昭和史発掘 本場所編


昭和39年初場所

概要

トピックス
大鵬が2度目の全勝、双葉山に並ぶV12
栃ノ海が横綱昇進、3横綱に
俊英が活躍 入幕2場所目清國が14連勝、新入幕北の冨士も13勝


優勝
大鵬
横綱
15戦全勝
楽日本割

1差 清國

 

三賞

殊勲 大豪

敢闘 北の冨士
技能 清國

 

記録
大鵬通算優勝回数1位タイ(当時)
北の冨士 新入幕場所最多勝利記録(現在も)
最多懸賞記録 14日目大鵬ー栃ノ海(当時。平成17年まで)


歴史的観点
大鵬が6連覇以来4場所ぶりの優勝、全勝で覇権奪回
栃ノ海が横綱昇進、第1期柏鵬並立時代に幕
のちの横綱、大関の活躍、蹉跌


見どころ・名物・お約束
綱取り横綱の鋭い変化
日常的なうっちゃり合戦
水入り取り直し
柏鵬時代の名脇役の技
若羽黒、出羽錦のロートルっぷり
既に幕内格!変な掛け声
時津風理事長挨拶
テンテンバラバラな土俵入り、協会挨拶風景


前場所からの流れ
 既に11回の優勝を果たして圧倒的な存在となっている大鵬。しかし、6連覇後の直前3場所は優勝を逃している。半年もブランクが空くのは初優勝以来初めて。2場所前には柏戸との楽日全勝決戦に敗れ、前場所も大関栃ノ海との直接対決に敗れた。独走から一転、ライバル達の浮上を許すスキを見せてしまった。唯一無二の存在に君臨するため、賜杯の奪回は至上命題となる。
対して柏戸陣営も、前の場所10勝に終わって、復活の全勝優勝がフロックと言われかねない。ただでさえその優勝には色々ケチをつけられ、本物であることを証明せんと再現を狙う。
 だが、大関昇進後初の優勝を飾った栃ノ海ほどこの場所に賭ける力士はいない。強大な横綱。過去1年に13勝以上を記録している実力十分の5大関。中でも小兵で地力には劣る技能派大関にとっては、次いつ来るか、もう来ないかもしれない綱取りの好機。一世一代の勝負に挑む。
 栃ノ海が綱取りと聞けば、好敵手の佐田の山も黙って先行されるわけにはいかない。同門だからこその意地がある。兄弟子で大関に同時昇進した栃光も尚更。かくして、それぞれ高いモチベーションで新年初場所に臨んだ。


この場所の成果
 大鵬は4場所ぶりの優勝を自身2度目の全勝で飾り、王者の貫禄を示すことに成功。好調を維持して挑んでくる横綱大関を悉く返り討ちにした。振り返れば内容的にも全く危なげない全勝優勝だが、対戦が組まれない下位力士が千秋楽まで全勝で並走する異例の展開で、ライバルの柏戸、栃ノ海も1差でピタリと追っていて、最後まで1つの事故も許されない張り詰めた15日間だった。これを乗り越えて、優勝回数で双葉山に並んだ。年6場所時代の寵児は再びギアを上げ、前人未到の優勝回数を重ねていく。
 

 柏戸は12勝に終わったが、安定感が出てきて対抗馬の役割は果たした。この横綱との1敗対決を制した栃ノ海は、大鵬との決戦には敗れたものの13勝2敗の好成績を残した。14勝Vー13勝。この間、横綱には4戦3勝と申し分ないが、大鵬とは2差、準優勝ではないのが玉に瑕。2場所連続優勝に準ずるのか微妙な実績。加えて小兵でこの場所も3度変化して打開していたように、横綱を務めるのは苦しいのではという懸念も当然あったが、昇進を果たした。史上最強と評価され、1年ほど続いた「5大関時代」もついに解消。意外にも平凡な成績を続けていた小兵大関が抜け出した。若乃花の引退以来続いた柏鵬の2横綱時代も終わって、3横綱4大関となる。
佐田の山、栃光も中日まで勝ちっぱなしたが、栃光は9勝止まり。佐田の山は豊山、柏戸と巨漢に連敗。おまけに負傷休場して、ライバルの栄進を見送るばかりか、自身の昇進に向けて回り道を強いられた。
 

 もう一人、のちの横綱が怪我に泣いた。小結にあった琴櫻も柏戸の圧力に足首を折った。大きく番付を下げるが、これをきっかけに押し相撲に徹してスケールアップして帰ってくる。
 一躍その名を高めた清國、北の冨士は、ここまで早い出世ではなかったが、翌場所には早くも三役に躍進し、この場所で新入幕を決めた玉乃島らと共に柏鵬時代後期を彩ることになる。この2人の陰に隠れたが、もう一人の新入幕、巨漢若見山もスケールの大きな相撲で10勝している。


39年1月の世相
 時は、高度経済成長期真っ只中。同年は悲願の東京五輪開催とあって、突貫工事で突き進む。新幹線も開通。道路整備も急速に進む。三池の炭鉱は爆発、鶴見では列車が二重衝突と犠牲も出しつつ国歌あげてドンドコ進んだ。東京に人口が流入、「ああ上野駅」が流行する。
 もはや敗戦国ではない日本を世界にアピールするためだ。昭和15年の東京五輪は中止になった。名古屋はソウルに、大阪は北京に負けた。令和2年の東京は延期になって、どうなるかもわからない。つくづく夏の五輪にご縁がないが、この年は開催できたのだ。


 社会情勢は不穏。前年11月末、ケネディ大統領が暗殺され、12月には力道山が刺殺されたばかり。この年にはトンキン湾事件をきっかけにどろ沼のベトナム戦争に突入する。対米感情も悪化する中、大使の刺傷事件も起こった。カウンターカルチャーの高まりは日本にも影響し、既存権力への反抗の風潮は、伝統と格式の相撲界にも向けられ、若者の相撲離れから、苦難の40年代を迎えることになる。


 テレビ放送開始から10年を超えたが、五輪の記録映像ではカラーで残るものも多いが、未だモノクロ時代。近所の家で一緒に見る人もいる時代。まわしの色が判別できないのは残念だが、大鵬のモノクロ映像は見慣れすぎてカラーの方が違和感を感じるくらいだ。
 

 プロ野球では、阪神巨人が交互に優勝する時代。前年、長嶋が二冠を獲得した巨人は、30勝の金田を擁して、天敵西鉄に競り勝ち日本一を奪回、充実のオフを迎えていた。しかし雪辱に燃える阪神は、王の55本塁打が記録される39年に王座を奪い返し、秋は南海との「御堂筋シリーズ」となる。
 競馬ではシンザンが三冠を獲得する。サッカーも五輪でアルゼンチンを破る殊勲。さまざまな伝説が生まれる一年となる。


初日

見どころ

2横綱5大関時代。

 既に6連覇を達成し優勝11回の大鵬が君臨。休場続きで大きく水を開けられた柏戸も、2場所前に全勝決戦で一矢報い、柏鵬時代の看板を本物にするか期待が持たれた。12勝以上を続けている大鵬だが、珍しく3場所も賜杯を手放しており、若干危機感を持っての新年。

 さらに5人もの大関がいたが、前年7月北葉山、11月栃ノ海が優勝、他の3人も13勝以上を記録しており、史上に残る混戦の綱取りレースが展開されていた。

 この場所では14勝で優勝明け小兵栃ノ海が最大のチャンスを迎えていた。ただ、大関昇進後カド番こそないが一桁の白星の方が多く、これが初の綱取り。それほど期待されていたわけではなく、本命は前の年13勝3度の新鋭豊山だった。

 関脇以下には中堅、古豪も目立つが、現代に比べると圧倒的に若い。若いが引退年齢を見ると案外晩年期に差し掛かっている者も多い。元大関若羽黒、初代三賞受賞者出羽錦、既に技能賞7回の鶴ヶ嶺といった栃若時代以前から活躍する力士もいる中、清國、北の冨士と遅れて出てきた大鵬世代の台頭が始まる。

 

前半戦

 

 幕尻の荒波(前15、時津風)、もろ差し果たすが、若鳴門(前14、春日野)は首に抱えた右から捻りつつ吊り上げて体を入れ替え、そのまま押しつぶそうとしたが、両まわしの荒波も粘り腰でさらにうっちゃり。軽量同士ならでは。

 

 小兵の栃王山(春日野)、鋭く突っ込んで押し込み、左前ミツ右ハズ。栃錦にも擬えられた技量の片鱗を見せるが、相手は巨漢の新入幕若見山。強引に前に出ると、肘を張って食い下がる相手の左腕を両手で抱え、回り込もうとするのを反対方向に引き戻してひっくり返した。20歳の大器、前途洋々と見られたが。

 

 老巧38歳出羽錦、踏み込みなく半身で受ける立合い。左は差したが、入幕2場所目の新鋭・清國の出足の前にあっけなく土俵を割った。

 

 金乃花(前12、出羽海)、突っ込んで突っ張ったが、扇山(前11、時津風)が低くあてがって防ぐと、滑ったか自滅気味に土俵に這った。

 

 十両を全勝で制して新入幕の北の冨士(前10、出羽海)、得意の左四つ速攻、外掛けで、幕内キャリア4年の宇多川(前11、宮城野)を破る。人気横綱の記念すべき第一歩。

 

 房錦(前10、若松)、立合い左に開いて常錦(前9,出羽海、いかにも常ノ花時代の弟子)を叩き込んだ。前場所柏戸を破った褐色の弾丸も平幕暮らしが続いている。

 

 元大関若羽黒(前8)、突いて出るもすぐに引き、右差しで堪えたが、開隆山(前9,伊勢ケ浜)の寄りにあっけなく土俵を割った。4場所連続負け越し中の開隆山だが、この年上位キラーとして名を馳せる。

 

 若浪(前7)ー鶴ヶ嶺(前8)は必見。突っ張って出た鶴ヶ嶺に対し、若浪は下から抱きかかえるようにして組み、右四つ。先に鶴ヶ嶺が吊り上げて横吊りで右へ2回転。土俵際で逃れた若浪は、下りた反動で吊り上げてさらに右へうっちゃり、もう1回転。空中で暴れて俵の上に下りた鶴ヶ嶺、残して土俵中央へ戻る。近年見られない吊り味の攻防だ。そこから若浪の巻き替えに乗じて鶴ヶ嶺が寄って出た際に行司が背中から介入も、そのまま寄り切り。廻し待ったのタイミングが悪く、やらかしたのかと思いきや、その前に鶴ヶ嶺の踏み越しがあって勝負を止めていたのだ。向こう正面の最前列の客が、審判以上にアピールしていた(当時の映像ではおなじみの常連客だ)。

 

