昭和相撲史発掘 本場所編

昭和45年春場所

概要

トピックス

北玉新横綱場所

3横綱激戦

 

優勝

大鵬

31回目

横綱

14勝1敗

本割

 

三賞

殊勲 前乃山(2)

敢闘 陸奥嵐(3)

技能 錦洋(初)

 

記録

大鵬史上最多優勝回数を更新

 

歴史的観点

大鵬が意地見せ、北玉時代に待った。3強時代か

大関レースは停滞。4関脇とも二桁届かず

 

見どころ・名物

武蔵川理事長の見事な協会挨拶 万博にも負けず

夏みかん庄之助時代、抜擢制度の悲哀

4関脇の競り合い

貴ノ花の上位初挑戦

ピラニア旭國の長い相撲

豪快 暴れん坊陸奥嵐

京の名勝対決? 嵐山対大文字

腰高アンコ朝登悶絶 腹巻きテープ

新入幕 2代目増位山

上段ガラガラの府立体育館

 

前場所からの流れ

 王者大鵬は連続休場明け、4場所賜杯から遠ざかっていた。

その間、激しい先陣争いを経て、初場所で決定戦を戦った「北玉」が横綱同時昇進。柏鵬時代に代わって北玉時代の到来と世間は次代を観ていた。

 大関在位の長くなってきた琴櫻、新大関優勝も記憶に新しい清國の勢いもまだ衰えてはいない。5人揃って勝ち越した関脇・小結も実力者揃い。特に関脇は前年から顔ぶれが固定されていて、陣容は整っている。

 ただ、29歳の大鵬に対して、役力士はそれほど年齢差はなく、北玉はともかく、いかんせん地味さは否めなかった。待たれるのはスター候補。そんな中、2度目の入幕で二桁勝った新星が、新成人となって前頭3枚目に。ちょうど10年前の大阪で楽日全勝決戦を制した若乃花の実弟、貴ノ花が初めて上位に挑む。

 

この場所の成果

 注目の北・玉両横綱、そして復帰した大鵬による三つ巴の争いは、期待以上のハイレベルとなり、直接対決以外で三横綱の喫した黒星はわずか2つ。終わってみれば本割で大鵬の復活優勝となり、「不死鳥」ぶりを見せつけて、北玉時代到来の声をピシャリと跳ね除けた。苦戦することの多い新横綱場所で13勝の北玉も重責を果たしたが、大鵬休場の間に昇進を果たしただけに、「鬼の居ぬ間の―」との雑音を封じ損なったのは悔やまれる。

 柏鵬が昇進した頃の若乃花、朝潮は年齢的にも後退期で間もなくその座を譲ったが、大鵬は古傷の具合は心配ながら、しばらく鼎立の時代が続くことも、いや、まだまだ北玉を寄せ付けず一強に返り咲くことも考えられる。

 

 北玉と昇進レースを演じていた2大関は、ますます差をつけられてしまった。清國は前半戦こそ1敗に名を連ねていたが、先場所以上の失速。まさかの7連敗で負け越した。琴櫻は清國との2敗対決を制して横綱戦に挑むも、3連敗。二桁に乗せるに留まった。

 

 初場所活躍の栃東が加わって4関脇となったが、大関レースも盛り上がらず。栃東と長谷川は負け越し、麒麟児、前乃山も二桁に届かなかった。長谷川は大鵬に、前乃山は北の富士に土をつけて殊勲賞を得たが、実力伯仲で星の潰し合いを抜け出せない。小結の高見山は4勝止まり、龍虎は1大関3関脇破り勝越した。一時は大関に迫りながら連続一桁に終わった麒麟児は、翌場所から「大麒麟」と改めてギアを入れ直そうとするが、先に覚醒したのは...

