昭和史発掘 本場所編

昭和56年3月場所

概要

トピックス

 北の湖が楽日対決で千代に雪辱

 輪島が引退、花籠を継承 輪湖時代幕を閉じる

 大関増位山も突如引退

 荒れる春、後半入っても団子状態に

 

優勝

 北の湖

 横綱

 13勝2敗

 楽日本割(1差対決)

 

記録

 

歴史的観点

 輪湖・北若から北千代へ

お約束・名物

 高見山の派手な負けっぷり

 巨漢・江戸の華の弓取り

 乱れ飛ぶナニワのヤジ 

 

 

前場所からの流れ

 北の湖との決定戦で劇的初優勝の千代の富士が、場所中引退した貴ノ花に代わって大関になり、3横綱2大関は維持された。ウルフフィーバーと呼ばれる一大現象を巻き起こし、人気面でも後継者となった。

 10勝で蚊帳の外だった輪島、若乃花、3場所連続V逸の北の湖、3横綱とも優勝で存在感を取り戻したいところ。

 東関脇は、連続二桁こそ途切れたが、成績次第では大関の声がかかってもおかしくない隆の里。西には琴風が復帰。小結は、筆頭で勝ち越した巨砲と、敢闘賞で6枚目から一気の富士櫻。平幕上位には朝汐、蔵間、栃赤城と実力者が控え、入幕間もない若島津、北天佑もより上位と当たる位置に上がった。

 これらの充実の陣容を新大関はどう打ち破るのか、そして3横綱の復権は。

 

この場所の成果

 絶対王者北の湖は前提に、誰がライバル一番手となるか。激しいつぶし合いが期待されたが、何と早々に輪島と増位山が引退。若乃花も休場してしまった。荒れる春の風に煽られるように、北の湖、千代の富士も前半に2敗を喫し、場所の焦点が定まらなくなった。初日から土付かずで期待が高まった両関脇、とりわけ隆の里は7連勝で一躍大関取りも期待されたが、最後は失速。結局最後は先場所と同じカード。立場は反対で、逃げる北の湖、追う千代の富士で楽日1差対決となり、本割で北の湖が快勝。借りを返して4場所ぶりの賜杯を抱いた。

 星だけ見れば及第点程度の千代の富士だが、まれに見る喧騒の中での新大関で最後まで粘り、2場所連続で北の湖と優勝を争っての11勝は、先場所がフロックでないことを証明するに十分な実績だ。輪湖、北若と呼ばれた時代から、北千代時代への布石を築いた場所とも言える。

 

 増位山が引退して1大関となるが、次の大関を狙って関脇隆の里、琴風が存在感を示し、さらに北の湖を破って11勝した小結巨砲も参戦。すぐにでも供給は追いつきそうだが、翌場所は「横綱大関」が番付に登場することになる。

 のちの大関朝汐はなんとか勝ち越し、北天佑も若乃花、千代の富士を破る殊勲はあったが8勝、幕内2場所目で上位挑戦の若島津は4勝11敗と跳ね返され、上記大関候補とはまだまだ力差がある。

 

56年3月の世相

 とにかく観客のヤジが目立った。なにわのドギツさ全開の時代ということで、大阪の世相に絞る。なにわの春は春場所から、いや選抜からと言われるが、この年は吉村らのいたPL学園が、決勝を本領発揮の逆転サヨナラで制し初優勝。プロ野球は、前年パを連覇した近鉄バファローズ。長らく史上最多を誇ったシーズン238発打線。マニエルは抜けたが、今季も開幕を前にして今度こそ日本一と期待が高まった。が、結果的にはまさかの最下位に転落して西本監督勇退となる。府立体育館と目と鼻の先の大阪球場でも、南海は、放逐した野村一派のブレイザー監督を招いて最下位からの巻き返しに期待がかかったが、脱出がやっと。上田監督再登板の阪急は2位と復調。阪神は巨人の独走を許し3位ながら、「ベンチがアホやから」事件が勃発した。選手からもヤジが飛び出した。

初日

 左四つ右上手を引きつけた十両琴千歳が、半身に構える再入幕太寿山を、土俵際寄り倒し気味に上手投げ。若者頭としてお馴染み琴千歳さんの現役時代。24歳目前のこの場所、2度目の十両筆頭で新入幕のチャンスで白星発進。

 

 大錦、けたぐりから撹乱に出た岩波を終始懐に入れずに正面に置いて押し出し。

 

 荒瀬ぶちかまして前に出たが、飛騨ノ花は俵に詰まりながらも、叩き落とした。

 

 低く前みつ狙いの鷲羽山黒瀬川に押し込まれたが、踏ん張って二本入り反撃。右で掬って体を入れ替え寄り切った。

 

 ぶちかまして一気に押して出たパパ佐田の海麒麟児思わぬ猛攻に何も出来ずに押し出された。意外や、差さずとも速攻を繰り出した。

 

 左前ミツ狙いの出羽の花。当たり勝ち、黒姫の喉輪にのけ反りながらも前進して上手に掛かると、出投げに出たが、上手が切れて呼び込む形になって万事休す。墓穴を掘った。

 

 また大きくなったように見える鳳凰、勇んで当たったが、左変化の青葉山の上手投げにバッタリ。

 

 高見山、カチ上げて大潮を起こすと、よく見て突き押しで一蹴した。

 

 天ノ山が馬力活かして前進するも、魁輝の回り込んでの上手出し投げに足が送れず。

 

 

 頭で当たった北天佑玉ノ富士の叩きを見透かしたように体を起こして押し出した。

 

 舛田山、両手で突き上げての叩き込み。得意技に若島津が引っ掛かった。

 

 役力士登場、琴風は当たり勝って突っ張り、蔵玉錦を圧倒。

 

 ここまで、手捌きをサボった訳ではなく、本当に熱戦が少ないが、ここから熱がこもってくる。

 

 栃光が徹底して廻しを嫌い、隆の里は泉川に抱えたり、組み止めようとするが、モロ差しを許しかけたり苦戦する。ようやく左上手を掴んで攻勢に出るが、栃光も右下手半身は得意な形。上手投げで呼び込んで半身で寄ってこられたが、なんとか俵の上で堪えて上手出し投げ。両者対戦成績五分に。

 

 先場所昇進後初の二桁勝利を挙げてカド番脱出の増位山。踏み込んでいくが富士櫻の突き押しに吹っ飛ぶ。だが、どこまで計算か、素早い引き足でかわし、土俵際引き落として富士櫻バッタリ。こちらも対戦成績が五分となった。

 

 新大関登場。近年と違って新大関でも10勝の先輩大関を差し置いて東正位。得意の左上手を取ってた千代、素早く出たが、半身の栃赤城が掬うと傾く。踏ん張って上手投げを打ち返そうとしたが、さらに掬われて右手を着いた。注目の初日、あっけない黒星となったが、栃赤城の二段構えの掬い投げ、それも半身で浅い差し手で投げるため、千代の富士の左の引きつけをもってしても差し手が極まらない。むしろ盛り上がった肩回りが邪魔になるのか。いずれにしても常人離れした栃赤城の土俵際は魔界。これまでも2度掬い投げを食い、直近は脳天から叩きつけられているので、思わず手が出たのだろうか。ちなみに師匠北の富士も弟子の千代大海も新大関初日黒星。

 

 若乃花蔵間は期待に違わず熱戦。懐の深い左相四つで両廻しを引き合うと、なかなか決着がつかない。廻し待ったを挟み、機を見て若乃花、右上手で捻りを効かせながらの下手投げ。最後まで両廻しを離さず土俵に押し付けるように投げると、膝を曲げて踏ん張る蔵間、ついに手を着いた。善戦マンの異名通り。3横綱が相四つのこの時代に生まれたのが不運か。部屋の開祖と逆で、誰とやっても紙一重で敗れる。

 