 のちに宮城野部屋を次ぐ廣川(前7)は、天津風(前6、時津風)との突っ張り合いから、左を差して突きつけるように鋭く出た。この年躍進し三役の座を射止める。

 

 岩風(前2)は、低く構えて距離を取り、機を見て相手の腕を手繰ってクルクルと回り込む。対する沢光(前5)も小兵で鈍くはないが、凄まじい速さであっという間に後ろについて送り出し。潜航艇は水平にも消える。

 

後半戦

 

 前年3場所三役に在った時津風の雄、長身青ノ里(前1)。前年3度三賞を得た小結海乃山にもろ差しで食い下がられるが、掛け投げ気味に力強い小手投げで転がした。

 

 関脇復帰の羽黒花(立浪)に対して、久しぶりに三役手前まで戻ってきた前田川(前2)は、立合いとったりに行って狙い通りひねり倒した。

 

 東の関脇大豪(花籠)は、前頭筆頭の羽黒山(立浪)と。共に改名前の若三杉、安念山時代に優勝経験がある。バンザイ大豪と、下手相撲の典型安念らしく、あっさり羽黒山が左差しを果たしたが、大豪が右上手を取って優勢、半身に構えて下手投げで逃れようとする羽黒山を寄り切った。

 

 ここから大関登場。日の出の勢いの大鵬が君臨する中で、みな綱取りが狙える好成績を残し、史上最高の5大関時代との呼び声高いので期待したい。

 

 先鋒栃光、頭を下げて当たると見せて左変化!突っ込んだ小結琴櫻を肩透かしに破った。直近6勝、8勝と30歳過ぎてやや元気のない大関の消極策に、こちらも肩透かしを食った。

 

 次鋒北葉山、協会挨拶の映像では豊山の横で一際小さく見えたが、この日は上位キラー富士錦(前3,高砂)の出足、突っ張りをまともに受けて一方的に突き出された。こちらも先々場所綱取り失敗後元気がない。あれ?

 

 中堅佐田乃山改め佐田の山、突っ張り合いで優勢に立ち、はたき込み。玉嵐(前4、片男波)を破った。やっと堂々たる大関ぶり。

 

 副将・西の正位豊山、パパ小城ノ花(前6,出羽海)を右から引っ張り込むと馬力で圧倒。寄り倒し。

 

 大将・先場所の覇者・栃ノ海は人間起重機・明武谷(前4,宮城野)の吊りを警戒してハズにあてがおうとするが、懐の深い相手に引っ張り込まれ、食い下がり切れずに左四つ両廻しを引きつけ合う。思い切って内掛けで仕掛けるが、吊り味に残した明武谷が体を入れ替えて残す。再び土俵中央、今度は下手からの捻りを見せた栃ノ海だが、明武谷反応し、上からのしかかられる形で背中から落ちた。決まり手は浴びせ倒し。物言いつくも覆らず、綱取り黒星スタートとなった。

 

 さあ横綱。柏戸に対するは、かつて共にハイティーントリオと期待された若秩父(前3,花籠)。しかし、右変化で突き落とそうとして対応され、何もできずにあっさり土俵を割った。

 

 結び大鵬戦も拍子抜け。豊國(前5,時津風)の突き手を、立合いから受けずに横から払う。目標失った豊國は泳いであっけなく押し出された。横綱に余裕、冷静な反応というべきか。前回56年1月の北の湖と同じく、第一人者が新年初日から立合いで動きますか!?

 

 前半から面白い相撲もいくつかあったが、上位陣の相撲が淡白なものに終わり、尻すぼみの初日だった。

 横綱と小結の顔を合わせるのが昨今の習わしだが、当時はそうでもなかったようだ。

 

2日目

 若見山、若鳴門に右差し左上手を許すが、遅れて左上手。吊り身に出て、最後は腹を突き出して寄り倒し。体躯を活かした。

 

 清國は、幕内経験の長い金乃花の得意の突っ張りにたじろいだが、堪えて右四つに。両者両廻し引いて土俵中央で探り合い。長引く。ようやく動いたのは清國、捻るように相手の上手を切ると、ここぞと一気になだれ込んだ。

 

 出羽錦、また受けて下がるような立合い。泉川のように宇多川の腕を掴むも、とったりも腕ひねりもならず元気なく土俵を割った。

 

 弾丸房錦鋭く出たが、扇山回り込んで残し、前ミツ取って反撃、寄り切った。物言い、踏み越しの確認があったが、砂かぶりには触れておらず。軍配通り。もちろんビデオ判定導入前。場内説明もなかったらしく、審判が座る前に軍配を上げ直している。

 

 ベテラン対決。若羽黒の右ハズ、喉輪押しを堪えて右四つ左上手で鶴ヶ嶺が反撃。右外掛けで止めを刺そうとしたが、下がりながら左巻き替えて浅いもろ差しの若羽黒、必死に左へうっちゃった。また物言いがつき、取り直し。今度も若羽黒押したが、左四つに。そこから巻きかえの応酬、得意の両差しで出る鶴ヶ嶺、左をねじ込んだ若羽黒、仰向けに土俵下へ落ちながら突き落とした。体制有利の鶴ヶ嶺だが、振られて俵を踏み越したか。連日の微妙な踏み出し

 

 新入幕、細い細い北の冨士は、猛然と突っ張り。飛ぶように前に出て、若浪を圧倒し、連勝。

 

 開隆山が左差し、右で強烈におっつけたが、天津風たまらず差し手を抜くと、力が入っていた右がすっぽ抜けて尻もち。

 

 廣川は、突っ張りから左を深く差して返し、土俵際豪快に掬うように突きつけると、沢光土俵下へ吹っ飛んだ。当時としては大柄な廣川の迫力の相撲、2場所後に生涯唯一の小結に昇進する。

 

ここで勝負検査役交代。元大関大内山が入場、ド迫力。

 

 右四つから青ノ里が投げで体を入れ替え、寄り倒そうとしたが、小結琴櫻うっちゃりを見せる。さすがに余裕なく体が割れずにひっくりかえり、一礼して引き上げようとしたが、軍配をもらって引き返す。青ノ里の足が踏み出すのが早かった。

 

 連日の左変化の前田川、大豪にモロハズであてがって攻めようとしたが、大上段からハエでも落とすようにバチンと叩き落とされた。

 

 小城ノ花が速攻、右差していっぺんに出た。羽黒花の捨て身の突き落とし見せるも、渡し込むように体を預けた。

 

 さあ大関栃ノ海。立ち上がるや左、次いで右と差して肘を張って寄り、最後は右ハズで羽黒山を押し出した。綱取りの場所、2日目に初日。

 

 栃光は、張差しの若秩父に組まれかけたが、右からしつこく厳しいおっつけ。ジリジリと出て、ぱっと右から突き落とした。初日と打って変わってベコらしい取り口。

 

 立合い張差しも左ワキの空いた北葉山。右四つ左上手を許し、海乃山外掛けで出るところで遅れて左上手も一枚でやや劣勢だったが、さすがは相撲巧者。徐々に形勢を有利に運ぶ。海乃山の上手投げも残して頭をつける。最後は引きつけて下手側に出て、上手投げ。

 

 佐田の山も張って出たが、富士錦の突き押しを受ける。それでも突っ張りで応戦して反撃、引きに乗じて決めた。

 

 豊山、玉嵐が突いて出るのを一つ突き返して右四つに組み止める。こうなれば軽々と吊り寄りで決着。

 

 大鵬、実力者明武谷に太い右を突き刺して返しながら前へ。土俵際で反対に左上手から投げつけるように、全く問題にせず寄り切った。

 

 結びはしぶとい岩風が、柏戸の懐に入って左前ミツ右ハズで食い下がった。柏戸は我慢。左から引っ張り込んで起こそうとしていたが、相手の引きに乗じて左上手を取ると、すぐにこれをまっすぐに引き落とした。捻りのような出し投げのような。上手透かしと言うべきか。

3日目

 ダイジェスト形式にて。

 

柏鵬両横綱、剛柔対照的な取り口で3連勝。

 柏戸、前田川の鋭い出足を受ける格好になったが、左で抱え込むと右で押して猛反撃。相手が右から掬い投げ、巻き落としと勢いをかわそうとするが、多少振られても構わず右で派手に押し倒した。スピード感とパワーに溢れた爽快な取り口。

 大鵬は突き押し一筋富士錦の突進を跳ね上げるように突き返し、頭を下げて突っ込んで来たところを叩き込み。相手に合わせ、余裕を持って料理した。突き押しにも揺るがず。

 

大関陣、2大関がうっちゃられて黒星。

 毎日うっちゃりが見られる幸せな時代。

 栃ノ海は平幕玉嵐相手に左へ大きく飛んで後ろを取って送り出し。綱取りで変化か、と呆れるなかれ。立合いいきなり横へ飛ぶのではなく、まっすぐ立ちながら、当たる寸前に消えるように変化。それで真後ろまで回っている。神業である。もちろんそれで横綱が務まるかは別問題だが。白星先行。

 

 栃光は当たって左ハズ、絞るように押して出て明武谷に力を出させず、右で豪快に土俵下まで突き放した。真骨頂。

 

 佐田の山は組み止めたい羽黒花を突っ張りで攻める。のけぞりながら左下手を取られたが、右上手からの投げで決めた。体はないが、技の出る速さが違う。

 

 豊山は突き放しから右差し、左上手を掴んで寄ったが、下手は浅く、上手は深く脇が空いている。あんこ型の若秩父が両廻しで吊り上げて右へうっちゃると、綺麗に決まった。

 

 北葉山は左前ミツ狙いで立ったが果たせず、小城ノ花に左を深く差された。右上手から振って体を入れ替え、左四つで寄り詰めたが、いかんせん被さり気味でうっちゃりを食った。2敗目。

 

その他印象的な取組 

 長身実力者対決、青ノ里が右へ動いて小手に振り、左差しを返す。大豪、右がバンザイになったが、構わず出て外掛けで前へ。完全に棒立ちで後退の相手を寄り切った。大味

 

 羽黒山は左四つ右上手、小結海乃山に上手をやらず、巻き替えに来たところを定石通り出て、うっちゃりを押し潰して重ね餅

 

 立合い潜って小結琴櫻の突きをかわした岩風、そのまま頭をつけて左前ミツ右ハズで食い下がり。相手の巻替えを警戒しつつ、機を見て一気に寄り切った。

 

 若浪、体格で上回る開隆山に右差し左上手一枚まわしでいっぺんに出られたが、土俵際すごい形で大きくうっちゃった。全く廻しは取れておらず、いったいどこを掴んだのか。よく見ると右差し手と左で首に巻いた手を相手の後ろで引っ掛けるようにロックしている。これは、幻の大技・合掌捻り!?それも頭を両手で掴む徳利投げ(当時区別がなかった)ではなく、純に合掌する方。だが、決まり手はうっちゃりとなっている。