 

 平幕上位では、若手の黒姫山、貴ノ花はじめ大敗が目立った。場所通じて金星もなく、寂しい結果に。上位陣との対戦は組まれなかったが、西4枚目の陸奥嵐が11勝で敢闘賞。ド派手な吊りなど大技で盛り上げた。東4枚目の20歳・錦洋も終盤までは同じ星取りで、こちらは最後に横綱・大関戦が組まれて9勝止まりだったが、初の三賞となる技能賞。そのほか、活躍と言えるのはあとは6連勝スタートで10勝の時葉山くらいか。左四つの型は素晴らしかったが、いかんせん地味で三賞には届かず。新入幕の増位山は、千秋楽三重ノ海に8敗目をつけられて、惜しくも転落。

 十両からは、前の場所に続いて好成績を残した大受、和晃らが入幕を果たした。大受の押し相撲はすでに全盛期と遜色ない完成度。筆頭で14勝1敗として、いきなり幕内中位に陣取りそうだ。なお、幕内最年長の30歳・十文字が転落。翌場所大鵬と大雄が30歳となるが、非常に若いというか力士寿命の短い時代である。

 琉王(沖縄出身、まだ本土復帰前)ら5人の新十両は全て勝ち越すなど下位が負け越さず、陥落は1人だけ。筆頭で4勝の磐石、5枚目5勝の花錦(のち魁傑)は幕下筆頭に留め置かれ、その1枠を手中にしたのは付出デビューから初の連続優勝を果たした輪島である。

 

時代背景

 理事長の挨拶でも触れていたが、昭和45年3月の大阪といえば、万博開幕。春場所初日が8日、14日が万博開幕。そのせいかどうか、平日の上段席は閑散としている。平成20年前後のごとし。新横綱2人、新鋭貴ノ花の上位初挑戦など話題豊富だったが...

 当時は春場所がハネると開幕したセンバツ。もちろん入場行進曲は「世界の国からこんにちは」。万博ムード一色である。西高東低で、ベスト4は近畿、中四国のみ。決勝は近畿対決となり、延長12回の大熱戦の末、粘りの箕島が初優勝を果たした。ムードとしては、北陽が大阪に紫紺の優勝旗を持ち帰るかと思われたが、勝越した10回裏、あと1球から同点打を浴びた。なお、前年の三沢・太田幸司に続いて、箕島の島本が大人気で甲子園は連日超満員。万博を言い訳にできない。同年九重部屋に入門した千代の富士も、「大鵬は知っていたが北の富士は知らなかった」らしい。角界は試練の時を迎えていた。

 10日目にはチェコスロバキアからボヘミアガラス製のクリスタル杯が贈呈された。今なお続くチェコ国友好杯は、万博モードによってもたらされた。39年のソ連御一行に続いて東側諸国との融和の象徴、というのは安易。その6年の間にソ連の政権も変わり、チェコスロバキアの民主化の動きは、ワルシャワ条約機構軍に踏み潰された。杯の贈呈は、フサーク第一書記による「正常化政策」を進める政権下の出来事である。

 歴史は繰り返すというが、次の大阪万博ごろに、某国(チェコ杯を初めて受けた力士の父の祖国)の傀儡政権から記念カップなど贈られていないことを祈るばかりである。

序盤〜中盤

3横綱競り合う好展開

 横綱不在が続いていたが、2大関の昇進と大鵬の復帰で豪華3横綱揃い踏みで春は開けた。期待に違わず新旧横綱は安定した相撲ぶりで初日から白星を重ねていく。休場明けの大鵬、左肘や膝の古傷はもはや爆弾といえるリスクを孕むが、気遣いつつも組んでよし、離れてよし。

 7日目、大鵬が長谷川に張り差しから攻め込まれると、思わず俵の外に左足を踏み出した。土俵の感覚が鈍っていたとは考えにくいが、大横綱らしからぬあっけない黒星。すると結びで北の富士も敗れた。前乃山の激しい突っ張りに劣勢、先に左を深く差され、防戦一方で土俵を割った。

 余談ながら、横綱初黒星を喫した相手は同門のホープ。この年、決定戦を戦ったり、新大関場所前に骨折させてしまったり。はたまた平成に至っては、理事選で前の山が強行出馬した煽りで理事長候補と言われた北の富士が退職に至ったりと因縁の相手となる。

玉乃島改め玉の海は隙なく全勝をキープ。危ないといえば中日に麒麟児に下手投げを打ち返されて吹っ飛んだが、上手から押さえつけており、物言いもなく投げ勝った。単独トップで終盤戦に臨む。