 左肩から当たって差そうとする輪島を、朝汐が突っ張って押し込むが、下から左に掛かりかけたところで朝潮嫌って叩くが、そこを付け入って押し出し。難敵を退けた。

 

 結びはここ3場所賜杯を逃している北の湖巨砲の当たりを受け止めて、両ワキを固めていたが左差し勝って前へ。巨砲回り込みつつ、右巻き替え。すぐに北の湖も巻き替えると、巨砲は止まらずさらに差し手を争う構えから、右突き落とし。一旦体が離れた隙に飛び込もうとすると、横綱慌てたか、叩きに出た。そこを見逃さず付け入ると、懐に入って左のどわでトドメ。殊勲の星を挙げた。

 

 ええぞ!ええぞ!の連呼がマイクに入り込んでくる荒れるナニワの春。先場所わずか1敗の両雄にいきなり土がついた。先場所10勝だった他の上位陣には、好機到来と思われたが…

二日目

 岩波がいっぺんに出て十両満山を押し出し。

 

 黒姫山、ぶちかますも大寿山下がらず、十分の右四つに組み止めると、黒姫下手投げで逃れるのを上手から押し潰した。

 

 大錦麒麟児の突っ張りを受けつつ、あまり積極的に出てこないと見ると、自分から突き放して出た。

 

 荒勢、体当たりから右四つで出る。残した鳳凰が寄り返すのを上手投げで体を入れ替え、そのまま上手投げ気味に寄り倒した。

 

 飛騨ノ花突き放すが、青葉山に右を差され、小手に振って掛け投げで回り込もうとするも足は掛からず、掬い投げで返された。

 

 もろ差し狙いの黒瀬川魁輝は左差しを頑なに拒んでいたが、右を深く差して出ると、苦し紛れの小手投げで腰が立って土俵を割った。

 

 

 大潮が猛然と突き立てたが、土俵際で右前ミツに掛かった鷲羽山が出して回って横に食いついて素早く反撃、寄り切った。

 

 昨日速攻を見せた佐田の海、張って右差し。北天佑が突き放したが、叩きに付け入って左から懐に入って寄り切り。今日も速攻冴えた。

 

 天ノ山突いて出ようとしたが、出羽の花が立ち合いですぐに左前ミツに鉄の爪を引っ掛けると、力強く引きつけてあっという間に寄り切った。珍しく速攻で決めた。

 

 右カチ上げてから喉輪で押し上げた高見山舛田山抵抗できずに土俵を割った。

 

 蔵玉錦が立ち合いで左前ミツをつかむが、朝汐ちょっと引いて左四つに。上手も取って馬力を発揮した朝汐が腹をぶつけて迫力ある寄りで制した。

 

 昨日北の湖を破る殊勲の小結巨砲、この日も立ち合いで右差し左前ミツの得意の形に食いついたが、蔵間が右下手で左から押しつつ体を寄せると、回り込めずに土俵を割った。よくある殊勲の翌日。

 

 関脇隆の里は右差し左で抱え込むと、力で栃赤城を圧倒。こちらも昨日新大関を破った殊勲者だが、得意の逆転技を仕掛ける隙を与えない堂々の相撲で連勝スタート。

 

 観客の様子も映るが、さすが80年代ともなると60年代とは違って派手な動きを見せる。ジェスチャーの意味はよくわからないが。。。

 

 黒星スタートの新大関千代の富士、この日は鋭く当たってすぐに左前ミツ。さっと体を開いて上手出し投げで栃光を這わせた。

 

 入幕2場所目の若島津が大関初挑戦。増位山に頭をつけられながらも両下手前ミツ。大関もしぶとく絞って浅いミツ。引きつけ合いから左四つ、若島津がまわしを引き直そうとするところ、大関は左ハズで上手を切ろうとし、吊りに出て伸び上がったところ、うまく腰を引いて掬い投げの形で体を浴びせた。大関の上手さが勝った。

 

 横綱北の湖、立ち合い玉ノ富士の当たりをさっとかわし、肩に手を当てて様子を窺いつつ、飛び込んできたところを巻き替えてもろ差し。嫌がる子供を抱き上げるように胸の上に持ち上げて、土俵外に運んだ。両者の体が一瞬Tの字になるほど高く吊った。細やかさと豪快さが同居する横綱の取り口。

 

 小結富士櫻、頭でかましたが、若乃花も当たり負けせず弾いて左四つに組み止め、すぐに出て寄り切った。完勝だったが、勝ち名乗りで右の首を気にする仕草。

 

 輪島は立ち合いすぐ左上手を取って琴風の出足を止める。琴風巻き替えてもろ差しも、輪島両上手がっちり。一度右が切れたが、左上手から投げて回り込み、巻き替え合って左四つに変わる。輪島の右上手は一枚まわしだが、やや半身に構えるのは得意の形。ところが、上手から振って右に回ったところ、琴風の出足を呼び込み、右上手引きつけてのガブリ寄りに屈してしまった。勝ち名乗り、蹲踞で前のめりの琴風の猫背に、座布団が乗っかった。

 

 相手も大関候補と呼ばれる関脇。内容的にも、敗戦にそれほど驚きはなかったが、この一番を最後に現役を引退。花籠を襲名した。場所後に師匠が停年を迎えることから、花籠部屋の継承が既定路線になっていたようだが、それにしてもあっけない。優勝、10勝5敗、1勝1敗。全く追い込まれることなく、天才と呼ばれた史上唯一の大卒力士が去り、長きに渡った輪湖時代にピリオドが打たれた。

三日目

 横綱輪島の引退会見が行われた。花籠を襲名し、停年間近の師匠は同日退職。W引退会見となった。2人の名横綱を育てた名伯楽にとっては理想的なタイミングでのバトンタッチかと見られた。ところが、すでに病に冒されていた前花籠は間もなく亡くなり、継承者の不祥事、遺族の悲劇。戦後の欠乏期に小部屋から一代で花形にのし上がった花籠部屋は、数年後悲惨な姿で散ってしまう。

 

 初口は、十両の高鐵山が当たって突っ張りを繰り出すが、胸で受けた太寿山が叩き落とした。前回39年初場所でも十両の若二瀬(のち高鐵山)が登場したが、こちらは弟子の方。実業団上がりだが幕下付出を認められず、連勝記録を作りながら怒涛の勢いで関取に。新興の大鳴戸部屋初の関取誕生で、早速師匠の名を与えたが、この後怪我で幕下に落ちて本名の板井に戻す。この相撲でもすでに右膝を立てて左右非対称に仕切っている。

 

 再入幕の岩波が勢いよく突っ込み、麒麟児が突っ張りで反撃に出たが、土俵際で足が流れてバッタリ。立ち合いの一撃が効いていたか。

 

 黒姫山、当たって右差し。しかしこれは大錦の方が力の出る形。左上手を引きつけての寄りに腰が伸びてあっさり土俵を割った。大錦3連勝。

 

 両者立合いすぐに左上手ガッチリで共に十分。荒勢両廻しを引きつけて吊り上げ、顎を上げて強引ではあったが、軽量の出羽の花を横吊りから上手投げでねじ伏せた。

 

 立合い手を出して鳳凰の当たりを止めた飛騨ノ花、左差しやめて上手を取ると、すぐに左に回って上手投げを決めた。鳳凰、先場所後半以降のスランプ続く。

 

 青葉山は両ワキ固めて当たってから左上手に掛かったが、佐田の海が両差し果たして出ると、廻しも切れて抗しきれず。

 

 大潮当たって引いて泳がせて左から懐に入ると、追い詰められた黒瀬川が苦し紛れの右上手投げ打つも体を寄せられ土俵の外に飛んでしまった。ところが、物言い。投げを踏ん張った大潮の右足が俵に乗り上げ、指が蛇の目に触れていた。勇み足。

 

