平成大相撲を振り返る中で、年ごとの頂上対決を選んだ。基準は以下の4つ。場所のクライマックスで、その年最も重要な対戦で、覇権争いを左右した一番を選んだ。
【頂上度】頂上対決の名にふさわしい状況。決定戦や相星決戦なら最高。
【両雄度】その一番に登場する力士がその年の頂上対決に相応しいか。
【象徴度】その年や時代を象徴する一番だったか。
【熱戦度】相撲内容は白熱するものだったか。
選ばれるのは必ずしも誰もが知る名勝負とは限らない。選考理由と合わせて読んでいただければ、平成の一年一年が蘇るだろう。
勝ち | 負け | 頂 | 両 | 象 | 熱 | 他候補 | その他有名 | ||
元 | 千代富 | 北勝海 |
同部屋横綱決定戦 九重部屋9連覇を象徴 |
5 | 5 | 5 | 3 | 北勝海ー旭富士 |
千代富ー寺尾 千代富ー大乃国 |
2 | 旭富士 | 千代富 |
直接対決本割で制す 連覇で昇進、九重勢に一矢 |
4 | 4 | 4 | 5 |
北勝海ー小錦 北勝海ー旭富士 |
千代富ー旭富士 千代富ー花ノ国 |
3 | 旭富士 | 小錦 |
全勝小錦に連勝逆転 千代引退、最後の綱の意地 |
4 | 2 | 3 | 3 |
北勝海ー大乃国 琴富士ー小錦 |
貴花田ー千代富 舞の海ー北勝鬨 |
4 | 小錦 | 霧島 |
大関相星決戦 横綱不在時代を支える両雄 |
4 | 3 | 4 | 2 | 曙-貴花田 | 若花田ー旭富士 |
5 | 曙 | 貴ノ花 |
同期巴戦、若貴を圧倒 一人横綱ここから3連覇 |
5 | 4 | 5 | 2 |
曙ー貴花田 曙ー武蔵丸 |
若花田ー曙 曙ー小錦 |
6 | 貴乃花 | 曙 |
連続全勝で横綱へ 故障明けライバルを撃破 |
2 | 5 | 5 | 4 |
貴乃花ー武蔵丸 武蔵丸ー若乃花 |
曙ー貴闘力 舞の海ー武双山 |
7 | 曙 | 貴乃花 |
春はあけぼの 曙貴時代だ 連続相星対決 |
4 | 5 | 3 | 4 |
若乃花ー貴乃花 貴乃花ー武蔵丸 |
|
8 | 貴乃花 | 曙 |
相星決戦制し3連覇。 若も浪も及ばぬ貴時代ピーク |
4 | 3 | 5 | 2 |
貴ノ浪ー貴乃花 武蔵丸ー曙(九) |
|
9 | 貴乃花 | 曙 |
終わってみれば貴乃花 4人決定戦勝抜き逆転 |
5 | 4 | 5 | 1 |
貴ノ浪ー貴乃花 曙ー貴乃花(夏) |
若乃花ー曙 舞の海ー小錦 |
10 | 若乃花 | 武蔵丸 |
好敵手振切り兄弟横綱誕生 ついに上位陣に変動 |
3 | 2 | 4 | 2 | 琴錦ー貴乃花 |
武双山ー千大海 若乃花ー曙 |
11 | 武蔵丸 | 貴乃花 |
新旧王者相星決戦 豪快に裏返し覇権奪う |
4 | 4 | 5 | 4 |
千代海ー若乃花 武蔵丸ー貴ノ浪 |
武蔵丸ー若乃花 |
12 | 曙 | 武蔵丸 |
20世紀最後の一番 花道飾る超重量横綱対決 |
3 | 4 | 4 | 3 | 貴闘力ー雅山 |
武双山ー曙 琴光喜ー武蔵丸 |
13 | 貴乃花 | 武蔵丸 |
世紀またぐ復活優勝 夏も強行で2度決定戦制す |
5 | 4 | 4 | 4 |
魁皇ー武双山 魁皇ー武蔵丸 |
琴光喜ー武双山 |
14 | 武蔵丸 | 貴乃花 |
楽日相星で再戦 両雄死力尽くし燃え尽きる |
4 | 4 | 3 | 3 |
栃東ー千大海 千大海ー朝青龍 |
貴乃花ー朝青龍 栃東ー朝青龍 |