 

 新入幕北の富士は、大関経験者との初対戦。体当たりからの突っ張りでは大きな若羽黒を押せなかったが、左四つに組むと右から上手投げを決めた。積極性が光る

 

 もうひとりの新入幕、巨漢若見山はワキの甘さを突かれて金乃花に両差しで攻められたが、抱えて振って残し、右四つ。左から極める。持久戦の末、映像カットされたかいつの間にやら左上手取って体力にものを言わせて寄り切った。

 

 ベテラン鶴ヶ嶺、張り差し気味にモロ差し狙いも左は果たせず、右四つ。しかし左の浅い上手を取って寄り、土俵側掬い投げに傾いたが投げ勝った。モロ差しが代名詞だが、右四つでも普通に力がある。

 

 清國、張り差しも左差せず、突き放したが、右四つ。深めの左上手をながら力強く前に出て寄り倒し。格好は良くないが、ケレン味がなく将来性を感じさせる。

 

 栃王山、当たっていなして扇山を泳がせ、付け込んで押し出したが、突きつけた腕がすっぽ抜けて一瞬早く手を着いてしまった。余談ながら、ついつい「とちおうざん」と読みたくなるが、「とちおうやま」。小兵だが、前に攻める相撲。さらに余談ながら、この一番の行司の勝ち名乗りの「おうぎ〜やま〜」の声が連日何とも言えない古めかしさがある。好きかと言われればそうでもないが…

 

 幕内在位16年余の出羽錦、3連敗。この日も全く踏み込まず喉輪にのけぞりながら、左差して半身。荒波が右前ミツで頭をつけ、崩そうとするが完全に守りに入ると重い。土俵際で下手投げを打つと思いの外ぐらついたので、色気を出して付け込もうとのが失敗。回り込まれて両差し許し、力尽きた。前場所は前頭筆頭も、途中休場して5年ぶりの前頭二桁。下に3枚、大丈夫だろうか。

4日目

 まず横綱大関から。

 大鵬、うるさい岩風を懐に入れず突き放し、食いついて来たが、左から掬って豪快に投げ捨てた。まわしに拘らず大きな相撲で小兵を捌き、幅の広さを示した。

 

 柏戸、立ち上がるや、がっちり左上手を引きつけて右下手も取ると、青ノ里を吊り上げて向正面へ殺到。土俵下の控行司、弓取り諸共寄り倒した。行司が溜まりの客にしがみ付いているのがのどかな風景。

 

 大関北葉山は3敗。前みつ、頭をつけるまでは良かったが、長身明武谷の外掛けにバランス崩して後退、吊り寄りに屈した。

 

 栃光は前田川に鋭く突っ込まれ、完全に立ち遅れたが、素早く危機察知左へ身をかわして叩き込んだ。

 

 栃ノ海は、立ち合いで右前まわし。富士錦これを切ろうとするが、反対も前ミツを取られてどうしようもなく後退。突き押し得意の富士錦に全く押す暇を与えなかった。

 

 豊山、海乃山に低く飛び込まれ蹴返しを受けたがあまり動じず反撃に出ると、海乃山うっちゃろうとしたが、圧力に屈して尻から落ちた。

 

 佐田の山は若秩父の押しを受けたが、突っ張りで反撃して腰が引けたところを叩き込んだ。

 

 以下、ダイジェストで。

 初口、清国は、栃王山の変化にも対応、二本差して寄り倒し。

 

 出羽錦は右手出して左差しの立ち合い。右上手狙うところで巻き替え合って右差し。両者の巨腹で上手が遠い。だが若見山が左で抱えて出ると、粘りなく土俵を割った。

 

 続いて細身同士の相撲は突っ張り合い、土俵際で荒波いなしたが、金乃花押し出しの勝ち。

 

 若鳴門、宇多川が巻き替えてもろ差しになるところを、強引な吊りからの投げで体を入れ替え、寄り倒し。力強さを発揮した。

 

 北の冨士立つや否や左四つ右上手。扇山良く粘ったが、土俵3周ついに寄り倒した。

 

 若羽黒、突っ張りから右を差してしまって半身となるが、房錦が引きつけて寄ると残せず土俵を割った。のちの10代式守与太夫、独特の甲高い掛け声はこの時代から聞くことができる。何年幕内格をやっていたのだろうか。なぜ三役格止まりだったのか。行司にとって激動の昭和30〜40年代を生きた人として、深掘りしがいがありそうだ。

 

 小柄ながら堂々の四つ相撲の鶴ヶ嶺。この日も開隆山が巻き替えるところを寄って、高々とうっちゃられて客席までふっ飛んだ。しかし体は割れておらず、白星。いい歳なのに毎日うっちゃり合戦で、怪我ないことに関心。後年は毛がないになる。失礼。

 

 博多人形のような風貌で人気の廣川、突き押し炸裂して若浪に得意の吊り、うっちゃりの機会を与えず。馬力がある。

 

 天津風、常錦が左へ飛んでから右上手投げなどで攻めるが、振り払って反撃、押し倒した。時津風部屋は、定期的にやけに前髪が濃く額の狭い力士が現れるが、天津風もその一人。双津龍、時津洋、時津海がその系譜。ちなみに鏡里、豊山ら額の広い、前髪薄めの方が大成する。どうも今日は毛の話が多い。

 

 小城ノ花、双差し果たして寄り、回り込む沢光を追いかけて圧倒。

 

 琴櫻、左上手で右おっつけから、投げで振り回して羽黒山を土俵下へ。

 

 大豪、立ち合いでさっと捕まえたが、豊國が内掛けでもたれかかると重心失い後退。最後は河津がけのように裏返りかけたが、そのままもつれて落ちた。

 

 玉嵐、突き合いから一気に出て、関脇羽黒花を押し出す。

5日目

取組順に。

 

 今日の初口は4戦全勝の新鋭同士清國、鋭く当たって右差し左前ミツ。足を飛ばしてからの上手投げと澱みない攻めで、若見山の巨体を転がした。

 

 両差し果たした栃王山が懸命に寄るが、宇多川の苦し紛れの首投げに両膝からガクリ。

 

 出羽錦、あいも変わらず待ったかと思うような立合い。だがこの日は左差しを軸に前に出て、扇山を寄り倒した。ようやく初日

 

 常錦、左四つに組むと、さっと掬い投げ。綺麗に決まって荒波横転。

 

 張り差しの鶴ヶ嶺、右四つ左上手。胸を合わせて引きつけて寄る。腰も下りているように見えるが、金乃花のうっちゃりに外掛けで抵抗するも外れて足を出した。またこれか。本当に技能力士か

 

 若羽黒、最初から当たるつもりなく、その場で立って両手を出す。当たりは止めたが、右差しを強烈に極めて拗じ上げられる。それでも前へ出て追い詰めたが、土俵際で回り込んでの小手投げに土俵外へ。若鳴門もなかなか荒っぽい。ここまで腕が反り返るほど極め上げるのは初めて見たが、それで痛そうな素振りを見せない若羽黒も大したもの。よほど柔らかいのか、極度のドライか。

 

 房錦の押しを、若浪が右で厳しく挟み付けて四つに持ち込む。右四つ、若浪のほうが上手が深いが、これが持ち味。ぐいと持ち上げ横吊りに俵の外に運んだ。小兵のどこにそんな力が。

 

 北の冨士、左差すと止まらずに前へ出て天津風を寄り切る。他の力士に比べ、速攻が群を抜いて目立つ。5連勝

 

 開隆山、右で突いてから左四つで捕まえ、上手も取って前に出る。さらに下手捻りと攻めたが、沢光堪えて上手を一枚廻しからしっかり取り直すと反撃開始。引きつけが効いて上手投げで体を入れ替え、そのまま土俵下へ放り出した。ようやく片目が開いた力士とは思えない力強い勝ちっぷり。土俵下の相手におらよ、とばかり下がりを投げ渡すふてぶてしさも良い。この年7月には新小結昇進するが、なぜか年内で廃業してしまう。

 

 廣川、強い当たりから右突き落としで青ノ里を崩し、その流れで右差しから寄り切り。ハマれば強い。

 

 羽黒山、珍しく両差しを許し、小城ノ花の寄りに後退。小手投げで凌いで回り込む。さらに続けて本気の小手投げで小城ノ花がひっくり返り、微妙だったが羽黒山の勝ち。

 

 琴櫻、豊國の当たりを左に開いてかわし、はたき込み。割とケレン味がある。

 

 海乃山、富士錦の押しをあてがうと、右おっつけから左下手を取って突き押しを封じるや、一気に寄って出た。

 

 大関登場。

 1勝3敗と苦境の北葉山、前ミツ狙いは前田川の押し、いなしに切られたが、小手に振ってくるのをうまく腕を抜いて捕まえ、離れようとするところを押し出した。上位陣でひとり大きく躓いたが、ほっと一息。

 

 佐田の山、岩風の変則的な動きに突っ張れず、左上手右下手の両前ミツ引いて食い下がりを許す。岩風も右ハズにして出ようとするがならず、佐田の山も右抜いて上手から引き上げようとするもならず元の体勢。岩風懸命に寄るが、下手投げで回り込まれて再び動きが止まったところで水入り。再開後、徐々に起こしつつ前に圧力をかけた佐田の山、いよいよ潜航艇が浮き上がって土俵を割った。持久戦に強い。

 

 豊山は明武谷の張り手からの左変化にも動ぜず左四つ。土俵際うっちゃろうと腰を入れるところをタイミングよく突き放して粘らせなかった。出方を読み切ったかのような落ち着いた対応、通算9戦全勝の合口の良さが出た。

 

 栃ノ海は当たって、左、右と差して両差しで若秩父を寄り切った。技能とスピードの高さを見せつけた。

 

 栃光、玉嵐と突き合いになったが、さすがに地力が上。まっすぐに出て突き出しの快勝。調子が上がってきた。

 

 5大関安泰、ところが、横綱柏戸に土。ワキは甘めの関脇大豪に両差しを許し、何とかこじ入れようと抵抗する姿は悪いときの柏戸。寄り切られた。

 

 波乱を見届けた大鵬も関脇戦。左四つに組み合い、羽黒花が吊り寄りに出るところ、上手投げで体を入れ替えて土俵の外へ。羽黒花は5連敗。

 

 弓取りは大鵬・代、若熊。筋肉質でいかにも弓取り力士らしい。

 