 食いつこうとしたり、足を飛ばしたりとかき回す鷲羽山を、よく見て左差しで捕まえようとする魁輝。ようやく左下手を取って右で抱えて出たが、鷲羽さるもの、両差しから掬って外して逆転。いつ右を巻き替えたのか、何度見てもわからない早技。

 

 高見山が右四つになったが、出鼻を天ノ山が思い切った右下手投げでゴロリと転がした。

 

 差し手争い制した蔵玉錦が左差して寄っていったが、下がりながら右巻き替えた栃赤城が回り込んで掬い投げから背中を突き落とした。

 

 前頭筆頭同士。右喉輪を効かせた朝汐が突き押しで蔵間を追い込み、伸び上がったところをはたき込み。「大ちゃーん!」とオッサンの甲高い声援が飛ぶ。

 

 栃光富士櫻は突っ張り合い。熱戦の末、右からうまくあてがっていなした栃光がチャンスを活かして押し出した。

 

 玉ノ富士の突き放しを差しながら追い詰めた隆の里が、引き技に動じず押し出した。

 

 輪島を屠った琴風に、まわしは与えまいと左右から掬うように差して良い形で食いつこうとした増位山。しかし琴風右四つ両廻し引くと、得意のがぶり寄り。大関も寄り切った。

 

 舛田山が体ごとぶつけて突き放し。しかし踏ん張った千代の富士、反撃に転じるとまわしを引きつけて一気に寄り切った。

 

 巨砲は輪島引退による不戦勝で白星先行。

 

 北の湖が張り差しから左四つ右上手で捕まえる。横綱初挑戦の若島津が半身で粘るのを、左下手前ミツを持ち上げてグイグイと出て寄り切り。

 

 若乃花立ち上がるや左差し右上手に掛かってすぐ体を開いて上手投げ、さらに寄って出たが、やや急いで腰高だったか、北天佑の思い切った下手投げに逆転を食らった。

 入幕3場所目の北天佑は上位初挑戦で金星を獲得した。先場所も全勝の千代の富士戦に抜擢され、初の役力士戦ながら投げでヒヤリとさせている。輪島が継承した花籠部屋は、晩年期の荒勢、十両三杉磯くらいだが、北の湖が健在の三保ヶ関部屋には有望株が現れた。

 

 若乃花、増位山に土がつき、3日目にして上位陣の全勝はいなくなったが、両関脇は3連勝。今場所も波乱が起きるのか。

四日目

 岩波当たって押して出て一方的に太寿山を押し出した。

 

 鳳凰右上手早く、大錦半身に。しかしよく粘って隙を見て右を入れてモロ差し、慌てた鳳凰、上手離して思い切った首投げ。物言いつくも軍配通り。初日を出した。

 

 いつも通り左前みつを探る出羽の花飛騨ノ花が小手投げで起死回生を図るも、掬い投げを打ち返して裏返したかに見えた。が、物言いがついて踏み込しと同時として?(出たか出てないかで、同時には見えないが)取り直し。

今度は飛騨ノ花が先に左前みつを取ったが、出羽の花が右で掬ってから寄って出た。

 

 カチ上げから突っ張りの高見山。最後は左差しで黒瀬川を圧倒した。

 

 手を出して引っ張り込もうとする青葉山だったが、しぶとい鷲羽山ははずに当てがって捕まえさせず、素早く押し出した。4連勝。

 

 左変化で上手を取った魁輝。目標失った荒勢向き直るも終始半身で力を出せずに寄り切られた。

 

 好調佐田の海大潮の立ち合いの叩きにハマって初黒星。

 

 黒姫山ぶちかまして突いたが、北天佑右差し、左上手を取って組み止めると、力で振り回すように上手投げで投げ捨てた。

 

 麒麟児は得意の突っ張りから左を差して一気の寄り。新鋭若島津4連敗、勉強の場所か。

 

 舛田山ぶちかまして突っ張り、朝汐が反撃に出ると左で叩き落としたが、取り直し。

舛田山、今度も鋭く当たるとモロ差しに入り、うまく体を寄せて寄り切った。

 

 両者体で当たって突き押しの応酬、蔵玉錦少し引いたところを富士櫻が一気に出た。吹っ飛んだように見えたが、土俵際の突き落としに一瞬早く富士櫻が落ちた。

 

 蔵間が立ち合い左前ミツ絶好の位置を引いた、と、その刹那、横向いて下がりつつ隆の里右から素首落とし。当時はその決まり手はないが、叩き込みでもなく首投げとなった。

 

 栃光、立ち合いけたぐりの奇襲。さらにまともに引いたが琴風揺るがず。一方的に押し出した。作戦失敗。

 

 先場所熱戦を演じた昭和30年生同士、立ち合い両者低く当たって左前みつを探る「ミラーゲーム」。先に狙いを果たしたのは巨砲千代の富士は右も入らず苦しい体勢だったが、焦らず踏ん張ってやや深めながら左上手。右も入れて両廻しを引きつけ、徐々に力の出る形に持ち込むと、豪快に吊り上げながら体を入れ替え、そのまま体を浴びせて重ね餅、寄り倒した。巨砲は勝身の遅いところが出た。

 

 栃赤城が突っ張りで攻め、増位山は両手で右を手繰りつつ、チョンがけを狙うも足が届かず、反り返ったところを掬い投げ気味に浴びせ倒しを食った。連敗。

 

 玉ノ富士当たって右差し狙うも封じられ、若乃花左前みつ右下手で頭をつけるが逆四つであまりうまく運べない。玉ノ富士は右半身から右を上手前みつに変えて差し手を殺すようにして踏ん張ると左も浅い上手を引いた。ここぞと引きつけて寄ったが、若乃花が右下手から振るとあっさり上手が切れてなすすべなし。

 

 ヤジか応援か、ドスの効いた声で「負けなよ!負けたら〇×%@○...」とハッパを掛けられる天ノ山。当たって左差したが押し込めず。北の湖は右で浅い上手を引き、慎重に構えたが、さっと寄って出る。重い天ノ山だが全く踏ん張れずに土俵を割った。

五日目

○大関引退

 大関増位山が体力の限界を理由に引退。連敗を喫し2勝2敗となっていたが、カド番でもなく、むしろ先場所初の二桁勝利をあげて、これからという大関7場所目。32歳、数年の内に実父の三保ヶ関からの継承が既定路線だったとはいえ、突然の決断だった。親子で涙の会見。

 貴ノ花とは共通項が多く、アスリートとしても嘱望される運動神経を持ちながら、「家業」を継いで角界入り。軽量ながら幕内上位で活躍する業師として輪湖の時代を支えてきたが、30歳過ぎて狂い咲き、親子二代大関が誕生。先代としては、横綱の夢は北の湖が果たし、息子まで大関に。さらに大関北天佑らを残して、二代目にバトンタッチする。残念ながら次世代の新三保ヶ関、北の湖の部屋からは大関は出ずに終わったが、現在では山響、木瀬、尾上が系統を継いで、大関把瑠都と幕内徳勝龍が優勝を果たしている。

 

 三重ノ海貴ノ花輪島、そして増位山と3場所の間に上位力士が次々と土俵を去っていく。いずれも進退極まる前に潔く退いたため、世代交代というにもまだ千代の富士しか昇進しておらず、今後荒れるのか、それとも再び北の湖の独走が強まるのか、何とも時代が不透明になってきた。

 

○役力士

 

 新大関にして一人大関となった千代の富士は、若島津の挑戦を受ける。若島津が素早く左前ミツ。巻き替えの応酬の末左を深く差して寄り立てる。ヒヤッとしたが、土俵際踏ん張って右で前ミツを引くと反撃、下手出し投げに下した。

 

 次の大関が求められる追い風を活かしたい両関脇は共に5戦全勝。隆の里は不戦勝。琴風は左差しの寄りを北天佑捨て身の投げで粘られたが、物言いの末、攻めの勢いが生きた。

 