15 | 魁皇 | 千大海 |
楽日相星大関決戦 昇進青龍含め4大関V |
4 | 2 | 3 | 4 | 栃東ー朝青龍 |
貴乃花ー雅山 旭鷲山ー朝青龍 |
6場所中5場所を制して前年から9連覇を記録した九重部屋の両横綱の時代を象徴、しかも史上初の同部屋横綱対決の舞台。愛児を亡くし若乃花の如く数珠を掛けての場所入り、憔悴からの立ち直りを稽古場で見てきた弟弟子との対戦という複雑なドラマもあった。内容も大熱戦まではいかないが、凡戦というほどではない。
いきなり超級の頂上決戦が出現。さらに2度の決定戦を戦ったカードが続くのだから、平成元年はハイレベルだった。
この年の有名な一番も、やはりまだ千代の富士時代らしく、寺尾を吊り落とした一番や、肩を外しながら大乃国を転がして優勝を決めた一番など。個人的には、三杉里が益荒雄にもつれながら勝った際、土俵下の富士乃真が負傷して翌日不戦勝を貰ってしまったハプニングが印象に残る。
平成2年
選考は難航。春場所の25年ぶり巴戦か、それとも旭富士が千代の富士との1差楽日決戦を本割で制して連覇、横綱を手中にした名古屋の一番か。秋は、新横綱優勝と3連覇を狙う旭富士と、北勝海が相星決戦。
この年の優勝は、千代、北勝、旭が2回ずつ。激戦ぶり、接戦の優勝争いを象徴という意味では巴戦が印象的だが、そこに登場するのは、北勝海だけ。頂上決戦という意味では、直接対決である他の二番に軍配が上がる。
(春) 頂上5両雄3象徴4熱戦4 計16
(名) 頂上4両雄4象徴4熱戦5 計17
(秋) 頂上5両雄4象徴3熱戦3 計15
結果、状況を表す3項目は同点。熱戦ぶりの差で名古屋場所の決戦が上回った。また、長く天敵に押さえつけられていた旭富士が、2場所連続で絶対的王者・千代の富士との接戦を制して横綱に昇進し、九重部屋独走時代に楔を打ったことは、この年1番のトピックと言える。
千代の富士が1000勝を達成し花束を高々掲げた花乃国戦や、夏場所17歳の貴花田が新入幕、初日旭里に勝った相撲には大変な注目が集まった。
平成3年
毎場所優勝力士が変わり、頂上決戦にふさわしいカードが絞れない。いっそ貴花田が千代の富士との初対決に勝った相撲にしようかとも思ったが、象徴的ではあっても趣旨から外れる。
象徴的なのは平幕優勝が続いた乱戦ぶりだが、年間通して頂上に近い力士の優勝争いを決するような一番を取り上げるべきだ。
となると、最もハイレベルな戦いになった夏場所の旭富士ー小錦。14戦全勝の小錦に、2横綱全休、千代引退で1人横綱となった旭富士が立ちはだかり、本割、決定戦と連勝して逆転優勝。ポスト千代の富士を担うにふさわしい優勝争い。翌場所から旭富士は不振に陥ったが、ほぼ毎場所優勝争いに絡んだ全盛期の小錦が加わっており、この場所も惜しくも賜杯を逸した辺り、当時の情勢を端的に映している。
走る貴花田を上位陣が阻止した春場所、結果的に両者とも最後の活躍になった北勝海ー大乃国の14日目相星対決。3分を超える熱戦の末、琴富士が小錦を退けて平幕Vに前進、乱世の幕開けを告げた名古屋の一番も印象的だ。舞の海が八艘飛びで度肝を抜いたのもこの年。
平成4年
旭富士、北勝海が引退し横綱が不在に。名実共に戦国時代に入った。