 序盤戦を終えて、全勝は大鵬、佐田の山、栃光、平幕の廣川、北の冨士、清國となった。

 幕内定員は40名と平成中期並(16年以降は42名)で現代と変わらない中、全勝6人は多いほうだろう。

 なお、ここまで休場者がなく偶数を保てていることもあって、十両力士は一人も幕内で取っていない。系統別総当り最後の年で、対戦しない相手が多いはずだが、それでも幕内力士だけで取組編成ができている。

6日目

 扇山低く当たって左差し、若鳴門得意の小手投げにも軸足を掴んで対応。右も下手前ミツ、引きつけて向正面。捨て身のうっちゃりに体を浴びせて寄り倒し。

 

 宇多川荒波の突っ張りを跳ね上げて引っ張り込もうとする。右をこじ入れ、左も巻き替えて両差し。荒波は両上手を引きつけるが、右が伸びてしまい、うっちゃり決まらず。

 

 全勝と1敗。好調の新入幕同士北の冨士が突っ張りで攻め立てるが、若見山よく残して組み止め、北の冨士両差しとなるが、これを閂に極める。出足止まった北の冨士攻め手がなく動きが止まる。膠着の末、若見山が強引に体を入れ替え、極め出し。体格負けした北の冨士、2場所前から始まり、十両全勝優勝を挟んで続いた連勝は23でストップ。直前の黒星も若見山だった。

 

 開隆山、立ち合いで左で引っ張り込み右四つに組み止めると、小兵栃王山を力でまっすぐ持っていった。

 

 若羽黒ー金乃花も当たってすぐ右四つ。左上手の早かった金乃花が上手投げを打つと、若羽黒脆くも転がった。

 

 常錦鶴ヶ嶺を突き放し、次いで右突き落としに下した。

 

 5連勝同士清國、右で張って廣川の出足を止めようとし、押し合いから右ハズ、左は外ハズ気味に一気に押し倒し。

 

 ちょびっと塩まき出羽錦。この日も半身で受けて立つが、天津風の出足に防戦一方で押し出された。どうも気力が見えない。

 

 吊り名人若浪と右を差し合った小城ノ花。すぐに巻きかえると相手も巻き替え左四つ。その刹那上手になった右からぐいと大きく吊り上げて回転。着地してうっちゃり返した若浪だが、下りたところは土俵の外だった。お株を奪われた。

 

 沢光、出てくる房錦を突っ張りつつ、回り込んでさっとはたき込み。

 

 ここで前半終了。一番を除いて短い取組ばかりだった。引き上げる勝負検査役(まだ審判ではない)。西の元大内山のいかつい顔、向正面の元名寄岩のベジータ風M字に後退した額の怒り金時、強面揃いである。元増位山の三保ヶ関が可愛く見える。

 また、西方には横審委員長。向正面西側の砂かぶり最前列には、名士らしき白い顎髭と初日の物言いおじさんの常連組。30年代らしい風景である。平成のオリンピックおじさんも後年目につくのだろうか。

 

 閑話休題、後半最初は、豊國突っかけ気味に突いて出て、岩風はこれを手繰って回り込み、頭をつけて押して出るが、豊國右を差して堪える。岩風が両廻し引きつけて吊ろうとしたが、豊國体を入れ替えて外掛けで伸し掛かると、踏ん張りきれずに岩風背中から落ちた。

 

 前田川は、羽黒山に立ち合いで右差しを許すが、巻き替えて両差し。両下手取って出るが、いつもの突貫小僧たる出足はなく、長身羽黒山の肩越し左上手投げに下手から打ち返すも土俵下転落。

 

 若秩父、低く当たって左差し右からおっつけから絞って両差しに。長くなったが、寄り切った。関脇羽黒花いまだ初日が出ない。若秩父、ベテランのごとく若干ロートル感が出ているが、まだ23歳

 

 全勝の一角栃光。この日は押し切れず青ノ里に右四つで寄り立てられたが、俵に詰まって膝のバネで踏ん張りつつ、右の浅い下手を上手に持ち替えての投げで逆転。底力を見せた。

 

 突き放しにかかる玉嵐を右四つに組み止めた北葉山。上手からの投げで崩して寄り倒し。星を五分に戻した。

 

 佐田の山明武谷に徹底して突っ張って突き出し。激しいながらも非常に的確に当てており、無駄に回転だけ速いのではなく、いいところを狙って当てて起こしながら前に出ている。

 

 富士錦、低く鋭いぶちかましで鈍い音。突っ張りから突き落とし、さらに追撃、左が入ってしまったが、出足に任せて腕を返し、土俵際豊山が反り身で粘るのを、差し手を抜いてトドメの押し倒し。会心の相撲。のちに朝潮の急逝で高砂を継ぐ平和ちゃん。土の香りがする怒涛の出足が炸裂、引退後間もなく時津風を継ぐことになる学士力士を圧倒した。

 

 綱取り栃ノ海に立ちはだかる、大兵大豪。両差しに入られるのも構わず、左からおっつけて右抱え込むようにして一気に走った。土俵際左へ回って突き落とした栃ノ海、土俵下へ吹っ飛ぶ。物言いがついたが、栃ノ海は蛇の目を掃かずに回り込んでおり、薄氷の勝利。1敗を死守。

 

 大鵬うるさい海乃山を右で引っ張り込むように捕まえて、寄り切りの勝ち。この日はあっさり片付けた。

 

 結びで悲劇が起こった。昨日両差しを許した反省か、しっかりワキを固めて当たる柏戸が立合いで両差し。激しい出足に琴櫻俵に詰まって強引に首捻りを見せたが、圧力に耐えきれず右ひざが内に折れたまま倒れた。起き上がれず、呼び出しが、勝負検査役が続々と土俵上へ。柏戸もオロオロする。検査役は物言いで土俵に上がっただけのようで、呼び出しが3人がかりで持ち上げて(パワフル!)引き上げさせた。連続で三賞を得て小結に出世していた琴櫻を襲った悲劇。足首の骨折で、翌場所も全休するなど、一時十両に転落、回り道を余儀なくされたが、本格的に押し相撲を磨いて帰ってくる。確かにこの場所、猛牛の異名を取るにしては相撲が軽かった。

7日目

 元横綱栃ノ海が82歳で死去した。奇しくも綱取り場所を協会公式youtubeが取り上げている最中に。ご冥福をお祈りします。栃若、柏鵬、輪湖。その間の元横綱もみな鬼籍に入り、協会外の三重ノ海、二代目若乃花が長老格となった。千代の富士、隆の里、双羽黒も早逝しており、次いで現役年寄では年齢順に協会幹部の旭富士(審判部長)、大乃国(広報部長)、北勝海(理事長)。あとは武蔵丸、稀勢の里。相撲史を語る上で外せない曙、若貴、朝青龍の世代は誰がリーダーシップを取るのだろう。

 栃ノ海の相撲を詳細に取り上げたかったが、あいにくこの日は琴櫻に不戦勝。この頃物言い後の説明はないのに、不戦勝理由の場内説明は今より少し詳しい。

 

 初口、荒波張って引いて両差し。思いっきり顎を上げて吊りを見せ、踏ん張る房錦をついに抜き上げた。

 

 開隆山、立合いで左上手取って投げ、数呼吸後、今度は反対方向に捻って金乃花を倒した。

 

 常錦、突き放してから右おっつけで前に。左差し突きつけて扇山を寄り倒した。

 

 鶴ヶ嶺、左張り差しは若鳴門に掻い潜られたが、左上手。これが深めながらそのまま寄って出たので重心が高かったが、この日は土俵際まわしを離して突いたので相手が腰から落ちた。それでも相手がうっちゃろうとして、結局土俵下転落。連日老体に鞭打つ

 

 老体といえば続いて登場のロートル、もとい、古豪対決。若羽黒、出羽錦、やっぱり共にその場で立って当たらず、若羽黒が押して出ようとするのを、半身で受ける出羽錦が左を差して掬い投げでゴロリ。

 

 好調力士対決。張って両差しの北の冨士が一気の出足で廣川を寄り切り、連敗せず。

 

 栃王山が低く突っ込むのを、若浪は左変化でかわし、左差し右上手。この日は吊らずに上手投げからの小股掬いを鮮やかに決めた。足を触るのは一瞬、上手からの捻りも効かせる見事な芸だった。

 

 巨漢若見山、右を鉤型に固めて当たる。絞られたがこじ入れ、左抱えて力攻めで寄ったが、小城ノ花腰が入りかけながら後退すると、ちょうどうっちゃりの格好になって若見山俵を回り切れずにもつれて土俵外へ。物言いなく小城ノ花がうっちゃりの勝ち。若見山2敗に後退。

 

 天津風の突き押しを下からあてがって右四つの清國。蹴返しから右ハズ押しで追い詰めての左上手投げを決めた。7連勝。

 

 宇多川左差し、右も入りかけたが、沢光が厳しくおっつけて果たせず。右上手の沢光は頭をつけて寄り切った。

 

 

 後半戦。

 富士錦いきなり叩いて左へ回るが、豊國残して突っ張り合いから差そうとし、富士錦が押して出るところを叩き込んだ。富士錦は立ち合いの失敗でリズム崩したか。

 

 海乃山真っ直ぐ突っ込むと見せてかっぱじくように左へ。左を巻き替えてすぐに出たが、玉嵐腰が落ちながらも右へうっちゃり。海乃山裏返りながら土俵下へ飛んだ。

 玉嵐、一礼してさっさと引き上げようとしたが、呼び出しに止められて勝ち名乗り。場内が和んだ。謙虚さ潔さがもたらすこうした場面が近年ほとんど見られず、逆に軍配もらえず露骨に未練タラタラが標準化しているのは非常に残念。質の劣化と言わざるを得ない。

 

 大豪、すぐに右四つ左上手の形を作って寄ると、起重機明武谷も腰を入れる暇もなく土俵を割った。

 

 全勝栃光、全敗羽黒花を立ち合いから押し込んでの叩き込みであっさり片付けた。

 

 北葉山、当たって引いて呼び込みかけたが、左差し半身で堪えて、右は下から厳しくおっつけて頭をつけた。左四つで抱え込めば力の出る若秩父だが、左下手しっかり取られて左も抜かざるを得ず、そのままおっつけに後退して寄り切られた。北葉、白星先行。

 

 佐田の山はリーチ活かして突っ張り、ちょっと叩いておいて右のどわで押しで出ると、青ノ里腰が入って尻餅。

 

 岩風、立ち合い潜る動きは警戒されて果たせずも、豊山が組み止めようとするのを逃れて左前ミツで食い下がる。右も完全に差さず、引っ張り込ませない。豊山が左から絞って出ようとするところ、さっと回り込んでの上手出し投げ。見事に巨体を転がした。

 

 横綱柏戸、はやる羽黒山に呼吸合わずも両下手。羽黒山が強引に吊ろうとするところ、体を浴びせると腰砕け気味に倒れた。横綱、落ち着いた相撲。

 