 初日黒星の両大関は持ち直し、清國は1敗で追いかけていたが、長谷川の左四つ速攻に屈して2敗。10日目相星で大関対決となり、2敗を守ったのは出足に勝った琴櫻。3敗となった清國は苦しくなった。

 

4関脇は一進一退

 小結で10勝して東関脇の栃東は、中日から横綱戦3連敗で黒星先行。麒麟児も上位戦で目が出ず五分の星。序盤出遅れた長谷川は大鵬に土をつけると、7連勝中の清國も止めるなど復調、やはり五分。連敗スタートも、北の富士と琴櫻を破った前乃山が唯一白星先行。いずれも大関への足固めには厳しい星取りとなった。

 

平幕勢

 横綱が引っ張る優勝争い。関脇から平幕上位が立ち入る隙はなく、若手の黒姫山、貴ノ花も大苦戦。筆頭の藤ノ川が俊敏な相撲で序盤3関脇を破ったが、中盤横綱大関には蹴散らされ、三役復帰は厳しそう。

 中位以下も時葉山が2敗、錦洋、陸奥嵐が3敗に残っているくらいで目立った活躍力士は見られない。

 

⭐️ピックアップ

東2 貴ノ花

二十歳を迎え、上位初挑戦。初日から健闘を見せるが、真っ向勝負では隆々たる体躯の役力士に敵わず、なかなか目が出ない。大関初挑戦の清國戦は、張り差しで右を深く差されて力負け。横綱初挑戦では同門・玉の海に右四つから再三巻き替えて左四つで食い下がる体勢を作ったが、徐々に胸を合わされ吊り寄りに屈した。北の富士にはよく食い下がり、横から寄って土俵際へ追い詰めながら、下手投げから背を見せつつ回転した横綱の身のこなしに逆転を許した。そして大鵬戦は、突き放しを堪えて食いつこうとしたが、右を差されて動けず、赤子の手を捻るが如く上手投げでペシャリと潰された。初日が出ないまま終盤へ。

 

東8 時葉山

再入幕2場所目、先場所感心した左四つ右上手の寄りの型が結果につながり6連勝スタート、10日目に勝ち越した。

 

西1 藤ノ川

序盤3関脇を破る好スタートも、5日目から5連敗。横綱大関相手には見せ場を作れなかったが、前の山を足取りで下し、高見山は両差しから瞬間芸のような二枚蹴りで鮮やかにひっくり返した。

 

西4 陸奥嵐

先場所高見山を強引に持ち上げて自損した影響を微塵も見せず、派手な相撲ぶりは健在。6戦全勝の時葉山も外掛けから刈り倒し、9日目は左四つから二子岳が上手を切りに来るのを構わず、上を向いて強引に抜き上げると、荒々しく吊り落とし。翌日も旭國を反り返って吊り落とし気味に俵の外に叩き出した。

 

東4 錦洋

若々しく元気いっぱい。前掛かりで落ちることもあるが、迫力ある出足がよく見られた。

 

前3 高鉄山

立合い前に手に唾して擦り込むタイプ。松登だけかと思っていたら、昭和40年代にもいらっしゃった。突き押しを武器にするが、あまり前に出る馬力はなく、割とすぐ叩く現代的な相撲ぶり。それでも大崩れはしない。

 

東11 朝登

上位で数場所取っていたのに、一度大負けしたら下に1枚の位置。厳しい時代だ。6日目陸奥嵐戦で珍しく巻き替えに拘って双差しになったものの、定石通り一気に出られて突き飛ばされ、土俵下で胴体を強打。悶絶して土俵に戻れず、相手も下りてきて心配する大騒ぎとなった。翌日から腹から脇腹にかけて大きなテープ?を貼って出場、影響を感じさせない機敏な動きを見せるが、肝心の馬力が発揮できずに中盤は負けが込んで残留ピンチ。

 

西9 旭國

左差しでしぶとく、長い相撲を厭わない。後年代名詞にもなった関節技のようなとったりも繰り出している。大雪には下手から鮮やかにひねり。福の花には外掛けでのしかかられて腰が入りながらも玉砕的吊り出し。食いついた時のしぶとさピラニアの如し。