 北の湖は、魁輝に右から出し投げ、突っ張りと先手先手と動かれて苦戦したが、突っ張りで追い詰めて、最後は右で土俵下へ突き飛ばした。

 

 結びの一番で若乃花が派手に転んだ。立合い左を差せたはよいが、天ノ山が思い切った小手投げから残すところを寄り立てようとすると、出足に屈して踏みとどまれず腰から落ちてしまった。初日のハンデを失い、早くも追う展開に。

 

 

○好成績力士の取組

 栃赤城、右四つ寄り、外掛けと速攻に出たが、玉ノ富士回り込むと、右下手出し投げから攻め込んだ。栃赤城は独特の逆とったり(たぐり方が正面からは判別できないが?)から、1回転して逃れ、両手で突いて追撃するのを引いて回り込んでのはたき込み。サーカス相撲ここにあり、4勝1敗。玉ノ富士は5連敗となった。

 

 青葉山が変化から叩いてと撹乱するが、落ちなかった大錦は腕を手繰って横について一気に寄り切った。4勝1敗。

 

 4連勝の鷲羽山、黒姫山にも真っ向突っ込んだが、当たってすぐの叩きにのめって土俵下まで突っ込んだ。平幕の全勝はいなくなった。

 

 

 

○その他

 小結巨砲、左差して速攻、腹を突き出して決めにかかるが、朝汐も左差せば重い。押し戻して巨砲が掬い投げで回るのについていって右上手。すると巨砲は巻き替えて右四つ。さらに巻き替えて左四つ。こうなれば朝汐有利かと思われたが、半身からさっと右を入れた巨砲、上手を切って左ハズにして形勢逆転、寄り切った。巨砲の技巧と朝汐の攻めの甘さが出た。

 

 出羽の花は、左前みつ引きつけての寄り、上手出し投げで黒瀬川に力勝ち。先場所よりも得意の形を出せている。

 

 大寿山は右四つ左上手で鳳凰を投げ捨てた。十分の形を作ると剛腕力士も力を封じられる。

 

 高見山は右ワキがガラ空きで当たっていき、荒勢に差されて掬い投げにゴロリ。いくらなんでも腕の位置が高すぎ。もうちょっと何とかならんか。

 

 蔵間、左四つで寄って出たが、蔵玉錦が両廻し引きつけて吊り身に回り込み、蔵間外掛けでのしかかるも既に入れ替わって俵を背にしており、逆に体を預けられて土俵の外へ。懐の深さを活かせず。

六日目

 荒れる春場所、横綱、大関が去り、残るは2横綱と新大関。

 

 さらに波乱、横綱若乃花は連日腰から落ちて3敗目。休場に追い込まれる。魁輝相手に右四つ、下手から振ろうとしたが、小手に極めたままついて来られると、重みに耐えきれなかったようにひっくり返った。柳のようにしなる横綱らしからぬ負けっぷり、異変は明らか。おばちゃんの「あかんなあ〜」の声がため息とともに漏れる。もう1人が消えた。

 

 黒星スタートから立て直した新大関も、中盤の頭でまた躓いた。先場所もヒヤリとさせられた北天佑の下手投げに、今場所は一本足で踏ん張る前に体を預けられて踏ん張れず。左前みつを取る十分の体勢ながら逆転を許して2敗。

 

 しかし結びは王者が締めた。大潮の押しを張り差しで止めて崩して、すかさず押し出し。必ずしも受けるのではない、先手を取るのが北の湖の横綱相撲。大鵬とは趣が異なるが、相手の動きが読めて、体が勝手に反応しているようだ。

 

 屋根が軽くなって俄然存在感を増したのが両関脇。先場所の千代の富士に続けとばかり、揃って全勝をキープ。隆の里は舛田山を立合い右に動いての叩き。琴風は若島津をもろ差し一気の速攻で退けた。

 

 1敗力士。大錦は十両琴千歳を押し出し。鷲羽山も玉ノ富士を突っ込んでからの肩透かしで下した。

 

(その他)

 大寿山、十両の青葉城を右四つで寄り立て、うっちゃりを押し潰し。右四つでの強さを発揮。

 

 十両の高鐵山、ぶちかましから圧巻の出足で引き技に乗じて圧勝。

 

 荒勢ー黒姫山は、取り直しのあと、素首落としのような立合い叩きで荒勢。

 

 黒瀬川は腕を痛めて休場、不戦勝の垂れ幕を持った呼び出しは黒い縁のメガネ。勝負審判以外に土俵周りでメガネを掛けている姿は初めて見た。

七日目

 注目が集まる全勝の両関脇。

 琴風には蔵間。両者ワキを固めて当たり合い、琴風が得意の左差しで出るところ、蔵間が長身活かして右上手を掴んで体を開いての投げ。タイミング良く決まり、全勝の一角に土がついた。

 続いて隆の里。前ミツ狙い果たせず、富士櫻の突っ張りを宛てがっていたが、調子良く突っ張らせすぎたか、ハズに入りかけて土俵際に詰まった。突き落として逃れるが、さらに突っ張られる。それでも富士櫻の左が入ったところを、強引に小手投げで転がした。全勝キープ。

 

 

 横綱若乃花、この日から休場で、舛田山の不戦勝。上位は2人だけになった。

 

 その一角、前日2敗目を喫した新大関千代の富士。左前ミツ狙いが固まって一気に覚醒したように言われるが、相手も考える。蔵玉錦も左前みつ狙いで立ち、先にいい位置を取った。千代、半身になって堪える。胸が合うと一気に出られると苦しいので、上手を取れないときは右半身で深く差させず、反撃の機を窺うのは常套手段だ。蔵玉錦が右を深くして出るところ、右足一本で踏ん張って掬い、さらに反対側に回り込みつつ突き落とし。剛腕で左右に振られた蔵玉錦は、足がついていかなかった。

 

 久しぶりに一人横綱を務める北の湖は、張り差しで捕まえにかかるも、栃赤城突っ張りで応戦。北の湖が突っ張り返して出るところ、栃赤城が右で蹴返し。自ら右腰を見せる形となったが、右で掛け投げで粘ると、思わぬ展開で横綱のワキが開いたのを見逃さず左も入れて両差しに入ると、両肘張って休まず攻め立て寄り切った。北の湖も2敗。

 

 

その他

 巨砲栃光は長い相撲になった。予想通りというか、巨砲が左前ミツを取って頭をつけるいい体勢ながら攻められない。栃光は右下手半身ながら、こうなると腰が重く逆転もある。しかしこの一番は意外と巨砲の攻めがうまくいってこの体制のまま寄り切った。小結、好調5勝2敗。

 

 朝汐は、先場所新入幕だった若島津に不覚を取ったが、この日は前廻しを狙って来るのを突っ張りで寄せ付けず、押し出し。若島津はいまだ初日が出ない。

 

 同じく4枚目の玉ノ富士も7戦全敗。鳳凰に左差し右上手を許すと、一方的に寄られ、横に運ばれて土俵を割った。

 

 ベテラン2人は好調で1敗を維持。

 鷲羽山北天佑が突っ張りから叩くのに乗じて懐に入り、右下手出し投げで崩して一気の寄り。逆転の投げに傾いたが、際どく寄り切った。

 大錦は、魁輝が左四つで引きつけようとするのを差し手を手繰って横について寄り切り。老巧。

中日

  十両に落ちた闘竜、突っ張りからやや下がりながら岩波を叩き落とした。6勝1敗。

 

 十両の松山大寿山に右四つ許して腹を突き出しての寄りを堪えきれず。松山は、この場所自己最高位タイの3枚目で8勝。下に2枚で6勝の黒瀬川との比較で筆頭止まりとなった。もしあと1勝していれば逆の結果になっていたかも知れず、結果的に人生最大の入幕のチャンスを逃した。幕下時代に松葉山と名乗っていたが、なぜだか本名に戻り、その後関取になっても通した。

 