最多勝は貴花田。横綱大関以外では昭和35年の大鵬以来。優勝は曙と2回ずつで分け合った。その他が大関小錦と平幕の水戸泉。大関になった曙と大関を目指した貴花田の対決がカードとしては最適だ。両者が優勝を争う展開になったのは初場所、曙が貴花田に唯一の黒星をつけたが、1差のまま貴花田が逃げ切り。ライバル関係においても重要な一番だが、この時は関脇と平幕、中盤に顔が合ったのが惜しまれる。
対決のタイミングが楽日相星決戦になったという点で、最も頂上決戦らしかったのは、春場所の大関相星決戦。4人が並んだ千秋楽、先に栃乃和歌、安芸ノ島が敗退、横綱不在で結びの一番となった小錦ー霧島の勝った方が優勝という展開になった。
2人とも年後半は冴えず、霧島はこの年限りで大関を陥落しており、前述のとおり、カードとして考えると、成績は曙ー貴花田に劣る。横綱不在で新鋭が大挙して押し寄せる中、看板を背負っていた2大関の印象は数字以上に強く、その象徴がこの場所の優勝争い、珍しい大関による楽日結びでの相星決戦だ。これで小錦が横綱に推挙されていれば文句なしだったが、それでも頂上対決の年度代表として十分相応しい。
(初) 曙ー貴花田 頂上2 両雄4 象徴4 熱戦2
(春) 小錦ー霧島 頂上4 両雄3 象徴4 熱戦2
平成5年
この年は初場所優勝した曙が横綱に昇進、大関となる若、貴が一矢報い、名古屋では三者による巴戦。これを制した曙が、年後半の賜杯を独占した。
この3人による激しい優勝争いが繰り広げられたが、やはり直前3場所の優勝力士が会して戦った名古屋での巴戦が頂上にふさわしい。決定戦を圧勝した横綱が王者に君臨したということも決戦の価値を高めた。これほど完璧な頂上決戦もないだろう。
これに隠れてしまうが、他候補にも事欠かない。初場所は1差の楽日対決、勝った曙は横綱、敗れた貴花田も大関に昇進。春は12日目ながら若花田が曙を取り直しの末に豪快に投げて初優勝に前進した。夏は貴ノ花が曙との楽日相星決戦を制す。九州は初の外国人力士同士の決定戦となり、曙が武蔵丸を破った。
外国人対決と言えば、九州場所13日目に曙に敗れた小錦は大関を陥落。ハワイの先輩に引導を渡し、さらに後輩の初優勝の夢を砕く。曙にとっては残酷だったが、これを勝ち抜き王者にふさわしい3連覇の偉業を成し遂げた。
平成6年
貴乃花が4度賜杯を抱いて横綱へ栄進。白眉は九州場所千秋楽。長期離脱から復帰した一人横綱曙と4場所ぶりの対戦。貴乃花の猛攻を必死に堪えた曙が反撃、強引に寄るところ土俵際での投げが決まって両者土俵下へ。熱戦を制し、2場所連続で全勝優勝を果たし、文句なしの成績で昇進の使者を迎えた。既に優勝は決定、曙は4敗を喫していて、頂上対決とは呼びづらい。それでもこの年一番に挙げたのは、前後のライバル関係を含めて平成前半の主役級2人の重要な決戦だったから。これを境に覇権は貴乃花に移るが、曙にとっても膝の重傷から再起して、長く横綱を張る上で糧となる健闘だった。
その他、頂上対決らしさでいえば、春の巴戦。連覇で綱取りを目論む貴ノ花と相星対決に勝って決定戦進出、さらに貴ノ浪、貴闘力と馬力で圧倒。二子山部屋包囲網を突破し孤高の強さを見せつけたのは鮮烈だった。
最も優勝争いを左右したカードなら、貴ノ花と武蔵丸の大関対決。初場所千秋楽は1差の対決で武蔵丸が決定戦に持ち込んだかと思われたが、勇み足。首位曙が突然離脱した夏も、千秋楽1差の対決で貴乃花が本割で優勝を決めた。名古屋では武蔵丸が土つかず、14勝1敗とした若ノ花に決定戦のチャンスを与えんと挑む貴ノ花との千秋楽結びの一番は、遂に武蔵丸が取って全勝で初優勝。もしこのカードに決定戦や相星決戦の場があれば、この年一番に推したいところだったが、状況的に決め手に欠けた。