 

東8 戸田

突き押しを武器にしつつも、右差し速攻や、抱えて体を入れ替える逆転技など意外と幅広い取り口を披露。6日目、7日目と連日微妙な判定でもあっさり軍配を受ける運の強さは相変わらず。10日目、低く真っ直ぐな弾道で突っ込んだが、当たった瞬間勝手に落ちる珍プレーも。

 

東7 栃王山

好調時葉山が左差しを狙うのを厳しくおっつけつつ、飛びかかるように足を取って倒す名人芸を披露。

 

西5 大雪

入幕2場所目は7枚上がって5枚目。6日目三重ノ海に両下手引き付けられて廻しが緩み、縦ミツも結び目は外れ、大きくズレ、何とか廻し待ったに入ったが、動きが止まらなかったが危なかった。与太夫、早く止めろと叫んでしまった。しかし、この日に限らずユルフン

 

西9 三重ノ海

22歳だが老練な取り口で、張り差しや変化、突っ張りの中で意図的に張り手を交えてさっと左を差し速攻。頭をつけて小股掬ったり、大物感がない。

 

西11 増位山

力技には体力負けするところはあるが、新入幕らしからぬ飄々と自在な相撲ぶり。福の花に吊られながら、土俵際で反り技を見せてもつれさせる変幻ぶり。抜群の足腰でうっちゃろうとするが、体が割れずに真後ろにひっくり返る場面が目立った。

 

東12 嵐山

やや体が小さく、奮闘するものの力負けが目立った。大文字との対戦は「京都の名勝対決」っぽいが、岐阜の出身で京都に縁はない。

 

十1 大受

前の場所準優勝し入幕へあと一歩。好調を維持して持ち前の押し相撲を展開、ストレートの勝越しで新入幕有力に。

 

 

優勝争い

全勝 玉の海

1敗 大鵬、北の富士

2敗 琴櫻、時葉山

 

連敗の清國が3敗に後退したが、上位陣は役割を果たしている。非常に締まった展開で推移した。

十一日目 全勝玉の海に2敗琴櫻が挑む

 

増位山は、十両和晃の寄りをうっちゃろうとするが、体が割れずに背中から倒れては軍配をもらえない。こうした玉砕的なうっちゃりは今場所2度目だが、ケロッとして起きるあたりに心臓の強さが伺い知れる。

 

平幕唯一の2敗力士時葉山は、8枚目なのに上位戦抜擢どころか十両相手。幕下と三段目の全勝力士が当てられることはあるが...しかも十両優勝争いを引っ張る大受にうまくいなされて3敗目。

 

肩幅の広くいつもは外から挟みつける朝登だが、右深く入って掬い投げで若浪を破った。

 

トリッキーな動きから半身で左差しを狙った大文字だが、見事に失敗して左から抱える形に。それでも足を絡めて強引な掛け投げで大竜川を下した。

 

張り差しで右が入った栃王山、左も入れて両差し。三重ノ海が挟み付けて一気に出たが、土俵際で掬って体を入れ替えた。

 

旭國は左を差し損ねて淺瀬川に両差しを許し、首に巻いて粘って何とか振りほどいたが、前傾になったところをうまく肘を引き落とされた。

 

大雪は注文相撲。左変化で戸田を突き落とした。

 

不振同士。小兵の嵐山が横から横から攻めて、大兵若二瀬を翻弄した。

 

左のどわ右おっつけで突き放そうとする福の花二子岳が堪えて右差しで懐に入りかけたが、福の花が上手を取って応じると、ガクッと膝を着いてしまった。決まり手鯖折りだが、意図したものではない。

 

大雄が突き起こし、さらに二本差し。それでもしぶとい貴ノ花を、最後は右差して胸合わせ吊り出した。貴ノ花は11連敗

 

張り手混じりの激しい突っ張り合いから、高鉄山が右四つ左上手取って寄ったが、龍虎が下がりながらの上手投げ、土俵半周、頭を抑えて投げ転がした。上段から張られた左頬が気になる様子。

 

高見山立ち合いから突き起こせず、錦洋が低く頭をつけると、引っ張り込もうとするところに体を寄せて、寄り切った。

 

