ノ里を正面土俵に寄り詰めたが、すでに9敗の小結が右で巻きつつ左から突き落とすと、あっけなく捻り落とされた。合口の良い相手の苦し紛れの技に逆転され、4連敗。横綱戦を残す中で非常に厳しい5分の星となった。

 

1敗 佐田の山

2敗 栃光

3敗 大鵬、若杉山

 

 残り3日。大鵬は、佐田の山との直接対決で差が縮めて、あとは2人が星を落とすのを待つしかない。三連覇はかなり厳しくなった。

 栃光はすでに佐田の山に勝っており自力優勝はないが、佐田の山は大鵬戦14連敗中で、新大関場所以来3年近く勝っていないから、十分逆転初優勝を狙える。年齢的にも最後のチャンスかもしれない。

 佐田の山は、残り明武谷、大鵬、豊山と当たることが確実。天敵以外との相口も良くはないが、今場所の調子なら期待できるが、綱取りの重圧とも戦う。

十三日目

逃げる佐田、追う豊 関脇を迎え打つ

<幕内全取組>

突っ張って前に出た十両・高鐡山、左が入っても出足を駆って出たが、廻しを取った北ノ國が踏ん張り反撃。寄って出たが、土俵際で高鐡山がうっちゃりを決めた。

両者上手を欲しがりながら少しズレつつ、すぐに右四つ。左上手引きつけた3敗・若杉山が、あっさりと十両の3敗・宇多川を寄り切った。

 

張り差しの長谷川、若天龍が左廻しを探るところ、さっと右からの出投げを決めた。

岩風右へ飛んで腕を手繰り、右四つ左上手で寄り。俵に詰まった廣川がうっちゃりを見せるが、外掛けで重ね餅。下敷きの廣川、足を引きずる。

 

左四つがっぷり。追手山の強い引き付けに、鶴ヶ嶺は巻き替えられず逆に差し手を抜く動き。打開できずに寄り切られた。

 

羽黒川、左四つ右上手を取って寄って出ると、回り込んだ豊国が足を踏み出した。

 

押して出る若羽黒に対し、金乃花は腕を手繰ったり上突っ張りで距離を取り、前がかりになったところを叩き落とした。手を払いのけるようにした憮然と立ち上がる若羽黒、負け越し。

 

立合い突き放しが不発の義ノ花、しかし若浪に両方差されて、引っ張り込んで胸を合わそうとするが、そこに外掛けを合わせられて背中から落ちた。

 

左で張っていった荒波は、富士錦を左四つに組み止めたが、出るのは富士錦。これをなんとか回り込んで凌ぎ、体を開いて上手投げで仕留めた。

 

再出場後も元気のない羽黒山、廻しを取れないまま小城ノ花にもろハズで押し出された。

 

手を出した君錦は、左差すと見せて右差し左上手。房錦が巻き替えを狙うところを定石通り寄り、土俵際うっちゃりには体を浴びせて潰した。

 

立合い右が深く入った前田川、左も覗いたが右から掬って崩し、左おっつけ右を突きつけて若秩父を寄り切った。

 

ともに給金相撲。突き放す清國、逃げる海乃山を追いかけて、右ハズから右差し、勢いに乗って寄り倒し。被さる形になったので勇み足を疑われたか物言いつくも、軍配通り清國の勝ち。

 

ぶちかましから左ハズで突進したのは琴櫻。下がりながら右巻き替え、窮屈なもろハズの形で堪える淺瀬川。琴櫻の出足を残してみせた。一旦撤退の琴櫻は左を巻き替え。右上手が伸びて攻められない琴櫻、淺瀬川が出てくると上手が切れたが、左下手から振って右ハズで荒々しく押し出した。

 

大豪右入らず万歳しかけたが、相四つだけにあっさり右をこじ入れた。左上手取っていた青ノ里だが、これを嫌っておっつける。そして下手投げから渡し込むように外枠に手を掛ける。半身で残った大豪は、浅い右下手だけで右腰から背中をを押し付けるように体を寄せると、俵に詰まった青ノ里回り込もうとするも叶わず。変な格好で決まって観衆の笑いを誘った。