 白星先行の両者、佐田の海突っ込むが、左に動いた荒勢の上手出し投げにあっさりバッタリ。

 

 黒星先行の両者、黒姫山が当たって突っ張り、右差して出たが、飛騨ノ花回り込んで突き落とし。

 

 1敗鷲羽山、両手で当たってすぐ引いて麒麟児に手をつかせた。足も飛ばすような動き。

 

 同じく1敗大錦、前ミツを狙い、腰を割って下から中に入ろうとしたが、出足のついた高見山に体を浴びせられて腰から砕けた。

 

 2日休みで早くも再出場の黒瀬川、ハズに当てがったり、腰を落としたりして、徹底して青葉山の上手を防ぎ、怪力発揮させずに寄り切った。7枚目転落の青葉山、今場所も元気なく2勝6敗で折返し。

 

 頭で当たった若島津鳳凰に右上手を許すが、廻しを切って差し手を深くし、左膝を使って切り返しでひっくり返した。ようやく初日。

 

 舛田山が一気に出たが、出羽の花が踏ん張って投げで逆転、と思いきや足が土俵を割っていた。

 

 魁輝が左差し、さらに突っ張りで前へ出たが、うまくいなした栃光が逆襲し押し出した。

 

 朝汐大潮の当たりを顎に受けたが、受け止めて左四つ。まっすぐ前に出て寄り切った。

 

 栃赤城蔵間の突きを跳ね上げつつ、右足を飛ばして引っ掛けるようにひっくり返した。決まり手は、

 

 巨砲、離れて取ろうとする蔵玉錦になかなか廻しをもらえなかったが、前がかりになるところを叩きこんだ。

 

 全敗同士は、突っ張り合いからハズに掛かった富士櫻が一気に出て片目を開けた。玉ノ富士ストレートの負け越し。

 

 ストレートの勝越を狙う関脇隆の里に対し、北天佑は右のどわで突き上げて左へ回って両差し、振り払うのをまた突き上げて押し出した。新鋭の見事な相撲で全勝力士が消えた。

 

 1差となった千代の富士、鋭い踏み込みで諸手突きの巨漢天ノ山を圧倒、首投げにも崩れず寄り倒した。

 

 結び、1敗琴風が、北の湖に挑戦。立合い北の湖が両差しに入りかけたが、琴風何とか左差し。上手も引いたが、いかんせん腰が高く、横綱の吊り寄りになすすべなし。連敗で首位復帰ならず、2敗グループに飲み込まれた。

 

 

1敗  関脇隆の里、前10鷲羽山

2敗  横綱北の湖、大関千代の富士、関脇琴風、小結巨砲、前2栃赤城、前11荒勢、前12大錦

 

 北天佑の援護射撃で隆の里独走とはいかず、混戦模様に。すでに横綱、大関を破っている栃赤城も、残る対戦相手を考えると怖い存在だ。

九日目

 大寿山が大錦の寄りを回り込んで凌ぎ、逆に寄り切った。大錦3敗。

 

 張り差しから激しい突っ張りで出た十両の松山が、飛騨ノ花を押し出した。かなり顔面に入った。「アホー」と聞こえる荒っぽいヤジもよく入る。目と鼻の先にある大阪球場と客層が変わらない。

 

 勇んで当たったのは十両琴千歳、左差しで寄り、さらに突っ張り。しかし再び左四つに組むと、黒瀬川の鮮やかな上手出し投げが決まった。

 

 麒麟児が前ミツ狙う相手の腕を弾いて突っ張るも、うまく横からいなした出羽の花が押し出した。

 

 右四つになった左上手が伸びた黒姫山、寄って出ようとするところ、鳳凰の右下手投げにひっくり返った。ごつい腰回りの鳳凰、こういう形での投げは強い。

 

 左変化で上手を求めた青葉山。横について有利な体勢を作り、寄り切った。荒勢も3敗に後退。

 

 立ち合い右へ飛び違ってけたぐりを見せた岩波だが、効果なく、自分からつんのめったところを高見山にはたき込まれた。

 

 左四つ右上手の佐田の海。これをおっつけて出た魁輝だが、土俵際で突き落とされた。

 

 大潮が当たって突っ張ると、玉ノ富士あっさり下がって土俵を割った。ストレートの負け越し。

 

 蔵玉錦が右でおっつけて出れば、鷲羽山かわし切れず、電車道。2敗に後退した。

 

 朝汐、当たり勝つと、引いて栃光が前のめりになるところを叩き込んだ。

 

 昨日何とか片目が空いた同士。何とか突き手を跳ね上げて四つに組もうとする若島津だが、富士櫻の突っ張りを抗しきれず突き出された。

 

 頭で当たって突っ張り、ついで叩き込んだ北天佑が積極的な攻めで巨砲を下した。巨砲も3敗に後退。

 

 6連勝後連敗の琴風栃赤城の得意な右差しになったが、蹴返しかわして左上手。右も下手前ミツで出足駆って寄り切った。栃赤城3敗に後退。

 

 首位隆の里に挑むは天ノ山。隆の里は組み止められずに突っ張りに応じるが、天ノ山はさっとモロ差しに入ると、イチかバチかの首投げを掬い投げに返して転がした。痛恨の2敗目。

 

 蔵間が先に左前ミツ。千代の富士、すぐに切って押し戻し差し手争い。ひとまず左四つに組んで、探り合っていたが、千代、強引な右上手投げ。掬い投げを返しながら体を寄せた蔵間の勝ち。よく見ると、右手で足を押さえてもいる。

 

 腰を決めて舛田山の突っ張りを受け止めた北の湖、さっと右差して捕まえると吊り寄りで出て、最後は下ろして横方向へ寄り切った。磐石なり。

 

 隆の里と鷲羽山が敗れて1敗が消えた。横一線かと思いきや、千代の富士ら5人が3敗に後退。先頭4人1差に9人。どこまで荒れるのか。先場所と打って変わって優勝ラインが低くなったが、出遅れた北の湖が早々と先頭に並んで4場所ぶり優勝に虎視眈々。

 

2敗 横綱北の湖、関脇隆の里、関脇琴風、鷲羽山

3敗 大関千代の富士、小結巨砲、栃赤城、北天佑、高見山、出羽の花、荒勢、大錦、太寿山

十日目

 十両の青葉城いきなり叩いて呼び込みかけたが回り込み、突き押しで岩波を追い詰めてとったりで粘るのを押し出した。

 

 十両琴千歳、激しい突っ張りから左差して寄りと猛攻を仕掛けたが、土俵際飛騨ノ花が掬って堪え、さらに反対から突き落とした。

 

 好調大錦、立ち合いでいい角度で当たって左前ミツ。引きつけて一気の寄りで黒瀬川を電車道に運んだ。

 

 好調同士。荒勢の突進を土俵際素早く回り込んだ鷲羽山が間一髪叩き込んだかと思いきや、右足が蛇の目を掃いていた。3敗に後退。

 

 黒姫山がぶちかましから突っ張り、引き技を見せて防戦に回った麒麟児だったが、突き返して中に入ると、外枠に足を抱えつつ寄り切り。星を五分に戻した。

 

 佐田の海、立ち合い左へ飛んで叩くと、頭で行った鳳凰あっけなく手を着いた。

 

 立合いで出羽の花が得意の左前ミツ取って引きつけて寄る。しかし大寿山も遅れて上手を取ると、簡単に体を入れ替えて寄り切った。右四つの強さが光る。

 

 玉ノ富士は右に変化し上手を取る、左からハズで得意の割り出す格好で攻めたが、若島津よく粘って隙を突いて左裾払い。見事に決まった。

 

 舛田山も当たると見せて左へ飛び違ったが、変わるのが遅すぎて天ノ山当たりを食らってバランスを崩し、尻餅。そのまま後ろ回りしながら土俵下転落の憂き目に。弟子には見せられない醜態。

 