関脇対決。両手突きから叩いた前乃山栃東あっけなく落ちて後がなくなった。前の山は指を突いたか、気にする様子。

 

張って右上手、左四つに組み止めた長谷川陸奥嵐の強引な吊りにを外掛けで防いで腰が入ったところを下手投げ。打ち返されてもつれたが、相手の体がなかった。白星先行。陸奥嵐は勝越しお預けで4敗目。

 

低く当たり合ったが、麒麟児が二本差しに成功。打開しようとした清國だが腰が起きてあっさり寄り切られた。3連敗。

 

突っかけた北の富士、右手振り上げ張り手の形。二度目で立つと黒姫山の突き上げに遭ったが、引き技で沈めた。

 

手を着いて立った藤ノ川大鵬の突き起こしからの引きに一回転して対応したが、左を差された。前傾で構えたが、肩透かし気味に叩き込まれた。

 

結びは直接対決第1ラウンド。手を出しながら琴櫻を右四つに組み止めた玉の海。すぐに寄って出て、回り込むところを右外掛け。

 

 

2敗琴櫻の挑戦を退けた玉の海が全勝を守り、1敗の2横綱も譲らず。優勝争いは横綱陣に絞られた。

全勝 玉の海 

1敗 北の富士、大鵬

十二日目 追走2横綱は大関戦

 

 大関より先に横綱玉の海登場。3横綱2大関なので、横綱大関戦が2番組まれると、こういうことが起こる。4枚目で8勝3敗と好調の新鋭錦洋が捕まらないよう前傾で突っ張ってきたが、応戦すると前がかりになったところを叩き込み、上手投げを打つように頭を抑えつけて押し潰した。

 北の富士は、張り差しから左ハズ、さらに左下手右上手で猛進する清國を、土俵際辛くも体を開いて肩透かし。突っ伏した清國は給金目前で4連敗。

 大鵬は3敗に後退した琴櫻の突進をカチ上げからの突き放しで何度も跳ね返し、冷静に見極めて叩き込み。

 3横綱とも得意の形は作れず、引き技で勝った。北の富士、大鵬は連日の引き技。残り3日。いよいよ直接対決、緒戦は玉の海ー大鵬が激突する。

 

全勝 玉の海

1敗 北の富士、大鵬

 

(そのほか) 

 おっつけて左差しの長谷川だが、栃東もしぶとく両まわし離さず、力ずくで寄って出たが、土俵際の投げで逆転。栃東、軍配貰ったとは知らず、引き揚げかけたが勝ち名乗り。

 多少期待していた節は見受けられるが、微妙なのは自分の負けという謙虚さが美徳の時代。懸賞金が珍しく、手刀と同時に帰ろうとして戻されるケースもよく見る。

 

 麒麟児は注文相撲で高見山を叩き込み。完全に思い切って仕掛けた。

 

 小結龍虎藤ノ川との激しい突っ張り合いから右四つに組み合うと、左上手から力強い投げ。五分の星。筆頭藤ノ川は負け越し。

 

 若浪が狙い済ました蹴手繰り。蹴ると言うよりすれ違い様に足を引っ掛けるような形。突っ伏した高鉄負け越し。

 

 貴ノ花は珍しく立ち合いから中途半端に叩く消極策。しかも決まらず黒姫の突き押しに遭ったが、辛くも跳ね除けて双差し。懐に入って何とか寄り切り、待望の初日を出した。逸って危うく踏み出しかけた。

 

 福の花は激しい突っ張りで朝登を圧倒。前に倒れたが突き倒し。

 

 大文字栃王山に食いつかれてやや半身だったが、足を微妙な位置に置く。相手が膝を送って切り返し気味に攻めてきたところ、逆に内から足を引き上げて河津掛け。巧者をうまく誘ったかのようだ。

 

 早々に突っかけ合い、時間前に立ったが、戸田が鋭い当たりから突き押し、叩きを決めて、好調時葉山に廻しを掴ませず。

 