 大鵬は前田川の突進を左差し右で抱え込んで捕まえると、右へ小手に振って回ろうとするのを掬い投げ気味に差し手を突きつけると、相手は完全に棒立ち。問題にしなかった。溜息が出るほどの圧勝。

中日

 休場者が出て奇数になったため、今場所初めて十両から抜擢されたのが浅瀬山。長い相撲、左四つ、右で浅い上手を引きつけて懸命に寄ったが、懐深い若見山がクルリと体を入れ替えた。 

 

 宇多川、前捌きの良さを発揮して両差しで金乃花を寄り切った。

 

 北の冨士、荒波、互いに中腰の立合いから突きを見せたが、すぐに左を差し合う。そこから北の冨士がいきなり思い切って右で首捻り、下手から投げて土俵に叩きつけた。1敗を守って給金に王手。

 

 扇山、左へ大きく変化して結び目の辺りを取って出し投げ、目標を失った開隆山は向き直るも付け込まれて転んだ。

 

 若羽黒、栃王山の変化をよく見てついていき、すぐに土俵際、寄り切った。左肘には包帯が見える。やはり若鳴門戦で痛めたか。

 

 出羽錦、鶴ヶ嶺の老巧対決。鶴ヶ嶺両差し狙いも左の硬い出羽錦は譲らず。しかし二枚蹴りのような動きで脅かし、機を見て右巻き替えに成功。得意の両差しで寄り切った。今場所ようやく見せた技能的な相撲。                                                

 

 左喉輪で突いて出た清國。若浪これをいなして右上手で組み止める。しかし清國右絞りきれないとみるや、巻き替え。ハズで廻しも切られて後退。清國、そのまま低い体勢で右ハズを伸ばし、左は膝が着きそうになりながら、そのまま靠れ込んだ。ストレートの勝ち越し

 

 房錦、左変化で小城ノ花をはたき落とす。不鮮明だが…ヤジらしい声が響く。

 

 若鳴門張って捕まえようとし、沢光も何度も跳ね返そうとする。が、圧力に勝った若鳴門が出てくるところ、左に回ろうとするが、バランスを崩してはたき込みに敗れた。

 

 攻防の末右四つがっぷり。天津風、ぐいと吊りに出て、抵抗されたが、横へ吊り寄り気味に玉嵐を寄り切った。

 

 のどわで突いて一気に出た豊國、土俵際で長身明武谷に回り込まれて、すぐに吊って出られたが、土俵際で堪えると左から内掛け、ケンケンで反撃。明武谷、後退したがこれを外してもう一度寄りしようとしたが、再び内掛けから河津掛け気味に横倒しに。もつれたが、物言いつかず。業師というわけでもない豊國だが、内掛けにはなかなか渋みがある。

 

 常錦、当たって左差し、右は入らないとみるや、いなして泳がせ、左喉輪、さらに右で若秩父を突き出した。

 

 大豪は当たって引いて富士錦の出足を呼び込んだが、土俵際なんとか片足残って叩き込んだ。

 

 豊山は廣川に喉輪押しから二本入れられたが、すぐに両上手を引くと、強引に抜き上げて体を入れ替え吊り出し。

 

 栃ノ海、立ち合いで左差し、右おっつけから巻き替え。羽黒花強引に頭を抑えて上手投げで体を入れ替え、煽るように寄り立てたが、しぶとい大関の下半身は崩れず、軽々と右へうっちゃった。

 

 全勝栃光に挑むは羽黒山。左四つで上手を取り合うと、羽黒山が吊り身を見せるところ外掛け。下手投げで逃れようとするのを上手投げを打ち返した。

 

 北葉山には、難敵岩風。警戒して突っ張りから右四つ左上手に組み止めた大関。岩風うっちゃりを見せるが、大関踏ん張って浴びせ倒した。4連勝。

 

 両手で突いて出た前田川だったが、佐田の山が突っ張りで反撃し、叩き込んだ。

 

 大鵬、おっつけから左差し。右は突いて出てからぴたりとおっつけ。青ノ里が逃れようとするのに合わせて、差し手を押し付けるような掬い投げであっさり下した。

 

 柏戸はうるさい海乃山の蹴手繰りを左で引っ張り込み、巻き替えるところを一気に寄り切った。

 

<優勝争い>

全勝 大鵬、佐田の山、栃光、清國

1敗 柏戸、栃ノ海、北の冨士

 この日は2横綱5大関安泰。部屋別総当り以前とはいえ、なかなかの上位充実ぶりだ。 

 

9日目

全勝力士4人から。

 大鵬に挑むは、前頭筆頭羽黒山。前さばきの応酬となり、両者四つ相撲ながら、なかなか組まない。羽黒山、足を数度飛ばしたり、頭をつけてはおっつけて出たりと動きを見せ、大鵬は突き放す。はずみで行司を踏んづけて転倒させたが、また元に戻って、頭をつけ、差し手を嫌う。一瞬ハズにかかってここぞと出たが、大鵬回り込むと、張って捕まえようとし、嫌って下がり、足も飛ばそうとするところ突き飛ばして決着。陽動にも全く焦れる様子がなく、最後まで落ち着いて捌いた。羽黒山は6敗目。

 

 栃光富士錦と頭で当たり合うが、左差して出られると、右上手を取ったものの、ずるっと滑って膝を着いた。あっけなく土がついた。決まり手は下手投げとなった。

 

 佐田の山、曲者豊國が勇んで出てくるのを上突っ張り気味に突き上げておいてのはたき込み。危なげなし。

 

 幕内3番目好取組。入幕2場所目で全勝ターンの清國と、新入幕で依然1敗の北の冨士。のちに平成に至るまで史上最多対戦としてレコードに残ったこのカードの記念すべき初顔の一番だ。立合い、面白いことに、両者とも左喉輪右おっつけ、天井を向いて押し合う。そこから突っ張り合いになって北の冨士が前に出る。俵に詰まった清國だが、そこから反撃、右おっつけから左差し右前ミツで肘を絞り、頭をつける。左も前ミツに持ち変えるを拝み寄って押し倒し。全勝を守った。

 

続いて、北の冨士以外の1敗勢。

 柏戸は、ストレート負け越しの関脇羽黒花を、すぐに二本入ってあっさり吊り出し。

 

 栃ノ海は、伝家の宝刀左変化で背中に回り、青ノ里を送り出した。綱取り場所だというのに、今場所2度目だ。これも小兵の相撲のうち、とばかり悪びれない。

 

2敗勢も見ていこう。

 関脇大豪は、岩風に左前ミツで食い下がられたが、半身で出ておいての右下手投げで、コマのように回らせた。

 

 新入幕若見山は、房錦の変化、両差しの寄りに後ろを見せるが、機敏に向き直り、引っ張り込むと、房錦が左を抜いて右下手投げで回ろうとするのを、抱えた左から強引に引き戻し、右で頭を抑えて小手投げで土俵に突っ伏せた。何とも言えぬ大物感

 

そのほか、何番か。

 ベテラン鶴ヶ嶺は、栃王山を張り差しで抱え込んで捕まえると、一瞬両差しを許したが、すぐ右四つ左上手に組み止めて寄り切り。軽量相手とはいえ、両差し名人というより本格的な四つ相撲の取り口だ。栃王山はや負け越し。

 

 若浪は、タイミングずらして飛び込んだが、出羽錦得意の左差し、半身で下手を突きつけるように、珍しく果敢に出る。若浪回り込んで右上手で頭をつけ、小股を掬ったりを飛ばしたりと牽制。出羽錦はじっくり構える。何とか左もまわしを取った若浪だが、一枚まわしで引きつけ切れず。思い切って出たところで出羽錦ついに右上手。若浪が吊り身に入ったところを覆いかぶさって倒した。足がかかっており、決まり手は外掛け。

 

 小城ノ花扇山の積極的な攻めに防戦も、土俵際でさっと吊り上げ、体を入れ替えて土俵外へ。

 

 玉嵐、左おっつけ、右はしつこく喉輪で長身明武谷をのけぞらせたが、組み止められて吊られ、抵抗虚しく土俵の外。

 

 突っ込んだ海乃山、差し手争いから右上手取って寄ったが、腰の重い若秩父は十分の左が入って残した。徐々に攻勢に出て腹に乗せて吊り出した。

 

 前田川はぶちかまし、突き落としと攻め、豊山も上手を掴んで右ハズで反撃したが、ハズが外れて両差し許し、横吊りに運ぶのを潰そうとして縺れたが、先に土俵の外とされて4敗目を喫した。

 

 廣川の挑戦を受けた北葉山。相手より低く当たってその角度のまま突っ張りを受けながら前ミツ取って寄り、土俵際突き放して快勝。5連勝で上位陣のビリケツを脱出

10日目

 金乃花、十両花光を猛突っ張りで退け4勝6敗。花光は花籠部屋の新鋭23歳、1年前は6枚目12勝、東筆頭8勝でも入幕ならず、停滞している。この場所3度めの東筆頭もこの一番で負け越し。もう2年近く十両暮らしとなる。

 

 出羽錦はいつもの半身で下がるような立合い、しかも左を差せずに房錦に両差しを許したが、回り込みつつとったり気味の強引な小手投げでねじ伏せた。出羽錦ようやく盛り返して4勝6敗。同じ星だが房錦の方が心配。

 

 4勝5敗同士。荒波は激しく突っ張って出たが、開隆山捕まえると右四つで寄り倒した。

 

 宇多川は浅く二本差して出ようとしたが、若羽黒が自分の間合いに持ち込んでしぶとくおっつけ、ついに押し出し。持ち味を発揮した。両者4勝6敗。

 

 前日2敗となった北の冨士、この日はベテラン鶴ヶ嶺を左四つから上手投げ一閃、相手に膝を着かせた。

 

 若浪は右変化で左差し右上手の格好を作ったが、常錦構わずお株を奪う吊り身に出て、寄り切り。

 

 廣川の当たりをかち上げて跳ね返そうとする若見山。しかし出足を止めきれず、廣川快勝6勝目。若見山は3敗に後退した。

 

 若鳴門は押し上げてからの叩きで天津風を叩き落とした。4勝目。天津風は4敗。

 

 頭で当たりあって前に出たのは清國。右から厳しいおっつけで出て、小城ノ花が前掛かりになったところを肩透かしで這わせた。ついに10戦全勝。

 

 沢光は中途半端に左に動いたが、左四つ右上手取って栃王山を寄り切った。力勝ちで4勝目。栃王山9敗目。

 

後半戦。

 明武谷は、右でカチ上げるように当たって左四つ右上手。そのまま寄って出ると、この身長差ではいかんともしがたく、扇山あっさり土俵を割った。両者4勝6敗。

 