 今場所の波乱を演出した両雄の3敗対決栃赤城は右差し狙い、北天佑これをおっつけてから突き押しで攻めようとしたが、突っ張り返した栃赤城が前に出て、右を覗かせつつ寄り切った。

 

 栃光、両手突き。蔵間も応戦したが、栃光二本差して出る。土俵際苦しい蔵間を左膝を使って逃げ場を塞ぐ厳しい攻め、切り返し気味に右で突いた、と思いきや、ひっくり返ったのは栃光の方。

 

 既に7敗で後がない同士。両者額でゴツンと当たり合ったが、大潮がすぐさま体を開いて突き落とすと、富士櫻は目標を失って土俵下へ突っ込んだ。

 

 連敗で2敗グループに飲み込まれた関脇隆の里。難敵朝汐が突き放しにかかるが前ミツ狙いつつ前に出て、一方的に寄り切った。

 

 続いて、前日連敗を止めた2敗関脇琴風。低く当たって前ミツを探る巨砲に対し、左上手を取って胸を合わそうとしたが、巨砲は左も入れて双差しで低く食いつく。琴風は右も上手を取って引きつけようとしたが、そこを吊り寄りで攻められ、寄り倒された。

 

 昨日3敗に後退した大関千代の富士高見山に対して左、右と上手前ミツを取って引きつけ、棒立ちの巨漢を一方的に寄り切った。

 

 結びは北の湖、張差しで左四つに組み止めたが、蔵玉錦がフェイント気味に下がって右巻き替え左を浅い上手にして一気の寄りを見せ、横綱も一瞬虚を突かれたが、冷静に右に回り込見つつ右下手出し投げで這わせた。

 

 首位4人のうち、北の湖と隆の里が2敗キープ。3敗には後退した琴風、鷲羽山に両者を引きずり下ろした巨砲、荒勢、そして千代の富士ら8人の大集団に。

 

2敗 北の湖、隆の里

3敗 千代の富士、琴風、巨砲、栃赤城、鷲羽山、荒勢、大錦、大寿山

十一日目

トップの2敗2人を1差で8人が追う混戦で終盤戦に入る。

 

(前半戦)

 岩波、頭から低く当たったが、十両琴千歳が右へ動いて上手出し投げを決めた。岩波、幕尻で7敗目、後がなくなった。

 

 7人いる3敗同士。下位のベテラン直接対決。大錦はやや左に動いて上手狙い。これを果たすと、ぶちかました勢いで構わず出てくる荒勢を、左回りに動いて上手投げを決めた。

 

 右、左と差して寄る黒瀬川飛騨ノ花も左上手を引きつけて踏ん張り、右四つに持ち込む。さらに黒瀬川が右差しで出て行くところ、のけぞりながら上手投げ。両者同時に飛び出し取り直し。今度は飛騨ノ花が低く差し勝ったが、黒瀬川が喉輪から叩いて泳いだところを押し出した。

 

 3敗対決第2R。けたぐりにいった鷲羽山、これは不発も、大寿山が強引に小手に振り、今度は得意の右四つに引っ張り込もうとするも、好調の小兵は鋭く中に入って押し倒し。

 

 両手突きから上突っ張りの麒麟児青葉山を一方的に突き出した。

 

 大潮は左差すと、内掛けで牽制。鳳凰の右小手投げに乗じて左突きつけ寄り切った。

 

 黒姫山当たって左おっつけからいなすと、いまだ白星のない玉ノ富士、大きく泳いで劣勢。防戦を跳ね返せず押し出された。

 

 若島津佐田の海の突っ張りにたじろぐが、左のぞかせ回り込むと、流れで巻き落とした。

 

(後半戦)

 栃赤城、突っ張る高見山に右半身で下手を探るが果たせず、ここで伝家の宝刀、逆とったりが炸裂。自分から背を向けながら腕を絡めて俵伝いに回り込むと、高見山行き場を失って落ちた。3敗維持。

 

 新鋭北天佑、猛然と突いて出たが、蔵間が突っ張りで返して左四つ右上手。上手の遠い北天佑に対し、蔵間は寄ると見せての右上手投げ。逆を突かれた北天佑は堪えきれずに転がされた。新旧大器対決。先輩が力比べで上回った。

 

 例によって左前ミツ狙いの出羽の花を、朝汐が突っ張りで攻めるが、左四つに組む。馬力で圧しようとしたが、右前ミツを引きつけた出羽の花が腰を伸び切らせて寄り切った。大関候補朝汐、どうもパッとせず黒星先行。出羽の花は勝越し王手。

 

 右差し左前ミツの形を作った巨砲、やはり慎重で腰の重い天ノ山をすぐには寄れなかったが、右も前ミツを引きつけてから攻勢に出て、勝機逃さず寄り切った。巨砲にしては早かったじゃないか、とか言われていそう。やはり好調、3敗を守った。

 

 五分の星の舛田山は、そろそろ白星先行させたいところ。ぶちかまして右のどわが決まり、さっと引くと、反撃しようとする琴風は出鼻を突かれてあっけなく落ちた。4敗に後退。

 

 隆の里は廻しを狙って蔵玉錦のおっつけ、突き落としを受けたが堪え、左下手、右上手掴むと腕を返して寄り切った。首位キープ。

 

 千代の富士は突き押しの富士櫻に負けない当たりを見せて、突いて出た。下がりながらも富士櫻が突っ張り返すと、一瞬千代の腰が入りかけたが、反対に富士櫻がバランスを崩して手をついた。千代の富士、さすがの足腰なのか、それとも珍しく腰が入るくらいコンディション不良か。新大関が通る試練、贔屓の引き倒しか。

 

 突いてから右差しの栃光、左で北の湖の手首を掴んで右差しを防いでいたが、ついに破られ右四つ左上手。栃光得意のやや半身の体勢で構えて腰の重さを発揮したが、輪島戦でこういう展開は慣れっこの北の湖は逆四つで長引いても慌てない。徐々に胸が合い、引きつけが効く形になったところで上手投げを決めた。先場所二桁で下位から2枚目まで上げた栃光だったが、負け越しが決まった。このカード、24戦全敗。最終的に29戦完封の有名なカードとなる。

 

<2敗>北の湖、隆の里

<3敗>千代の富士、巨砲、栃赤城、鷲羽山、大錦

 

 2敗の2人は共に譲らず。3敗勢は、直接対決の敗者と関脇琴風が後退したが、5人が残って依然混戦で残り4日。明日は隆の里ー巨砲戦が組まれる。北の湖、隆の里、千代の富士もそれぞれ最終盤に顔が合う。

十二日目

 2敗で並走する北の湖と隆の里は?

 

 まず隆の里は、3敗巨砲が挑む。右相四つ、胸を合わせたい隆の里と、前褌取って頭をつけたい巨砲。まずは両者牽制しあってすぐには組まず。そこで巨砲がさっと二本差し。隆の里回り込みつつ右をこじ入れるが、巨砲再び巻き返す。ならばと極め上げて外掛けを放つが、残した巨砲が両差しで前へ。苦しい隆の里、叩いて回り込み、右おっつけから覗かせる。しかし巨砲、手首をつかんで争い、またもや両差しに入って寄り。右巻替えならず土俵際に詰まった隆の里、窮余の首投げで押しつぶす。足が伸び切ったが、わずかに掬い投げで返す巨砲を抑える形となって、物言いがついたが辛勝。

 

 結び、北の湖は徹底して突っ張る蔵間を左四つに組み止める。蔵間も左四つだが上手は遠く、小手投げで崩しにかかるも効果なし。両廻し引き付けた横綱が鋭く寄り切った。

 

 2敗2人は崩れず。直接対決に散った巨砲以外の3敗勢は?