小兵舞の海が躍動し、三役に。綱取りの貴ノ花を切り返しに破ったり、武双山を後ろ向きから脱出して最後は必殺切り返し(外掛け)で破った一番などが印象深い。
平成7年
曙ー貴乃花の2横綱時代を迎え、以降毎場所千秋楽結びで顔を合わせる。期待通り、初場所から3場所連続首位に並んでの対戦。初場所は貴勝って決定戦に進み、3連覇。春は曙。夏は貴。名、秋は千秋楽を待たず貴乃花が優勝を決めて、九州は曙が途中休場。以後は差がついていくが、この年に限っては曙貴時代の看板に恥じない高レベルな争いを展開したと言えるだろう。実質的には優勝4回を記録した貴乃花の年だが、あえて一つ選ぶなら「一年ぶりの春はあけぼの」のフレーズが有名な春場所の相星決戦。貴乃花も横綱らしく巨漢に真っ向がっぷり組んで力相撲に。これが貴乃花の勝ちなら4連覇、翌場所から連覇もしており、2横綱時代は貴乃花一色、曙貴時代と語られはしなかっただろう。 追い越された優勝回数も、この時点で8回で並んだ。
夢の若貴兄弟対決も実現。結果、若乃花が2度目の優勝を飾るが、世紀の凡戦と酷評されることもある。やりにくさがあったか。カードとしては面白いが、若乃花は年間通して大活躍とはいかず、頂上とは言い難い。
平成8年
貴乃花が4連覇を達成したこの年。曙は休場があったりと不調。代わって健闘したのが二子山部屋の2大関。3大関の中では武蔵丸が一番綱に近いと見られていたが、初場所、貴ノ浪が前場所の若乃花に続く貴乃花との同部屋決定戦に進み、河津掛けの奇手で制す。春、夏はこの2大関が最終盤まで貴乃花を1差で追走する展開となり、いずれも両者が立て続けに敗れた時点で優勝決定。
そして名古屋場所。若乃花は序盤乱調で脱落したが、終盤、貴乃花、曙、貴ノ浪が並走。一時曙が首位に立つが、若乃花の援護射撃を食って再び3者相星で千秋楽。貴ノ浪が先に敗れて横綱相星決戦となり、貴乃花が勝った。この決戦が優勝争いの展開を含め、最も平成8年を象徴する。3連覇を記録した貴乃花は、翌場所も全勝で自身最高の4連覇を果たす。
絶頂の貴乃花が全休した九州、1横綱3大関に上位キラー魁皇を加えた5人の決定戦になったのも貴一強時代を象徴するが、頂上対決というからには貴乃花抜きの11勝4敗での乱戦は選べない。
平成9年
初の休場明けとなった9年も貴乃花は強く、優勝3回、同点2回、1差1回。だが、14勝したのは九州場所だけで、これまでのように独走というわけではなかった。
最も象徴的なのが春場所。14日目に武蔵丸との相星対決に敗れて後退したが、千秋楽貴ノ浪が武蔵丸を、自身が曙を破ったことで4人が首位に並び、またも大決定戦に。魁皇、曙と難なく退けて、「終わってみれば貴乃花」と形容された。秋場所でも全く同じ展開で、14日目武蔵丸との相星対決に敗れ、千秋楽貴ノ浪の援護で決定戦。再戦を制した。
貴乃花ー曙の両横綱戦は、夏の曙自力逆転優勝、名古屋の相星決戦で貴が雪辱と名勝負が続いた。やや貴乃花が後退したことで、曙貴時代と呼ぶに相応しい場所が多く、3大関にも見せ場があり、これというのを選ぶのが難しいが、やはり優勝争いの責任を果たした両横綱の激突、中でも象徴的な優勝決定トーナメントの決勝を頂上決戦として推す。捻りで一瞬という内容だけが惜しいが、結果なので仕方ない。