 富士錦、猛然と当たるのを玉嵐は突っ張りで起こしにかかったが、出足止まらず左差して一気に出て体を預けた。差しても出足鋭い富士錦、4勝目。玉嵐負け越し。

 

 若秩父はその場でおっつけるように立つと、羽黒山得意の左差しを極めにかかる。両手で泉川に極める動きを見せ、これを防がれると左差し。こうなると大きな腹が邪魔で羽黒山も上手が遠い。若秩父、左下手をしっかり引き直して前に出ようとしたが、そこを羽黒山、狙っていたかのように、腰を入れて十八番の下手投げ。足が送れずに転がされた。星の上がっていない両者、若秩父は7敗。

 

 岩風低く立つのを警戒し、青ノ里両手で中に入れない。浅いハズから左を差し込み、終始潜り込ませずに正面に置いて攻め切った。ようやく両目が開いた。岩風後がなくなった。

 

 3度めで立った海乃山、左差し右おっつけで攻めようとしたが、豊國は嫌って差し手争いの末に右を入れると、海乃山無理な首投げに出て付け込まれた。豊國6勝目。小結海乃山元気なく1勝9敗。

 

 大豪は右抱えると強引に担ぐようなとったりに出たが、羽黒花右でまわしを取って引き戻して裏返した。膝の上に乗り上げる形になって、決まり手切り返し。関脇対決は、ここまで2敗と好調の大豪の完全な自滅。羽黒花ようやく初日

 

 続いては、大関対決。近年上位陣が多いときは中日には組まれ始めるので、7人の上位陣勢揃いにしては遅いくらいだが、同門が戦わないため、まだ間に合う。

 

 全勝佐田の山、猛然と突っ張って両差し、吊って出たが、両上手の豊山は、空中で右を巻き替えようとし、僅かに覗いた差し手から土俵際で突き落とし。体重がかかって佐田の山踏ん張り切れずひっくり返った。この一番も不調の大関が意地を見せ、全勝の一角が崩れた。

 

 1敗栃ノ海、出足の前田川を張り差しから左四つ右上手に組み止めると、素早く寄り切った。9連勝。前田川は負け越した。

 

 全勝大鵬1敗栃光が挑む本日の白眉。頭で当たって喉輪で押し上げたが柔らかい大鵬の腰を浮かすには至らず、跳ね除けられて横を向いたところを押し出し。スキなし。栃光は連敗。

 

 柏戸には調子を上げてきた北葉山が挑戦。時津風一門の括りには入るが、系統が異なるので対戦がある。柏戸は上位総当たりだ。得意の右四つに入ったはいいが、柏戸も左上手ガッチリ。こうなると体格差がものを言う。土俵際うっちゃりを見せるが、腰高ながら引きつけが強く、体は割れずにのしかかられて、そのまま土俵下。柏戸も1敗を守った。

 

全勝  大鵬 清國

1敗  柏戸 栃ノ海 佐田の山

2敗  栃光 北の冨士

 

 2大関が後退したが、横綱大関を中心に、なかなかハイレベルな争い。

 全勝は2人に減ったが、清國は明日も平幕の豊國との対戦。上位戦を組む気はないか…

11日目

 終盤戦に突入、ここからは好成績の上位対決が続く。

 

 まずは平幕好調力士。

 前半戦最後の取組で登場の全勝、前頭13枚目清國、相手は5枚目の豊國。猛然と喉を突いて来られたが、のけぞりながらも突き返し、右差し合う形。右でグイグイと圧力をかけていくと、豊國、堪えきれずに腰から崩れてしまった。旋風どこまで続くのか。

 

 2北の冨士、開隆山の低い当たりに突き放せず叩いて出足を呼び込み、両者土俵下へ転落。諦めの良い北の冨士は、相手が土俵に戻らないうちから一礼して戻ろうとし、開隆山が二字口に戻って再度一礼してさっさと土俵から下りたが、呼び止められて勝ち名乗り。仰天しながら最後まで両足が俵の中にあり、一瞬早く開隆山が飛び出していた。塩を撒き散らしたらしく、東溜では呼び出しが集まってきて大わらわ。

 

 大関対決

 張り差しの豊山栃光の押しに苦戦したが左四つに持ち込むと、高々と吊り上げて持っていった。栃光は3連敗で脱落。自身は出遅れた豊山だが、好調大関を連破。優勝争い的には...いつの時代もこういう人いますね。

 

 栃ノ海は自分より低い岩風に食いつかれたが、左、右と差し勝って、粘る相手を下手投げに転がした。10連勝、綱取りに向けて譲れない1差以内を死守。

 

 優勝争い生き残りをかけた1敗対決。猛然と当たった佐田の山が突っ張りからいなし、柏戸残して右四つに組み止める。両廻しを引きつけ合い、柏戸が吊り上げる。軽量の佐田の山左外掛けで防ぐが、土俵際つま先立ち。柏戸はそのまま右へ寄り、西土俵から正面、東土俵まで回って佐田の山がうっちゃり。決まったかに思われたが、佐田の山の体がないと見たか物言いもつかず柏戸寄り倒しの勝ち。

 連敗の佐田の山はこのとき胸部を骨折、好調一転リタイアとなる。この怪我がなければ、部屋の長老出羽錦の目標である「佐田の山の太刀持ち」が実現していたかもしれない。

 

 後続の潰し合いを見届けた大鵬は、大関戦第2R。突き放して余裕を持って構え、左がのぞくと肩透かしから右上手。北葉山を左四つに組み止めると、珍しく力技で寄り倒し。北葉山上手投げ見せるも引きつけ強く逃れ切れず。

 

 

 以下、初口から取組順に。

 荒波、十両2枚目二瀬川に押し込まれたが、回り込んではたき込み。この二瀬川とは、前の場所まで2場所幕内を務めた高鐡山。この場所から入門時の師匠である先々代の四股名を継いだが、この年限り返上して元の四股名に戻り、のち関脇となる。引退後は大鳴戸として独立し、出世頭の板井に高鐡山を与えたが、やはりこれを返上して板井に戻してから、幕内に定着する。

 

 立合いから低く食いついた扇山。両差しになって頭もつけたが、宇多川の強引な首投げに裏返し。

 

 房錦頭から当たって出ていこうとするハナ、若鳴門右からいなすと、そのまま土俵を飛び出した。

 

 3敗若見山鶴ヶ嶺、すぐに両差しになるだろうと見ていたら、右四つから抱えた左から巻き替えて両差しになったのは若見山。浅い両上手で寄って外掛けと攻めた鶴ヶ嶺だが、重い相手を攻めきれず、一旦外して巻き替え、右四つに戻る。若見山が再度左を巻き替えに来たが、そのスキに再び寄る鶴ヶ嶺、土俵際太ももの上から外掛け、また技巧派らしからぬ悪手だが、いつの間にか右は巻き返して下手前ミツ。土俵中央、まわし待ったを挟んで膠着。若見山、再三の巻き替えを見せ、鶴ヶ嶺が防いでいたが、巻き返すところを上手取って寄り進み、ついに寄り切った。体力勝ちで北の冨士に続く新入幕勝ち越し。

 

 常錦廣川の出足に後退したが、左を入れて踏ん張り、相手が腕突きつけてなおも出るのを回り込んで突き落とし。常錦勝ち越し王手。廣川は序盤の貯金を切り崩して残り1つ。

 

 4勝6敗同士。若浪金乃花の突き押しに攻め込まれたが、下がりながらもまわしを取って、正面向いたまま左上手からの豪快な投げで逆転した。

 

 天津風押して出るのを小城ノ花が捕まえたが、浅い両差しになってすぐに寄り切り。

 

 出羽錦、その場で手を出して待つ立合い。左を差して有利に進めたが、沢光に巻き替えられて抱える形。しかし小手に振りつつ再び左を入れて寄り、掬い投げ。沢光も小手投げを打ち返すが、差し手がすっぽ抜けて、両者バランスを崩したが、その場に落ちた沢光が早かった。たたらを踏んで膝をついた出羽錦の足腰も相当弱っているが、それでも序盤の連敗から立ち直って「借金」1まで返済。沢光は後がなくなった。

 

 後半戦。

 左ハズ右喉輪押しの若羽黒玉嵐に組ませず、左おっつけ右ハズでジリジリと進み、押し倒した。こちらも序盤不振だったが5勝6敗に戻してきた。

 

 若秩父栃王山の突き押しに下がったが、右が入ると反撃、苦し紛れの逆転も許さず寄り切った。4勝7敗と踏みとどまった。

 

 前田川の出足を、土俵際で残した青ノ里、力技で突き落とし。

 

 富士錦、ハズにかかって一気の寄り。電車道で羽黒山を圧倒。

 

 明武谷はかち上げから押して出て一気に羽黒花を押し出し。起重機がブルドーザー的な攻め。

 

 三役同士。鋭く当たって左差しの海乃山。食い下がってまわしを与えず、ようやく左差した大豪が反撃に出てくるところを下がりながら上手投げ。

 

 

全勝 大鵬 清國

1敗 柏戸 栃ノ海

2敗 佐田の山 北の冨士

12日目

 荒波は押して出ようとする花光(十両)を右四つに組み止めて引きつけて出たが、土俵際巻き替えの応酬でわずかに形が崩れたか、腰が浮いてうっちゃりを許した。幕内残留に向けて後がなくなった。

 

 房錦が左に大きく飛んで、低く立った栃王山を叩き込んだ。いかにも不調同士。7敗の房錦踏み止まった。

 

 踏み込んだ常錦、足も飛ばして両差しに食いつくと、タイミング良く巻き落として巨漢若見山を破り、勝ち越し。

 

 5勝6敗同士。左を極めに行った出羽錦だが、小手投げ不発。開隆山に左も差されてあっさり寄り切られた。

 

 清國は強い当たりから遮二無二押して出る。鶴ヶ嶺左半身に受けて、右上手投げで振るも、清國の突進止まらず、強烈な右ハズでグイと押して出ると、鶴ヶ嶺たまらず腰から落ちた。いよいよ12戦全勝。

 

 突き合いの末、天津風引いて呼び込み、付け込んだ金乃花押し出しの勝ち。天津風勝ち越しならず、金乃花負け越し阻止。

 

 立合いで両差し果たした小城ノ花が寄って出て、粘る宇多川に左外掛けを仕掛けたが、逆に内掛けで靠れかかられた。両者五分の星。

 

 北の冨士、左差し狙うも、のどわ、おっつけ、巻き替えと豊國が嫌い、左と右の激しい応酬となったが、最後は構わず挟み付けるようにして出て寄り切った。

 