大雪ー若二瀬戦でアクシデント

 攻防の末に下手投げを決めた大雪が二字口で蹲踞し、手刀を切って踵を返そうとするが、何度手刀を切って引き上げかけては戻る。画面には映らないが、行司が勝ち名乗りを挙げない様子。周りから「ダイセツ、ダイセツ」の声が漏れ聞こえ、ようやく呼び上げられて、大雪は土俵を下りた。観衆の大爆笑につられて、呼び出しと談笑、苦笑い。行司今朝三、やらかした。まさかの四股名ド忘れの様子。

 のちに糖尿が悪化した影響で、転倒など色々やらかしてしまうが、当時から影響があったのだろうか。これが原因かは不明だが、この7月で二代目今朝三を返上して元の筆之助に戻している。

十三日目 横綱対決 全勝玉の海ー1敗大鵬

 

優勝争い

 大一番は結び前、かつて同じ二所ノ関部屋に所属した両者が、横綱同士となって初対決。左前ミツを狙う玉の海、これを突き放して右差しの大鵬。深く差されては分が悪い玉は、おっつけから喉輪で突き離し、再び突っ張りの応酬に。前哨戦は前捌きの天才大鵬が制し、跳ね上げて左差し、深々とねじ込んで結び目の向こうの下手を掴む。玉の海は左上手を取ったものの、一枚。何とか回り込んで右も肩越しに上手を取ったが、およそ機能するものではない。大鵬に二本差されて諦めないのは彼くらいだろうが、大鵬も捨て身の投げなど食わないよう、腰を割らずに引いて巻き替えの隙も与えない慎重な構え。たまに白鵬も見せていた、あえて両脚が揃った「くの字」の構えを見せていた。どうしようもなく、右から上手投げを打ちつつ打開しようとしたが、大鵬の想定内。きっちり腰を入れての下手投げを打ち返されて、万事休す。先輩横綱が貫禄を見せて、ついに横綱玉の海初黒星。

 好機が巡ってきた北の富士琴櫻の突進を受け止めて右差し、反撃。左もこじ入れたところを再度琴櫻が出てきて、慌てて左抜こうとして挟み付けられ、何とか外れて突き落とした。しかし左腕を垂らし、脱臼でもしたかのような苦悶の表情。テーピングのある肘か、それとも肩か、筋肉か。3日連続下がりながらの白星、ついに代償を負った。

 けれども星の上では三横綱が再び横一線。最高の展開で残り2日間。明日は北の富士と大鵬の相星対決だ。

 

1敗 北の富士、玉の海、大鵬

 

そのほか

 後がない栃東が低く当たったが、清國に右四つに引っ張り込まれる。大関が左抱え右から掬って力ずくで寄り倒そうとするが、踏ん張って反対に上手投げ。まさかの力負けを喫した清國は給金目前で5連敗。急に怪力が発揮できなくなった。

 7勝5敗同士の関脇対決は、前乃山が右変化。泳いだところをすかさず横から攻めると、麒麟児背中を見せて逃れようとしたが叶わず、送り出された。二桁に望み。(「相撲レファレンス」では、決まり手「吊り出し」となっているが、誤りか。信頼しているが、たまーに見つけてしまう)

 長谷川錦洋を張り差しで左四つに組み止めたが、低く当たった新鋭の勢いが勝り、食いつかれて寄り倒された。

 手に唾した高鉄山戸田との突っ張り合いは一進一退となるが、右を入れると一気に寄り切った。

 下1枚で7敗と転落危機の朝登。筆頭でこちらも7敗の十両照櫻との入替戦的な取組。腹のテーピングも取れないが、突いて叩いての必死の相撲で、最後は突き落とし。

 先場所に続いて十両優勝を争う両者。直接対決は、1敗の大受が押し相撲で3敗和晃を圧倒した。後続に3差をつけ、早くも優勝決定。

 

のちの横綱・大関は

 貴ノ花は、嵐山の突っ張り凌いでこの日も双差しに、背を向けて逃れる相手を送り出して連勝。

 増位山は踏み込んで左を覗かせるとすぐに肩透かしを引き、右も入れて速攻な出たが、若二瀬は素早く左を巻き替える。このまま寄っては巨漢に胸わ合わされかねないと慌てて後退、今度は大きく体を開いて右上手からの投げで這わせた。独特の引きずり投げ、新入幕の頃から決めている。