 

 千代の富士は立合いで張り差し気味に右前褌。出ながら左も前褌を引き付けて、朝汐を圧倒した。

 栃赤城は右半身で当たったが、天ノ山のパワーの前に小細工もできず持っていかれた。

 

 12枚目の大錦は、3枚目舛田山戦が組まれた。舛田山の突っ張りで上体が置き、出鼻を叩き落とされて4敗に後退。

 

 鷲羽山は、飛騨ノ花に突っ張られて懐に入れなかったが、足元のお留守を突いての蹴返しでものの見事に這わせた。

 

<2敗>北の湖、隆の里

<3敗>千代の富士、鷲羽山

 上位戦を終えて不気味な存在だった巨砲、栃赤城が4敗目。優勝争いもいよいよ絞られてきた。

 

(その他)

 琴風富士櫻の突っ張りを押し返して寄り切り。給金。富士櫻10敗目。

 

 大潮が激しい突っ張りから左差し、若島津が下手投げで体を入れ替えて寄り切ろうとしたが、大潮は左差し手で突き落とし、若島津は膝が入りかけて踏ん張ったが、さらに掬い投げを放って転がした。ベテランが意地を見せた。

 

 北天佑が右で突いて左上手、そのまま首捻りを合わせて投げるが、大寿山残して右四つ。腰の位置が低い大寿山が優勢、土俵際で北天佑が左を巻き替えたが、構わず寄り切った。勝ち越し。

 

 高見山は突き放して出羽の花の左前ミツを切り、出足に任せて前に出て、右上手で捕まえ寄り切り。体力が生きて、両者7勝5敗。

十三日目

いよいよ佳境の優勝争い。

 

(前半戦)

 既に負け越しの両者、飛騨ノ花満山(十両)は投げの打ち合い、取り直しの後も縺れて物言い。2度目は飛騨ノ花の左上手投げが明らかに優勢だった。

 

 右差して走った佐田の海、しかし大寿山が捨て身の小手投げを決めた。佐田の海は勝ち越しならず。

 

 低い当たりを受け止めて右で抱えた鳳凰だったが、左を突きつけて出た岩波、7敗で踏み止まった。

 

 当たって突き放そうとした黒姫山。しかしさっと二本入った青葉山に密着され、何もできずに寄り切られた。

 

 荒勢は立ち合い大潮の当たりに浮き上がったが、うまくいなして回り込み、泳いだところを逃さず押し出して給金を直した。

 

 天ノ山が出足を駆って突っ張って出たが、突っ張りなら負けられないと、下から跳ね上げた麒麟児が反撃に転じ、真っ直ぐ西土俵へ突っ張り返して勝ち越し決定。

 63年の引退後、長らく北陣として部屋付きで指導、NHK解説でもお馴染み。停年となったが、すでに体調を崩していて、この記事を書いた令和3年4月、訃報が届いた。

 北の湖らを擁した花のニッパチ組として知られ、全盛期は昭和50年代前半。特にあの天覧相撲を戦った50年5月は、まだ入幕5場所目ながら3場所連続となる三賞を受賞し、翌場所新関脇。三賞11回うち5回を三役で受賞しているのは、実力の証。残念ながら昭和56年ごろは下降期に入る頃であまり活躍が見られないが、この日の一番は追悼記事に相応しい持ち味を発揮して実力者を圧倒した。

 

 出羽の花もらしい取り口で新鋭北天佑に快勝。突きをもらいながら低く前ミツを探り、まわしに掛かれば怪力で引きつけて左上手からの投げと見せて、送り足の膝裏に右手を引っ掛けて小股掬い。ものの見事に決まって勝ち越し。北天佑は後がなくなった。

 

 玉ノ富士は張り差しも右は差せず、左も固められて入らず。右は浅い上手前ミツで悪い形ではなかったが、いまだ白星のない焦りか、引き技に走って自滅。13連敗黒瀬川は踏みとどまって6勝6敗1休。

 

(後半戦)

 高見山、突き上げてから右差し左で抱えて出ると、蔵玉錦は右を返して残すが堪え切れず、投げで回り込みを試みるが土俵の外。高見山は2場所連続勝ち越し。調子を上げてきた。

 

 立ち合いで突き放そうとした栃光若島津も突っ張り返して左差し。栃光は右上手から巻き替えて双差しとなり、両上手引きつけて粘る若島津を寄り切った。

 

 栃赤城は突き放す格好から右差し。大錦の左肩に頭をつけて食い下がり、左も使って切り返すように寄り倒した。二桁に王手。

 

 3敗鷲羽山は前頭筆頭蔵間に挑む。当たってすぐに引いて右へ回り込み、飛び込んで一気に寄り切ろうとしたが懐の深い蔵間はよく残す。さすがに相撲勘鋭く、左差し抜いて、さらに横へ回ってうっちゃりにいったが、逃れ切れずに寄り倒された。ついに脱落か。

 

 舛田山が突いてから叩くが、好調巨砲は全てに反応して付けこみ、寄り切って9勝目。

 

 すでに7敗の朝汐、過去4戦4敗と合口の悪い琴風に突いて出るもすぐに引いて左四つに組まれたが、後半戦変調の琴風はそれ以上に不調で攻めあぐみ、長引いた末に朝汐が右上手引きつけて寄り切った。

 

 唯一の3敗となった千代の富士、トップに並ぶ二人とは対戦を残しており、まだ自力優勝の可能性が残る。まずは関脇隆の里を迎え撃つ。隆の里が勝てば、優勝争いは北の湖との2人に絞られる。大一番、隆の里は左を固めて肩で当たる。千代の富士も右を固めて肩で。隆の里の左が入ったが、左上手前ミツに掛かった千代の富士がこれを引きつけて出ると、やや当たり負けた隆の里は右を抜いて小手投げに行って墓穴。出足を助長させなすすべなく寄り切られた。

 

 北の湖富士櫻の突貫からの突っ張りを胸で受け止めて逆襲、あっという間に押し出し。13日目にして今場所初めて単独首位に立った。

 

<2敗>北の湖

<3敗>千代の富士、隆の里

十四日目

 岩波、突っ張りから懐に入っての押し。十両・大飛たまらず叩いて呼び込んだ。幕尻岩波7敗でまだ粘る。大飛は引退後に決まり手の追加や教習所での指導役として実務面で活躍、現在も参与として残る。現役時代は零細の大山部屋の所属、幕内は通算7場所に留まるが、最高位は前頭2枚目。十両でのキャリアが長く、この場所は十両に落ちて4年目。幕下での低迷を経て、しこ名も大登から改めてようやく4枚目まで戻ってきたが、11敗目。しかし同年九州にてついに再入幕を果たす。

 

 黒姫山が当たってすぐに体を開いて突き落とし、黒瀬川あっさり手をついた。再出場で頑張ってきた黒瀬川だが、これで負け越しの星。

 

 出羽の花がすぐに左前ミツ、小股掬いからの寄り。攻勢に出るが、腰の重い鳳凰も両廻しを引きつけて残す。廻しを切ろうとして、廻し待ったが入る。再開後、出羽の花が肘を張って出ようとするが、逆に鳳凰が吊り身に寄って、うっちゃりに傾きながらも寄り倒した。鳳凰、幕内残留に向け、貴重な白星。

 

 右差し左上手の高見山、グイグイ前に出て大寿山を寄り倒した。さすがにこの相手だと右四つでも勝手が悪い。両者9勝5敗。

 

 麒麟児、当たって突っ張り、大潮をよく見て突き出した。昨日に続く会心の突き押しで9勝目。

 

 天ノ山は終始突き放して距離を取り、大錦を一方的に押し出して勝ち越し。前半白星を稼いだ大錦は、結局二桁にも乗らず。

 

 頭四つ、また離れて様子を見合ったりして、右四つ。飛騨ノ花が左に回り、上手取って寄ったが、土俵際で左で掬いつつ体を入れ替えた玉ノ富士ようやく初白星。温かい拍手が起こった。飛騨ノ花は9敗目で陥落決定的。

 

 激しい差し手争いから左差し、右上手。右上手から強引に投げた若島津蔵玉錦を転がした。両者4勝10敗。

 