 

突っ張って右差しで出た玉乃島。開隆山が倒れながら小手投げで逆転を狙いもつれたが、先に体が飛んでいた。

 

<優勝争い>

昨日大鵬を撃破した勢いで逆転優勝へ勝ち進みたい栃光、激しく突進するが、北の富士は回り込んで得意の左四つ右上手に組んだ。ここで行司待った。廻しを締め直し、栃光の顔の出血を拭って勝負再開。仕掛けたのは上手の取れない栃光、北の富士が投げでかわすところで右上手、逆に北の富士の上手を切って形成逆転。数呼吸、北の富士が右上手を掴めば、栃光も左下手。引きつけ合い、廻しを切ろうという攻防のあと、ぐいと出た北の富士が右外掛けを放てば、ついに大関が尻餅。痛恨の3敗目。

 

連覇に向けて追い風が吹いた佐田の山。明武谷を突き放して出たが、右が入って誘われるように右四つがっぷり。吊りを警戒して腰を落として構える。明武谷も同調して膝を開き、吊りを警戒させつつの外掛け。かなり長時間掛け続けたが、佐田我慢。ようやく外れたところで逆に外掛けを仕掛け、グイグイと上体でも攻め続けて切り返すようにひっくり返した。

 

素早く右前みつの栃ノ海、さらに巻き替えてもろ差し。両下手取って食い下がり、廻しの取れない北葉山はタジタジだったが、さらに念には念を入れて外掛けに出るとこれがまた大失敗。北葉山が反り身で堪えると自らバランスを崩し、右から突き落とされて土俵下へ転落。5連敗でついに15日制下初の横綱解禁負け越しへ後がなくなった。あと2日連勝するしかない。

 

大鵬、立ってすぐに右差し左上手。豊山が「く」の字に構える大鵬の遠い上手を欲しがるところ、綺麗に上手投げで仕留めた。

 

1敗 佐田の山

3敗 大鵬、栃光、若杉山

 

 残り2日間で2差。マジック1となった佐田の山、天敵大鵬を破って優勝と横綱を手中にするか。踏みとどまった大鵬は、自力で1差に持ち込めば逆転の目が出てくる。若杉山は今更上位戦も組めないので放置か...現代でもこの状況なら無理に割は崩さないだろう。

十四日目

佐田、大願成就か 宿敵に挑む

<前半戦>

十両・花光に双差しに入られた追手山だが、よく踏ん張って速攻を許さず、右から強引な上手投げで転がした。

 

豊國が左を巻き替えて左四つ。上手を引きつけて宇多川を寄り切った。

 

立合いで双差しの小城ノ花、肘を張って攻め続けて寄り切り。張り差し失敗の北ノ國は防戦一方だった。

 

突っかけた若天龍、両肩を突いて随分横柄な態度。互いに手を払い合って近距離での探り合いから、前に出た岩風を若天龍が叩き落とした。岩風負け越し。

 

長谷川が左四つに渡り合ったが、羽黒川の吊り寄りで決着。両者8勝6敗。

 

両腕でカチ上げの金乃花が、激しく突っ張って廣川を攻め切り勝ち越し。

 

左で引っ張り込んだ義ノ花だが、君錦は左前みつを取って引きつけて寄り切った。

 

突っ張りから叩いた荒波、残した若羽黒左差して長い相撲。右をハズにして一瞬双差しとなり、ここぞと押し込んだ若羽黒だったが、土俵際でつっかえ棒を外されてバッタリ。荒波は勝ち越した。

 

10勝3敗と絶好調の若杉山、この日は立合い左上手を狙って成功、富士錦の突進を組み止めると、左から上手投げを決めた。

 

前田川の右差し速攻を、房錦首投げで凌いだが不発。下手から打ち返されて敗れた。

 

<後半戦>

琴櫻が出足で前に。鶴ヶ嶺双差し果たせず速攻に打開する間もなく寄り切られた。

 