 三重ノ海は突っ張り合いから足を飛ばしたのが悪く、大竜川に双差しに入られて寄り切られた。

 6勝6敗の旭國は、内蔵の病気でこの日から休場。翌場所は残留するが、その後も病気に悩まされ、しばらく十両で低迷する。 

十四日目 三横綱横一線 北鵬激突

 

3横綱の優勝争い

 3横綱がハイレベルで並んで最終盤。直接対決2回戦。左相四つ。立ち合い、北の富士は右前みつに手を伸ばしたが、大鵬に突き放されて果たせず。大鵬がさらに突っ張ると、北の富士も対抗。そして右、左と入り、得意の速攻に掛かった。ところが、さすが大横綱の勝負勘。左で首に巻いての逆転の投げ。願ってもない形で北の富士は慎重さを欠いたか、たまらず横転、下敷きになった。1敗を守ったのは大鵬。北の富士は前日痛めた左肩の影響は感じさせなかったが、焦りにつながったか。

 両横綱戦を終えた大鵬が首位を守ったことで、今日敗れれば玉の海も自力優勝がなくなる。清國との突き押し、いなしの応酬となったが、機を見て左から肩口を突き、清國がたたらを踏んだところを追撃、突き倒した。1敗を堅持し、ライバル北の富士との新横綱対決へ。

 

千秋楽展望

 千秋楽、考えられる展開は4つ。せっかくなら巴戦が見たいがー

 

○玉の海ー北の富士●、大鵬○ →決定戦(玉・鵬)

○玉の海ー北の富士●、大鵬● →玉の海優勝

●玉の海ー北の富士○、大鵬○ →大鵬優勝

●玉の海ー北の富士○、大鵬● →巴戦(北・玉・鵬)

 

役力士

 琴櫻は立ち合い突っかけたあと、今度は頭で当たってすぐ左へ動き、振り向いた若手の錦洋を押し出した。何だかしょっぱいが、9勝目。

 関脇対決。右差し勝った麒麟児だが、慌てて出たところを栃東に上透かし気味に叩き込まれ、両者7勝7敗。

 関脇・小結の対戦2番。長谷川高見山に下手を許すと、回り込んで投げようとするのを渡し込まれて背中から落ちて負け越し。場所ぶりに関脇の座を明け渡す。

 左上手の早かった龍虎は、右外掛けと攻め続け、これを嫌って外した前乃山の左足は俵の外。龍虎勝ち越し、前乃山は6敗目で二桁ならず。役力士は実力均衡、誰も抜け出せない。

 

平幕勢

 平幕は上位の不調者と下位力士がよく組まれる。11枚目(下1枚)7敗の朝登には迷惑な取組編成だが、貴ノ花を突っ張り合いからの突き落としで破り、7勝目。給金を千秋楽にかける。

 三重ノ海が名人芸。若二瀬に廻しを与えず、出際を鮮やかな出し投げで決めた。

 陸奥嵐がまた無茶苦茶な吊りを。左が差せず首に巻く形となったが、そのまま栃王山をむりやり腹に乗せて吊り上げ、暴れて降りたところを突き出し。

 いつも時間前からの仕切り姿が記録される時葉山。時間前に相手が応じないときには、毎回化粧立ちよろしく変なポーズを取ったり、時折流れで相手を軽く小突いたり。ようやく5回目で時間前(この人だけ制限時間ないのか)に立ったが、蹴手繰り空振りの大雪が必死におっつけて防ぎ、最後内無双のような手前への引きに這わされた。

 

 増位山突っかけ、大文字は蹲踞のまま横向いて右手を突き出す剽軽な待った。両者手を出して立ち、攻防の中から増位山が足を狙い、そのまま渡し込むように倒した。下半枚の新入幕、千秋楽に勝ち越しをかける。下1枚半の大文字は負け越し。千秋楽は、この日戸田を破って勝ち越した十両2枚目の栃勇との入れ替え戦に臨む。入幕確実が2人、栃勇は3番手候補となるが、増位山が勝ち越せば陥落候補が減り、場合によっては6勝で途中休場した旭國も落とされるかもしれない。

