大鵬が初の休場
富士錦
前頭9
14勝1敗
千秋楽本割
戦後5人目の平幕優勝
・柏鵬不在の好機、大関陣奮闘も平幕が逃げ切る
・保守的な取組編成への疑問高まる
・柏鵬時代のエアスポット
・おなじみの個性派行司たち
・一人横綱栃ノ海の技巧
・好調大関陣の味のある相撲ぶり
・明武谷、若浪の驚異的な吊り、うっちゃり
・富士錦の出足炸裂
・北の冨士ら新鋭の活躍
・晩年の出羽錦、若羽黒の奮闘
初場所から連続全勝優勝した大鵬の連勝は34で止まり、珍しく10勝止まり。4場所ぶりの楽日全勝決戦を戦い、11戦全勝と快走していた柏戸も、好事魔多し。再び故障で長期離脱を余儀なくされる。
ここぞと横綱2場所目の栃ノ海が3場所ぶりの優勝を果たし、番付どおり柏鵬に迫る実力を示そうと意気込む。
栃ノ海の優勝に待ったをかけ12勝の北葉山ら4大関も存在感を発揮しており、次の横綱レースも楽しみだ。柏戸不在の間に躍進したい。
関脇に定着していた大豪ら4人の役力士は総陥落。通常上がる星の平幕力士がいなかったので、三賞を受賞した3人らが幸運にも自己最高位に昇進した。そのうちのひとりが、5枚目の9勝で新関脇となった北の冨士である。家賃が高いのか、それとも好機を活かすのか。
柏戸は全休で2横綱が軸と見られたが、序盤から大荒れ。大鵬が1勝3敗と絶不調で、昇進以来初の途中休場に追い込まれた。栃ノ海も負けが先行するヌケヌケが中日まで続いたが、横綱不在は許されず、休むに休めない。
不振の佐田の山を除く3大関が序盤無傷で優勝争いを引っ張り、豊山が全勝で終盤へ。並走していたのは平幕富士錦。11日目に実力者開隆山に捕まって押し倒されたが、勢い止まらず番付上位にも得意の押しが炸裂。すると豊山が、栃光、復調してきた栃ノ海に屈し、富士錦が単独首位を奪って楽日へ。富士錦は二桁を狙う関脇北の富士を圧倒し14勝1敗。見事平幕優勝を果たした。
無念の豊山も、楽日締めて13勝。北葉山、栃光も最後まで奮闘し12勝。どうなることかと思われた栃ノ海も、後半は強い大関陣を退けて無敗、11勝にまとめた。横綱大関の差が縮まり、4人目の横綱誕生も現実性を帯びてきたが、この時点では佐田の山が最も出遅れた。
再関脇羽黒川、新関脇北の富士は難なく勝越し。新小結の沢光、若浪は二桁黒星。
平幕では、清國が上位で勝越し。玉乃島も来場所は上位に進出しそうだ。
関脇から落ちた大豪は8勝止まり。中堅どころは停滞している。
ベテラン鶴ヶ嶺は珍しく3勝12敗と崩れ、技巧も冴えず晩年の様相を呈すが、このあと持ち直して2回技能賞を加える。引退危機を脱した若羽黒は連続勝越し。
再入幕の淺瀬川は5連勝5連敗5連勝の面相撲で初の勝越し。のちに北の富士と九重アベック優勝で名を残す松前山は新入幕6勝に終わって転落。
平幕優勝を生んだ取組編成について。36年の佐田の山の時もだが、最後まで大関戦は組まれなかった(このときはもっと酷くて、唯一当たった役力士が千秋楽の小結冨士錦)。一門別総当たりの時代とあって、平時から7枚目くらいの力士が上位戦を組まれることはあるのに、好調力士を当てると言う考え方はあまりなかった。富士錦は34年11月にも終盤まで首位で、このときは千秋楽に関脇安念山と当てられ敗れている。5年前のリベンジとばかり両関脇を破った富士錦は見事だが、並走した豊山は横綱大関総当りというのは、近代スポーツとして合理性に欠ける。その後若浪がやはり豊山を振り切って優勝したが、徐々に改善され、番付削減も影響し、平幕下位力士で大関以上と戦っての優勝は、結局昭和59年の多賀竜が最初だった。
殊勲 明武谷
敢闘 富士錦
技能 富士錦
横綱を食った力士はほぼ負け越し。何とか給金を直した筆頭の明武谷が殊勲賞。残り2つは富士錦が持っていった。気の毒なのは5枚目で11勝の若見山で、初場所新入幕での10勝に続いて三賞から漏れた。佐田、北富士を連日腕捻りの奇手で破るなど気を吐いた。