若浪が右を深く差して出たが、開隆山は両手で腕を抱えて小手に振ると、若浪大きく泳いで俵の上、そのまま腕を離さず網打ちの形で土俵を割らせた。

 

海乃山が左差し、淺瀬川は腕捻りから右四つに組み替えるが、上手を取った海乃山が優勢。両廻し引きつけ、上手の取れない相手を寄り切った。

 

頭を下げて両手を出した羽黒山だが、踏み込み弱く、清國の突き押しに全く抵抗できず押し出された。

若秩父突いてから左四つ。上手が肩越しで、形は青ノ里の方が良いが逆四つ。寄って出たが、若秩父吊り身に堪えると、うまく上手を切って吊って出た。

 

玉乃島右差しも北の富士がすぐに左四つに巻き替える。両者深い廻しを引き合うと、玉乃島が右巻き替え。北の富士はやや肩越しの両上手で外掛けを試みるが苦しい。深い両下手の玉乃島も攻めにくそうで、前に出たところを北の富士が両上手でのしかかるような投げ、堪え切れず右膝を着いた。

 

7勝同士、頭で当たって左差し右前みつの北葉山。大豪右抱えて強引に出たが、土俵際投げで左へ回り込んだ。序盤の不振から立て直してようやく勝ち越し。

 

両手で突いて出た豊山が終始攻勢、栃光反撃の暇なく押し出された。4敗となり完全脱落。

 

さて、大一番佐田勝って優勝を決め、横綱を掴むか。立ち上がるや佐田左喉輪で押し上げるが、大鵬も右喉輪で反撃。佐田下がったが突っ張りから右喉輪、突き返す大鵬の右腋にハズを当てがって前へ。仰け反るのを叩きと先手先手で動く。堪えた大鵬、左をこじ入れようとするのをおっつけたが、柔らかい大鵬に下手をゆるし、やむなく右上手で頭をつける。大鵬右で頭を押さえて下手投げ、残されて呼び込む形になったが、好機と出てくるところ右上手。深かったが、両廻し引けば懐の深さが生きる。攻め寄せる佐田の山を下手投げから右回りに吊り出した。天敵がまたも立ち塞がり、両者1差で千秋楽を迎える。

 

優勝を争う一番の後は、7敗と追い込まれた横綱栃ノ海。低い当たりから左差し右前みつ。明武谷が右、左とも抱え込むと肘を張って防ぎ、左を差されると絞って巻き替えて双差しで頭をつける。ハズに当てがったり巧みに上手を防ぎ、再度左を巻き替えて来たところをおっつけ、両廻し掴んで渾身の寄り。しかし最後に腰が高くなり、明武谷一流のうっちゃりに大きく体が割れた。際どかったが、武士の情けか、物言いはなし。7勝7敗。

 

2敗 佐田の山

3敗 大鵬、若杉山

 

千秋楽

佐田、大鵬1差で楽日 綱取りなるか

 今度こそ宿敵を破って優勝と綱取りを決めたかった佐田の山。2差をつけての14日目決戦で待ったをかけられた。どこまでも立ち塞がる大鵬。しかし次勝てば優勝と綱取りは間違いない。超大所帯の出羽海部屋で、その他大勢から這い上がってきた叩き上げがついに頂点を賭けて戦うのは、豊山。鳴り物入りで幕下付出で角界入りし、瞬く間に駆け上がってきた真逆のエリート。対抗心を燃やしてきた大関との綱取りレースに決着をつけるか。それとも12勝止まりで天敵大鵬との決定戦か。そうなれば優勝も横綱も見送り濃厚。一方、盟友栃ノ海は不名誉な横綱負け越しがかかった大鵬戦にかかる。援護射撃などという余裕はない、むしろ佐田の山が先に優勝を攫い、大鵬のモチベーションを奪うことが援護してやらないといけない。

 

<全取組>

 入れ替え戦的一番。十両宇多川が右へ跳び違って叩き、北ノ國を下した。膝を痛めているのか重い足取りだが、窮余の策が奏功して3枚目で10勝。下一枚の北ノ國は9敗となって陥落決定的。