(初) 若乃花ー曙 14日目1差対決で決定 2・2・1・4
(春) 貴乃花ー曙 決勝戦 5・4・5・2
(夏) 曙ー貴乃花 本割・決定戦連戦 5・4・3・4
(名) 貴乃花ー曙 相星決戦 5・4・3・3
(秋) 貴乃花ー武蔵丸 決定戦 5・3・3・3
(九) 貴ノ浪ー貴乃花 決定戦 5・3・2・2
その他、秋場所、引退間際の小錦が貴乃花をあと一歩まで寄り詰めた一番が印象に残る。
平成10年
貴乃花に異変。曙も長期離脱し、連覇の若乃花が横綱に昇進、年間最多勝を記録した。体制が揺らいだこの年、頂上決戦と呼べる対決は少なかった。そもそも年間を通じて優勝を争った力士が少なく、終盤に直接対決を戦ったのも僅か。
となると、若乃花が長きに渡る3大関体制から抜け出した、夏の連覇決定の一番となる。11日目にして3敗10人が首位となった未曾有の大混戦。唯ひとり千秋楽まで死守した若乃花、敗れれば4〜5人による決定戦に縺れ、仮に優勝しても11勝では昇進が危ぶまれる。相手は決定戦に持ち込みたい武蔵丸。これを当たって一瞬のいなしで横を向かせる速攻で下し、優勝と横綱を手中にした。貴ノ浪も11勝していたが、綱を争った2大関を振り切って、驚異的な安定感を誇った3大関の時代に終止符を打った。最後の4場所は3人の大関が制する激しい綱取りレースだった。
秋場所は若貴確執が報じられる中、2敗で両者が並び千秋楽。決定戦での再戦となればこれ以上ない頂上対決だったが、本割で若乃花が敗れ実現せず。共にこの年2回ずつの優勝を記録した。
初場所12日目、体調不良で顔を腫らした貴乃花が3連敗を喫し、若乃花に打っ棄られて脳震盪を起こした曙が取り直しであえなく転がされた結び2番の悲壮感は、曙貴時代陰りの兆しだった。九州、平幕優勝を狙う琴錦を右四つに組み止めながら、鮮やかな巻き替えを許して止められず、3連覇を逃した貴乃花、以降2年も賜杯から遠ざかる。
平成11年
初場所千秋楽、横綱初優勝を狙う若乃花に挑んだのは関脇千代大海。本割で追いつくと、史上唯一の決定戦取り直しの末に劇的な逆転優勝。花田家と因縁深い千代の富士の九重部屋出世頭というストーリーもあり、華々しく大関に昇進した。実に5年ぶりの大関誕生、新時代の火蓋を切った点でも意義深い。しかし、その後若乃花は急失速、千代大海も停滞。
春場所は3横綱が休場、武蔵丸と貴ノ浪による大関楽日相星決戦。史上最多対戦回数も更新し、同時昇進以来5年大関にあった者同士の決戦、その後の明暗は因縁を感じさせるが、頂点を争うという意味ではやはり弱い。
夏は、千秋楽、武蔵丸が1差で追う曙を力強く寄り倒して連覇、横綱昇進を決めた。同じハワイ勢を破っての悲願。曙にとっては、翌場所千秋楽も武蔵丸、出島と武蔵川勢に連敗して逆転優勝を許しており、苦闘を象徴するカードの一つだ。
しかし、それ以上に印象が濃いのは、九州場所の楽日相星決戦。混戦の末に横綱対決となり、武蔵丸が貴乃花を破って年4度目の優勝。貴乃花は奮闘空しく、武蔵丸の右掬い投げに裏返されて、平成3年以来の優勝0となった。しばらく土俵の角に座り込んだ姿に、覇者交代の絵を見た。候補は多かったが、両者の実績を考えてもこの一番が妥当か。
負傷、横審の休場勧告もおして出場の若乃花が、兄弟子安芸乃島と優勝を争う武蔵丸に挑み、玉砕的なうっちゃり叶わず巨体に潰され負け越した一番も悲壮。これも日の出の武蔵川と黄昏の二子山のコントラスト。土俵は無常。
平成12年