 玉嵐、叩いて左変化で左から掬って突き落とし。しかし向こう正面審判(三保ヶ関?)が蛇の目を差して行司に指示、踏み越しが認められ扇山の勝ち。最初の軍配は不明だが、物言いなし。扇山5勝目。玉嵐は二桁黒星。

 

 沢光明武谷が屈んだだけでいきなり待った。明武谷もお返しとばかり蹲踞のまま待った。激しく張って沢光が左四つで頭をつけたが、長身明武谷引きつけて寄り倒した。沢光負け越し。

 

 

 のちの平幕優勝力士同士、頭で当たり合い、富士錦が出ると若浪は左へかわす。追撃を右上手出し投げで透かし、振り向くところを左四つ右上手。富士錦の出足が止まった。数呼吸、若浪吊りに出て、左回りに回って落としながら上手投げを決めた。若浪星を五分に戻した。富士錦7敗目。

 

 左差しを振り払われて、おっつけから右四つの若羽黒前田川が再び嫌って喉輪で出たが、堪えた若羽黒は両下手前ミツで拝むように出て寄り倒し、ついに勝敗を五分に戻した。

 

 右変化で小手投げの若鳴門羽黒山残して両差しで寄り、尚もうっちゃりを見せたが、羽黒山踏み止まって寄り倒し。

 

 張り差しで組み止めようとした青ノ里だが、若秩父は安易に差さずに押して出て左差しで体を預けるように寄り切った。

 

 岩風、立合い二本鎖され、回って回って右を差すも、海乃山右四つ左上手で切り返すよう出て、寄り切った。両者3勝9敗。

 

 廣川ぶちかまして突き押し、一気に羽黒花を押し出した。会心の相撲で給金王手。羽黒花は元気なく11敗目。

 

 1敗の栃ノ海北葉山との大関対決。今場所3度めの左変化で上手出し投げ。相手も大関、すぐ振り向いて前さばきの応酬。しかし流れの良い栃ノ海は右で浅い上手。左四つで寄り立てて、北葉山が飛び上がるように逃れようとするところ、投げ捨てるように寄り切った。1敗死守。北葉は上位戦で連敗し再び星が五分に戻った。

 

 豊山大豪とのガバガバ対決。両差しに入った大豪だが、豊山右巻き替え。差し手争いとなり、再び巻き替えた大豪が出たが、豊山腰が座っており、上手投げで体を入れ替えて寄り倒し。給金を直した。

 

 大鵬佐田の山が挑む毎場所楽しみな一番は、残念ながら佐田の山休場で不戦敗。

 

 結びの一番、栃光ぶちかましたが、柏戸すぐに左前ミツに届いて右四つ。寄って出て、最後は差し手を返して倒し、決まり手は掬い投げとなった。栃光は4連敗。

 

 

全勝  大鵬 清國

1敗  柏戸 栃ノ海 

2敗  北の冨士

 大鵬危なげない相撲で安定の全勝だが、この場所は1横綱1大関が独走を許さず、さらに新入幕と2場所目の平幕2人が加わり、稀に見るハイレベル、好展開で13日目を迎える。

13日目

初口。

 若見山開隆山に狙い通り右四つ左上手を許したが、寄って出るところを左から抱えあげて体を入れ替えて寄り倒し。底知れぬスケールを示して9勝目。

 

 前さばきで競り勝った常錦が深く入れた右からの掬い投げで宇多川を下し、こちらも9勝目。

 

 7敗同士、当たって突き放した房錦が鶴ヶ嶺に何もさせずに押し出し、踏み止まった。

 

 廣川鋭く当たり、若羽黒との押し合いになるが攻勢。押し込んでの突き落としに、若羽黒土俵の反対まで走って振り向いたが、廣川の追撃より先にガクリと膝を着いた。廣川勝ち越し。

 

 若浪、立ち合いで左四つに持ち込み、遅れて若鳴門も右上手でがっぷり。両者吊りを警戒してか腰を引き気味で構える。先に若鳴門が仕掛け、若浪そっくりの回転しながらの吊りで土俵外に運んだ。

 

 栃王山先に立ち、天津風遅れて立つところを狙いすましたようにはたき込み。ようやく2勝目。

 

 6勝6敗同士、張差しから右四つで寄った小城ノ花、向正面に豊國を寄り倒した。

 

 長身対決、北の冨士が突っ張ってから叩くが、明武谷ついていって左四つに組み止める。北の冨士は上手切ろうとして果たせずも、外掛けで土俵際に迫る。明武谷はクルリと体を入れ替えて寄り倒そうとする。それでも北の冨士は外掛け外さず、両者ギリギリのバランスで土俵際、北の冨士がしぶとく粘ってうっちゃる。この日も足が土俵内に残り、決まり手上手投げの勝ち。実力者も破って圧巻の11勝2敗。

 

 昨日負け越した沢光、今日も立ち合い合わず、3度目。この日は両前みつで食い下がる。玉嵐抱えて起こそうとするが、拝み寄られて踏ん張れず11敗目。

 

 荒波張り差しで左四つ右上手。しかし上手取れずも若秩父は腰が重い。攻め手がなく、長くなるうち若秩父は右上手にかかったか、腹に乗せて高々と吊り上げて土俵際降ろしたが寄り切った。荒波は作戦失敗。二本差したかったか。

 

 

後半戦

 右からおっつけて横攻めの前田川扇山たまらず向正面土俵を割って負け越し。

 

 当たって突っ張った金乃花、一方的に青ノ里を突き出した。7敗で踏ん張る。

 

 これも7敗同士、羽黒山二本差すが、出羽錦左巻き返すと、半身に構える。出羽錦右上手やや深いがガッチリ取り直し、じっくり構える。肩に顎を乗せられ苦しそうな羽黒山、半身ながら右上手取って出ようとしたが、ここぞと引きつけて体を入れ替えた出羽錦が寄り切り。34回目の対戦で、対戦成績を五分に戻した。

 

 12戦全勝・清國はついに役力士と当てられた。突き放しは掻い潜られて不発、しかし右四つ左上手から、右をハズにして押して出て小結海乃山を圧倒。止まらない快進撃、入幕2場所目、13連勝。

 

 立合いかなり踏み込み勝って右おっつけの富士錦、出足を駆って右上手引いてがぶり、電車道羽黒花を破った。

 

 大関登場、岩風が右に変わってとったりに出たが、ついていった栃光が捕まえて、抵抗するのを寄り倒し。連敗ストップ。

 

 6勝6敗の北葉山は両差しで優位に進めながら、下手投げが外れて付け込まれたが、必死のうっちゃり決まって大豪を振り捨てた。大豪は給金寸前で足踏み。

 

 さあ、いよいよ注目の1敗対決、柏戸栃ノ海。共に全勝大鵬戦を残して、圏内に残るのはどちらか。鋭く当たった栃ノ海は右上手取れずも巻き替えて両差し、柏戸がおっつけて出るのを俵に足一本残して突き落とし。軍配栃ノ海も、物言い。だが協議は短く、足は残っているとして、1敗を守った。柏戸は痛恨の2敗。栃ノ海は綱取りへの第一関門を突破。

 

 結び大鵬、すぐに右差して返し左上手。豊山肩越しに上手を狙うが届かず。右の浅い下手で凌ぐ。まわし待ったを挟み、長い相撲に。豊山もようやく右上手取ったが攻められず、水入り

 水入り明け、豊山が寄る場面もあったが決めきれず、大鵬も攻め急がず。土俵中央、両者取り疲れて土俵中央動きがなくなり、ついに取り直しに。本来なら何番後かだが、結びなのでそうもいかず、控え力士の手を借りて、汗を拭いたり、まわしを締め直したり。

 取り直しの一番は、右差し合った形から、先に上手投げ。巻きかえも狙っていた豊山、足を送り切れずに裏返ってしまった。よほどスタミナに自信があるのか、懐の深い豊山の逆転技を警戒したのか、「負けない相撲」を取って全勝を維持した。

 

 

全勝 大鵬、清國

1敗 栃ノ海

2敗 柏戸、北の冨士

 

 2敗目の柏戸はほぼ脱落。14日目、大鵬と栃ノ海の大一番。栃ノ海は綱取りに向けて、千秋楽前に優勝が消えるのは避けたい。逆に勝てば限りなく綱に近づく。人生最大の勝負だ。ただ、昇進問題をややこしくするのが全勝清國の存在。36年の佐田の山の平幕優勝時に、成績優秀なら上位と当てる編成をと確認したはずだが、相変わらず保守的な取組編成でいまだ役力士との対戦なく、好成績の大鵬ー柏戸、栃ノ海の割は崩せず、全勝力士が優勝争いのライバルと当たらないまま終わりそうだ。横綱昇進に向けて「2場所連続優勝に準ずる成績」が必要な栃ノ海にとっては、それで優勝、準優勝されては多大な迷惑を被る。

14日目

 二桁の星を狙う新入幕若見山。しかし宇多川にすぐに両差し許し、がぶり寄りに防戦一方となり、抱えきれずに土俵を割った。

 

 荒波は、十両4枚目若ノ國と。突っ張らずに両上手前みつを引いたが、掬い投げからの肩透かしに落ちた。十両での相撲が多くなっている若ノ國、9勝目で再入幕に望み。翌日も勝って10勝とするが、不運にも見送られる。

 

 栃王山は、十両花光に立合いで右前みつ引かれて動きを封じられ、あっけなく寄り切られた。

 

 房錦、一瞬止まる立ち合いで金乃花を揺動したが、突っ張りを左へ飛んでかわしたところで勝手にバランスを崩して転がった。決まり手下手捻りとなって金乃花が踏ん張った。

 

 廣川当たって両手で突き放し、回り込む扇山を押し倒した。9勝目。

 

 若羽黒は、小城ノ花と巻き替えの応酬の末、左四つ右でおっつけて出た。両者7−7に。

 

 若鳴門は、当たって右突き落としで7勝目。豊國あっさり落ちて負け越し。

 

 鶴ヶ嶺は張って右四つから右出し投げ、玉嵐苦し紛れのとったりを許さず寄り倒した。

7敗同士。明武谷左差して前に出るも、出羽錦半身になって守りの姿勢。動きが止まって長くなるかと思われたが、明武谷引きつけて出れば案外簡単に土俵を割った。

 

 若秩父、横からおっつけて左差し。天津風は腕を返され棒立ちの苦しい体勢。若秩父グイと吊り上げると、腹に乗せてそのまま前に持っていった。天津風は給金寸前で4連敗で、両者千秋楽に勝ち越しをかける。

勝負検査役が入れ替わり、後半戦。

 

 清國は、3枚目の富士錦戦が組まれた。出足なら負けないと、頭で当たった富士錦、だが清國の馬力は予想以上で押し勝って前に出る。左が入って右ハズで押し進み、そのまま一気に押し出した。14戦全勝。ストッパー役を果たせなかった富士錦は負け越し。というか、せめて好調力士を当ててほしいところだ。2敗勢はこの時点で優勝圏外となった。