 

 うまく中に入った十両若鳴門、左ハズにかかって追手山を寄り倒した。

 

 金乃花が突っ張り、長谷川が腰を落とせば高さを合わせてさらに突き倒した。

 

 廣川も突っ張って一方的に荒波を押し倒した。荒波好スタートも8勝止まり。

 

 牽制し合った立合いは、両者上手を狙ってズレて組合い、左四つ。お株を奪って先に鶴ヶ嶺が吊り。若浪外掛けで凌ぐが高く、外されてさらに横吊りで土俵の外へ。

 

 前田川が左ハズから差し、右でおっつけから突き放して若天龍を寄り切った。若天龍負け越し。

 

 富士錦は左差し右おっつけで一直線に走り、豊國を寄り切って勝ち越し。

 

 立合い右差しの若杉山。海乃山の巻き替えを防ぎつつ、左で抱えて前へ。うっちゃり許さず寄り倒した。久しぶりの再入幕、びっくりの12勝で敢闘賞を得た。

 

 岩風前捌きの応酬から右おっつけ、右が入ると一気に走った。粘りのない羽黒山は結局再出場後白星を上げられず。5枚目で1勝で残留厳し。

 

 ぶちかましから左のどわの琴櫻。羽黒川を圧倒して4枚目での10勝。昨初の怪我で十両陥落も経験したが、ついに三役復帰へ。

 

 頭で当たり合って右四つ。小城ノ花左巻き替えるところを房錦が出てきたが、差した腕で掬って土俵の外へ。

 

 肩から当たって右差し、左上手。十分の形を作った開隆山が君錦を寄り切った。

 

 立合い踏み込まず待ち伏せての肩透かし。若羽黒の罠にハマった若秩父10敗目。

 

 立合い左前みつの清國。義ノ花は左引っ張り込んで胸を合わせようとしたが、清國ハズに当てがって間合いを取り、足を飛ばして叩き落とした。蹴返し成功。

 

 左差しの淺瀬川。大豪が前に出ようとするところ右も巻き替えて双差し。しかし圧力の止まらない大豪に外四つで寄り切られた。

 

 突っ張った玉乃島、右四つに組む。青ノ里が左巻き替えて浅く二本覗かせると、玉右内掛けで後退させ、さらに右外掛けで下がらせ土俵下へ。

 

 関脇対決。胸で当たって突き放した北の富士、堪えて左四つ。北の富士左ハズにして上手を切って前へ。しかし土俵際、明武谷が得意のうっちゃりを決めた。

 

 左差しの栃光。北葉山は差し手を両手で抱えていたが、栃光が攻勢をかけると、右上手を取って投げては回り、また栃光が出ては上手投げで回り込む大相撲。ようやく動きが止まる。両者一枚廻しを取り直し、もう一度栃光が寄って出る。吊り身に堪えるのを外掛けで体を浴びせて土俵下へもつれながら落ちていった。好不調の分かれた両大関だったが、優勝も勝ち越しもかからない楽日の大熱戦には大喝采。

 

 佐田、勝てば優勝。予想通り突き合い。まず突っ張ったのは豊山だったが、右喉輪を中心に突き返した佐田の山。休まず真っ直ぐに突き押しを繰り出し、ライバルを圧倒した。3場所連続13勝2敗。3度目の賜盃を手に、文句なしで横綱へ。

 

 絶体絶命の栃ノ海、鋭く当たって左差し、右も差し手争いから素早く巻き替えて双差し、一気の寄り。大鵬、小手に振るも棒立ちで土俵を割った。辛うじて栃ノ海は不名誉を免れ、8勝目。15日制で千秋楽に横綱が勝ち越したのは、吉葉山以来9年ぶり(翌場所にも記録し、通算3度)。その屈辱は、この24年後に大乃国が初めて味わうことになる。その後負け越しを記録した若乃花も含め、いずれも下手に前半の貯金があったために休場に踏み切れず、負け越しのピンチを迎えることになった。