 

千秋楽 三横綱の争い ついに決着 

 

優勝争い

 結び前、1敗の張出横綱大鵬は、大関清國を迎え撃つ。右おっつけ左喉輪で押して出ようとした清國だが、大鵬は右から肘を押し上げて喉輪を外し、さらに右から厳しくおっつけると、なおも押して出ようと前掛かる清國を冷静に叩き込んだ。先勝。清國は7勝1敗から負け越し。

 結びは先場所に続いて北玉決戦。直前に北の富士の優勝は消えたが、このカードでは気を抜くわけにはいかない。喧嘩四つの両者だが、まずは前哨戦は組み勝とうと突っ張り。激しく突っ張って前へ出つつ左四つに組み勝ち素早く寄り、俵に詰まった相手を煽りつつ右上手。すかさず投げを打つと、玉の海たまらず転がった。玉の海、北の富士とも2敗で新横綱の場所を終え、1敗に残った大鵬に惜しくも及ばなかった。

 北玉時代到来と期待された春は、両新横綱を跳ね返した大鵬が締め、31回目の優勝を飾った。簡単には王座は譲らない。この場所から始まったチェコスロバキア友好杯は、東欧ウクライナ人を父に持つ大鵬に贈られた。

 

役力士

 千秋楽に勝ち越しをかける栃東は、琴櫻が左おっつけて前へ。入れ替わって俵を背にしたが、両手で突いて跳ね返して攻勢、うるさい相手を食いつかせずに押し出して10勝目。7敗から粘っていた栃東は負け越し。

 胸で当たり合って左差し合ったと思いきや、すっと右も差した麒麟児。左を首に巻いた長谷川の抵抗に構わず吊り出して勝ち越し。9敗となった長谷川は、8場所維持していた関脇だけでなく三役の座も明け渡した。

 左四つで胸を合わせた前乃山。右も入れて寄り、腰の重い淺瀬川相手で時間がかかったが、最後は左四つで圧力をかけ続けて寄り切り。9勝目。

 このあと10年に渡って名勝負を演じる好カードの、初対決から1年のブランクを明けての2回戦。貴ノ花がスパッと両差し。高見山が両方抱えたまま強引に吊り上げ悲鳴が上がったが、貴ノ花が足を掛けて降りると下手投げでひっくり返し大歓声に。

 

珍手 

 陸奥嵐が河津掛け。龍虎の突っ張りを跳ね上げて差し手争いに持ち込み、これを制して左四つ。半身に構えて龍虎の攻勢、外掛けも振り払うと、今度は自分から内掛けに出てさっと後方に捻り倒した。十八番が飛び出し十一番。

 二子岳は内無双。黒姫山の突っ張りを堪えておっつけながら、一瞬左から膝を払って引いた。目にも止まらぬ離れた状態からの無双。名人芸。

 大竜川が蹴手繰り。突っ張り合いから若二瀬の足元が留守になったのを見逃さず、足を飛ばした。

 

その他 

 藤ノ川は突っ張りで若浪を退けた。突き放されると弱い若浪は、3連敗で負け越し。

 錦洋は勝ち越しのかかる福の花に捕まって上手投げに敗れたが、他の若手が苦戦する中、4枚目で9勝。押し相撲が評価されて技能賞を受賞した。

 時葉山高鉄山を掬い投げで下して10勝したが、こちらは三賞なし。

 大雄大雪を吊り出した勢い余って、組み合ったまま溜席まで縺れ込んだ。大雪が何とか止まろうと、手で押さえたのは、観客の頭。コラコラ。

 栃王山が両差しで嵐山を圧倒し待望の給金直し。差してからの流れ、詰めも素晴らしい。

 三重ノ海に押し出されて東方審判に乗っかった増位山、負け越して初の幕内は1場所で転落。

 大文字は張って右から攻めたが、土俵際入れ替わられて土俵を飛び出し苦笑い。十両栃勇は9勝目で昇進有力、9敗目の大文字は陥落濃厚となり、以降再入幕はならなかった。

 朝登は十両魁罡を突き落としから反撃して押出し、怪我にも負けず3連勝で勝ち越し。残留を果たした。