 

 前田川突き放そうとしたが、前みつに掛かった若浪が間合いを空けさせず、左四つ右上手の形。吊り身に出ようとするのを、引きつけで封じて寄り切った。7勝7敗に持ち込んだ。

 

 羽黒山が突っ張りを防いで組み止めかけたが、北の冨士なおも押して突き放すと、羽黒山は尻込みして、勢いのままに寄り切った。12勝で三賞を確実にした。

 

 いい当たりから差し勝って前に出たのが青ノ里だったが、開隆山は攻められながらも両廻しを掴んで体を入れ替えて逆襲、引きに惑わず寄り切った。7勝7敗。

 

 海乃山は立合い左へ動いて小手に振り、次いで左差して出て、残るところを切り返し。沢光ひっくり返って9敗。

 

 岩風、左差し頭をつけて右から絞っていたが、これを跳ね上げて右差しで一気に寄り。羽黒花を退けた。4勝目。関脇羽黒花は13敗となった。見た目にはわからないが、どこか悪いのだろうか。

 

 北葉山、前頭9枚目の常錦と四つに組むと引きつけ合い、時間がかかったが、うまく体を入れ替えて寄り切ってようやく勝ち越し。しかし、9枚目の9勝4敗を大関戦に抜擢するなら、なぜ清國を当てないのか。

 

 栃光、当たっていったが、大豪に引っ張り込みから両廻しを許して腰が伸びてしまい、しぶとさを発揮できなかった。大豪勝ち越し。

 

 さあ今場所白眉の大一番1敗栃ノ海は低く鋭く当たって右下手前ミツを探るが、全勝大鵬は落ち着いて中に入れず、ならばと栃ノ海はさっと左に動いて腕を手繰る。一瞬後ろを取ったが、大鵬落ち着いて振り向くと、前捌きしつつ徐々に圧迫。劣勢必至の栃ノ海が何とか回り込みつつ左差して食いつこうとするのを、押し込んでからのはたき込みで退けた。

 栃ノ海は痛恨の黒星。連覇が消えるとともに、準優勝の可能性も消えた。自力での綱取りはなくなったが、千秋楽に13勝目を挙げて天命を待ちたい。来場所に向けても気落ちしていられない。大鵬は先場所1差で追う展開で14日目に敗れ、優勝を許した相手に雪辱。

 

 結びは消化試合となってしまったが、こういう展開には慣れている?柏戸失意も見せず、左下手前みつ、右も差して一気に重い豊山を寄り切った。的が大きいと思い切って力を発揮できる。

 

全勝 大鵬、清國

 優勝争いは、横綱と平幕が全勝のまま千秋楽。昭和20年に羽黒山と新入幕千代の山が10戦全勝で上位優勝となって以来。優勝決定戦制度が始まってからは、後にも先にもこんなことはない(白鵬全勝、逸ノ城1敗で対戦なしということはあった。)。千秋楽は大鵬柏戸清國への刺客は、この日大関を圧倒した関脇大豪に白羽の矢が立った。この時点ではまだ柏戸が大鵬に勝ち越している。今場所全く危なげない大鵬だが、上位総当りで1つも落とせない結構なハンデ戦を強いられていることになる。

千秋楽

協会ご挨拶。

 時津風理事長、横綱大関に勝負検査役がゾロゾロと上がってくるのは圧巻である。特に変哲のない定型文読み上げ。

 若見山、十両5枚目小兵の若天龍が捕まらないよう撹乱しようとするも慌てず正面に置き、蹴返しから肩透かしを引くのに付け入り寄り切り。新入幕二桁。堂々の相撲ぶりだった。

 若天龍は勝てば14勝1敗で十両優勝だったが、思わぬ相手と組まされて決定戦に。しかし君錦を破って無事優勝。24歳にして翌場所3度目の入幕を果たし、全盛期は短いが前頭筆頭まで昇進する。

 栃王山、張り差しから右四つ、出し投げと良い流れだったが、十両二瀬川に左巻き替えから高々と吊り上げられ、開脚したまま尻から落ちて13敗目。20歳の新鋭、2度目の入幕は3場所に終わった。

 開隆山房錦を得意の右四つに組み止めて5場所ぶりの勝ち越し。依然ピリッとしないが下げ止まった。元関脇の房錦は6勝止まり。弾丸らしい出足で押し込む相撲が少なく、まだ28歳だがどうやら下降期に入ったか。

 廣川が低く当たって左おっつけたが、若鳴門右から叩いて転がし、給金を直した。序盤5連勝の廣川は9勝に留まった。

7勝7敗同士。若浪宇多川は左四つがっぷり。宇多川が二度目の吊りで完全に抜き上げた。若浪は後半お株を奪われる相撲が目立ち、負け越した。

 変化の鶴ヶ嶺、右四つ左上手で半身の小城ノ花を素早く寄り切った。小城ノ花負け越し。

突っ張り合いから左上手の金乃花。引きつけて一気に出て寄り切り、勝ち越し。豊國は終盤5連敗で6勝9敗。

 若羽黒左を差したが、前へ攻めた明武谷の出足が勝り、腰の重さを発揮させずに寄り切った。

 荒波の右差しを玉嵐が泉川に矯めてから左上手。左四つになって廻しを引きつけあうが、攻め手なく長引いた。廻しも伸びる。水入り後も両者動かず、取り直し。「先程ノ 引分取り直し」の垂れ幕が呼び出しによって掲げられた。取り直すなら引き分けではないだろうとツッコミたくなる。

 富士錦ぶちかましての押しで電車道。天津風は給金相撲4連敗で負け越した。

 

 後半戦、北の冨士がさっと左差して右上手投げ。若秩父を鮮やかにねじ伏せた。先場所の十両全勝優勝に続き、新入幕13勝の稀に見る快進撃。

 2番後取り直しとなった一番。検査役交代の休憩も挟んで、大銀杏整えての再戦。今度もすぐ右四つで両廻しを引き合うが、どちらも腰を引いて構え、動かない。荒波左巻き替えに成功、両下手。ところがそれでも出られない。最後は玉嵐が伸びる右上手を引きつけ、ようやく寄り切った。玉嵐3勝、幕尻荒波5勝。二桁黒星の不調同士が最後によく頑張った。

 差して寄りたい扇山が、再三離れては右差しで出ようとするが、岩風は低い構えで防ぐ。扇山が上手投げで崩すのを残すと、反対に差し手を手繰ってとったりで這わせた。共に5勝10敗。

 前田川、当たって引く動きを見せるが思い直してハズで押し出して4勝目。沢光は10敗。

 出羽錦、右で突いて出足を止めつつ左差し。半身の体勢から右で絞りつつ差してモロ差しになり、青ノ里を寄り切った。序盤は十両転落が懸念された出羽錦、7勝8敗に止めた。青ノ里は1場所で三役復帰どころかわずか3勝。

 左四つから常錦が上手投げを仕掛けたが、羽黒山踏ん張って左下手投げを打ち返し6勝目。常錦は二桁届かず。

 左へ飛んだのは羽黒花。左前ミツ、右上手を掴んで吊り上げると、海乃山なすすべなし。変化は破れかぶれか、ともかく初めて力強い相撲が出た西関脇は、ようやく2勝目。絶不調の原因はなんだったのか、気になる。

 さて、14戦全勝の清國不動の関脇大豪に挑んだ。左ハズ右おっつけて出たかったが、誘い込まれるように左を差してしまい、大豪十分の左四つ右上手を許し、半身。下手から振って残したが苦しい格好。右おっつけ出るが、余裕を持って残される。再び半身で、また左差しからの投げにいくところ、大豪の右外掛け。理想的な低い位置に掛かって、足を掬われたようにひっくり返った。ついに1敗。案外観客の反応は静かである。

 北葉山低く当たって食い下がり、栃光差して出ようとするが、これを絞り上げて許さず左前ミツからの出投げを続けて打って寄り切った。序盤は対照的だった両者、終わってみれば9勝で並んだ。

 さて、綱取り栃ノ海、優勝も準優勝も消えたが、13勝なら望みはある。大きな豊山に対して低く当たって両前ミツ狙い。豊山極め上げて前ミツは切るが、栃ノ海双差し、左は下手、右は肘を張ってハズに宛てがう。豊山が引っ張り込もうとするのを外掛けも駆使して防ぐ。そして動きが止まったところで、左下手から捻って右から突く。豊山たまらず腰から落ちて、巻き落としの勝ち。14勝Vー13勝(3番手)。横綱とは4戦3勝。ただ、それ以前の成績は平凡。ともかく人事は尽くした。天命を待つのみ。

 結びの一番、大鵬全勝優勝か、清國との決定戦か。圏外とはいえ2敗と好調の柏戸の意地に期待がかかる。が、立つや否や大鵬が右差しから掬うようにして体を開くと柏戸はのめって左からも叩かれてあっさり落ち、脱力的な決着。柏鵬の通算対戦成績はついに五分となった。

 

優勝争い決着

 大鵬は自身2度目の全勝で、双葉山に並ぶ最多12回目の優勝賜杯を抱いた。千秋楽に全勝同士の決定戦の可能性があったのは、年6場所制定着後この場所が唯一。同部屋や同一門ではなく、地位が離れていたため対戦がなかったが、今後同様のケースはあり得ない。横綱戦を崩しても当てるだろう。

 大横綱が大横綱らしく申し分ない内容で全勝。ライバルの横綱、大関もよく頑張って1敗以内に上位陣5人で折り返し。さらに最終盤まで新鋭が割って入った。一門別総当たりや下位力士をあまり上位と組ませない取組編成の影響は否定できないが、史上最高レベルの優勝争いとなった。東京五輪を迎えて日本スポーツ界が開花する昭和39年の華々しい幕開けとなった。

 表彰式の映像まで視聴できた。賜杯拝戴時には演奏も流れて、意外と現代と変わらない。三賞は高砂が授与。なぜかスーツ姿の千代の山の九重が、向正面土俵下から敢闘賞の賞状を高砂に渡し、高砂から北の富士に授与される。のちに九重が北の冨士を連れて出羽海から独立して破門、高砂に拾われるが、この時点では思いもよらない。奇跡の3ショットである。

 

三賞

 清國技能賞、北の冨士敢闘賞、殊勲賞に関脇大豪。柏戸に土をつけ、千秋楽は清國に唯一の黒星をつけた。5場所連続関脇在位中の実力者が格下を順当に破ったのではあるが、優勝争いが決着させた功績は特筆される。気の毒なのは、新入幕10勝の若見山だが、各賞1つの原則の時代。致し方ない。