 栃赤城が右差そうとするが、荒勢がおっつけて許さず。すると右で小手に抱えて、体を開いて小手投げで仕留めた。二桁に乗せ、三役復帰濃厚。

 

 右喉輪で押し込んだ北天佑。残した栃光が右差して反撃。これを粘り腰で残した北天佑。廻し待ったのあと、さらに右差しで出られたが、これも驚異的な粘りで踏ん張ると、豪快な上手投げで力ずくでひっくり返した。7勝7敗で千秋楽へ。

 

 朝汐、どちらか差そうという立ち合いから、左四つに捕まえると止まらず寄って佐田の海を圧倒。両者7勝7敗。先代佐田の海も7-7がお好きである。

 

 勝ったほうが勝ち越し。左おっつけ右のどわで立った舛田山、さっと叩いて蔵間を泳がせ押し出した。本領発揮だが、叩き込みで注目されるのはもう少し先の話で、有望株なのに引き技が多いとまだ言われている頃だ。

 

 二桁白星をかける両者、蹴手繰りにいった鷲羽山巨砲が冷静に見極め、左から突き落とした。三賞争いでも重要な一番だった。

 

 大負けの富士櫻だが、この日は突っ張り炸裂で青葉山を圧倒。4連敗でストップ。青葉山は負け越し。今年に入って元気がない。

 

 3敗・千代の富士は、関脇琴風のぶちかましからの突っ張りに下がったが、琴風が出足を駆って右差して懐に入ろうとするのを回り込んで突き落とし。劣勢だったが、まだ余裕はあった。十両時代を含め、初顔から負け続けていたが、これでカード3連勝。このあと12連勝まで伸ばし、千代の富士覚醒を端的に表す記録として語られる。

 

 さあ結び、1差の対決。北の湖は左四つに組み止めようとするが、隆の里は両差し狙い。再三右を巻き替えを狙い、ついに入ったところで北の湖が抱えて前へ。右で掬って回り込めばチャンスだったが、左小手投げで力で土俵外へ放り出された。

 

 優勝戦線をリードしてきた隆の里は、直接対決で連敗しここで脱落。貫禄で2敗を守った横綱は、唯一3敗を守った千代の富士と、先場所と立場を入れ替えての楽日1差対決となった。本命視されながら共に初日敗れた両雄、苦しみながらもひとまず期待に応え、舞台を整えた。

 

<2敗>北の湖 <3敗>千代の富士  明日、楽日決戦!

千秋楽

 中入り前、各段優勝者の表彰があった。十枚目優勝は高鐵山(板井)、再入幕決定。所要わずか5場所で新十両、1年で突破し入幕も、怪我で転落していた。序ノ口は杉ノ森(旭富士)が制した。大学中退後のブランクを感じさせない勢いでこちらも所要6場所で新十両を果たす。

 

 十両闘竜が重い当たりからの突き押しで飛騨ノ花を蹴散らし11勝目。高鐡山が勝ったため優勝こそ逃したが、1場所での幕内復帰を決めた。前年3枚目まで上がったが故障休場、公傷明けの先場所も大負けしていた。ちなみに途中休場前に大関貴ノ花と当たっており、晩年には息子とも対戦している。13勝で優勝して再入幕の飛騨、あえなく10敗目で2度目も跳ね返された。

 

 佐田の海黒瀬川に押し込まれたが、掬って回り込むと、浅く二本のぞかせて寄り切り、勝ち越し。黒瀬川は苦しい星となったが、上位二人の引退もあり残留。再出場で6勝まで持っていった甲斐があった。

 

 両者二桁をかけた一番は、大寿山麒麟児を押し込み、突き返してくるのを叩き込んだ。再入幕、四つ身が通用しての二桁は自信になったようで、翌場所以降も勢いに乗る。上位戦を経験した同部屋の若島津に負けられない。

 

 大潮激しい当たり、左は入らなかったが、出足そのまま青葉山を圧倒した。両者6勝。大潮もいい時と悪い時ははっきりしていた。青葉山は先場所に続いて精彩を欠き、中位でも負け越した。 

 

 8勝同士。荒勢、すぐに動いてイナし、天ノ山の後ろについて送り出し。変化でも唸るか。天ノ山は強さも見せたが脆い負け方も目立った。

 

 北天佑大錦とワキを固めての押し合い。左四つに組むと、大きな上手投げ。力比べ制して勝ち越し。来場所は三役を窺う地位だ。

 

 幕尻岩波、突合いから低い押しを見せて玉ノ富士を圧倒し勝ち越し、残留決定。1勝14敗となった玉ノ富士の残留は難しく、片男波部屋の幕内力士が途絶えそう。

 

 スピードのある若島津が先に先に動いたが、左四つ右上手の形になった黒姫山が引きつけて寄ると、体格の差が出て堪えきれず。勉強の場所、11敗目。

 

 鷲羽山舛田山の懐に飛び込んで二本差し。ガブッて一気に寄り切った。10勝目。中盤まで優勝戦線も賑わし、三賞をやりたい活躍だったが。

  

 出羽の花、いつものように左前ミツに届いて攻めようとしたが、蔵玉錦も前ミツを引いて反撃。引きつけ合いから二本入って寄り切った。ようやく5勝目だが、押しよりも前ミツ引いての寄りが目立つ。

 

 右下手、やや半身のまま前に出た鳳凰、栃光が残すところを右下手投げ。豪快に決まった。本当に力強い。が、右の投げばかり目立って成績は6勝止まり。

 

 蔵間はさっと左で浅い前ミツ取ると、上手投げで高見山を転がした。勝ち越しに祝福の声が届く。7枚目で二桁白星に届かず終わった高見山だが、なぜか敢闘賞が転がり込んできた。

 

 東前頭筆頭朝汐は、栃赤城の攻めに後退したが、うまく土俵際引き落として勝ち越し。殊勲賞の東3枚目栃赤城は最後を飾れず10勝。三役陥落は1名、さて昇進はどちら?結果は、小結巨砲が関脇になって小結が2枠空き、両者揃って三役復帰した。現在でも小結11勝なら関脇を増枠して上がれる不文律は残っている。

 

 これより三役、まずは小結対決。富士櫻が突っ張るのを巨砲も応戦して跳ね返し、富士櫻も最後までよく突っ張ったが、ついに苦しく引いたところを巨砲が中に入ってドンとひと押し。両者なかなか引かず、白熱した。11勝の巨砲は技能賞。終わってみれば両関脇を上回る好成績で、大関候補に名乗りを上げた。

 

 揃って6連勝スタートだった両関脇、残念ながら後半伸びず。この日は琴風がおっつけて一気に出て、隆の里を圧倒。隆の里は10勝、琴風9勝。上位陣が2人だけというチャンスに、もう少し星を積み上げたいところだった。

 

 優勝を争って結びの一番で土俵に上がった両雄。先場所と逆に1差で追う千代の富士は、真っ向から当たるが北の湖も当たり負けせず、右で浅い上手。千代の富士も右を巻き替えて浅い両差しとなったが、右で引きつけての寄りに、逃れようがなく万事休す。前半戦はバタバタしたが、終盤に至ってよく腰が下り、安定感を取り戻した横綱。この日もスキなし。どっしり力強い寄りで、先場所決定戦の雪辱を果たし、4場所ぶりの賜杯奪還。春場所は5連覇。この年も荒れる春場所は看板通りだが、最後は割りかし収まるところに収まる。

 

 新大関千代の富士は何とか千秋楽直接対決まで望みを繋いだものの、不沈艦の前に完敗。対戦成績は決定戦を除いて1勝9敗とまだまだ強大な壁である。当たり勝って先に前ミツを引いて食い下がりたかったが、そう易々とは許してもらえない。右から差しに行っても胸が合ったら不利。先場所決定戦ではうまく右上手取って頭をつけたが、果たして攻略の糸口はー