明武谷ー若浪
吊り名人同士。期待に違わぬ熱戦から、外掛けで防ぎに来た明武谷を見事跳ね上げて決まり手は櫓投げ。5勝に終わった新小結だが、終盤は栃光をうっちゃって脱落させ、開隆山も驚異的な粘り腰でうっちゃった。
明武谷ー大鵬
立ち会いで右を差し合うと、さっと左巻き変えた大鵬が前へ。しかし明武谷が右上手投げを見せると、横綱みるみる腰に乗り上げて土俵の外へ投げ捨てられた。
海乃山ー大鵬 曲者の足、王者を禅寺送りに
右から引っ張り込んだ大鵬。左をこじ入れようとするが、海乃山が執拗にこれを嫌って土俵中央で競り合い。その刹那、左で足を飛ばしてさっと後ろに飛び去ると、横綱ばったりと落ちた。蹴返しを食った大鵬は、慢心を指摘されて修行生活を強いられる。
廣川ー栃ノ海
新三役は1点負け越しだった廣川、威力十分の当たり。栃ノ海前みつを狙いつつ反撃して前へ。しかし廣川、腰が入って倒れつつも突き落とし。物言いがつくも、横綱の突っ込むのが早く軍配通り。翌日も勝って4連勝としたが、終盤大関陣と好調力士相手に6連敗で負け越した。
若見山ー北の富士
初場所新入幕の両者、再び三役と平幕が入れ替わっての対決。5戦全勝の北の富士を、前日の佐田の山戦に続いて腕捻りで撃破。常に日の当たるライバルに待ったをかけた。
清国ー豊山
10戦全勝の豊山、目の前で並走していた富士錦が敗れ、勝てば単独トップ。ところが固くなったか清國の攻勢に防戦一方。おっつけを効かせてグイグイ出てくるのを堪えるが、いよいよ土俵際。というときに、清国の左足が元気良すぎて俵を踏み越し。幸運に救われた大関だが、それまでの安定感はどこへ。単独トップも束の間、翌日には土がついた。
栃ノ海ー豊山 技能派横綱面目躍如
低く当たって懐に入った栃ノ海。左差しから右も覗かせ、豊山が左をこじ入れたところを右上手出し投げで土俵外へ。豊山は痛恨の1敗で首位陥落。
北葉山ー栃光 好調大関生き残りをかけて
10勝2敗同士。両者前傾姿勢で押し合う我慢比べ。栃光が二本覗かせるが、北葉山両上手で堪え、左巻き換え。そこを付け込んで出たが、攻めきれず。さらに煽ろうとするが、北葉山がタイミング良く体を開いて投げれば、思わず栃光土俵を飛び出した。物言いがついたが、軍配通り。
富士錦ー北の富士 ストッパー役は新関脇
千秋楽にして初めて単独首位に立った富士錦に対し、北の富士がもろ手から突っ張って出たが、低く構えた富士錦が右からあてがって突き落とし。たまらずもんどり打って倒れ、あっけなく富士錦の優勝が決まった。新関脇北の富士は二桁ならず。
大関豊山 13-2
危ない相撲もあったが、内容は概ね安定。10連勝を飾った廣川戦など、相手の自慢のぶちかましを真っ向受け止め、左の四つ上手を掴むと軽々と吊り上げてあっという間に運んでしまった。それだけに終盤の2敗は上位相手とはいえ脆さを感じさせた。
大関北葉山 12-3
前の場所に続いて12勝と地力を発揮。鋭く低い当たりから右前みつを取る速さが目立った。平幕若鳴門のうっちゃりに土俵下まで放り出された小兵の悲しさ。中盤の連敗が悔やまれる。
大関栃光 12-3
立合いの突進力光り、圧勝もしばしば。全勝豊山も、二本入って一直線に寄り倒した。若浪のうっちゃりを押し潰すも物言いの末に敗れた2敗目は、思わず行司(夏みかん)が首を捻るほど微妙な一番だった。
西5若見山 11−4
新三役では跳ね返されたが、勢いは止まらない。廻しにこだわらない突進もあれば、巨体を利してスタミナ勝負でも力を発揮。相手が焦れて仕掛けるまで我慢した。明武谷との3分激戦は相手の巻替えに乗じて抱えて出て押し潰し、鶴ヶ嶺の寄りも右から掬って裏返した。