11年に4回賜杯を抱いた武蔵丸が、初場所初めて休場して数々の連続記録がストップ。その影響かピリッとせず、貴乃花も故障がち。春には若乃花が引退。曙も回復途上で、若い大関陣もそんな横綱陣を凌駕できず。年前半は関脇以下の優勝が3場所続いた。
後半は横綱が復調したが、名古屋では曙が13日目に、秋は武蔵丸が14日目に優勝を決めてしまった。九州では、この両横綱が千秋楽に対決。2差をつけられ脱落していた武蔵丸を、曙が寄り切った。頂上決戦とは言い難いが、それ以外に上位陣が優勝をかけて争った相撲もない。時はまさに西暦2000年でこの一番が20世紀最後。結果的に曙が翌場所全休し引退、一時代を築いたハワイ勢対決としても最後の一番となったこともあり、節目の一番として価値を高めた。共に220キロを超える超重量級横綱が組み合う姿も、今となっては懐かしい。
二子山の老兵、幕尻貴闘力が劇的な逆転勝ちで武蔵川の新怪物雅山を下し、武蔵川6連覇を止めた一番も印象的。遂に大関となった武双山が曙を豪快な突き落としで横回転させたり、同じく魁皇が武蔵丸を一本背負いに破った一番もあった。若乃花が、高校の後輩にして同じ二世力士、栃東に引導を渡された最後の一番も記憶に残る。かつてない手拍子の大応援に見送られた。
新入幕栃乃花の2大関食い、実質新入幕の琴光喜が武蔵川4人衆を総なめの番狂わせも光った。
平成13年
初場所、久しぶりに横綱同士の一騎打ちの展開となった。千秋楽結び、全勝貴乃花と13日目に土がついた武蔵丸の対決。本割呆気なく敗れた貴乃花だが、決定戦では寄り切って14場所ぶりの優勝。21世紀最初の場所で復活を遂げた。同場所を全休した曙が引退、新たな2強時代到来が期待された。
夏場所も同カードで決定戦となったが、展開は大きく異なり、2差をつけて独走の貴乃花が14日目武双山の巻き落としを食って膝に重傷を負う。1差となった武蔵丸との千秋楽対決は異例の不戦で逆転かと思われたが、強行出場。初場所と同じく本割は惨敗だったが、決定戦は奇跡の勝利。
だが代償は大きく、貴乃花は以後1年以上離脱。2強時代は幻となった。実質一人横綱となった武蔵丸は、名古屋は魁皇との14日目対決に敗れるなど勝負強さを欠いたが、九州では14日目関脇栃東の挑戦を退けようやく1年ぶりの優勝。
もちろん夏場所の2横綱対決は伝説的な頂上決戦であるが、初場所の決戦の方が復活劇、レベルの高さ、両者の状態と後味の面で清々しい対決だった。
また、地味ながら面白かったのが春場所、全勝魁皇に両横綱が立ちはだかったことで混戦になり、魁皇ー武双山の大関相星対決、貴乃花の決定戦進出がかかった横綱1差対決と、ライバル激突による大一番が連続した。
秋に平幕優勝もした琴光喜は、夏場所で武双山と水入りの熱戦。合計9分超、平成では唯一の取り直しの末に勝った。
平成14年
横綱貴乃花は前年名古屋から全休が続く。1人横綱を務める武蔵丸が春、夏と連覇。通算優勝回数も二桁を超えた。そして秋場所、ついに貴乃花が復帰。序盤で2敗を喫しながら立て直し、千秋楽結びで武蔵丸との横綱相星決戦となった。武蔵丸にすれば、前年2度決定戦で敗れた相手に、ようやく雪辱する機会。因縁の再戦は、武蔵丸の快勝に終わった。これで燃え尽きたかのように、以降両者とも最後まで場所を務めることはなく、翌年引退した。貴乃花が1場所しか出場していないという点では年を代表するカードとは言い難いが、2横綱の決戦であるから文句はない。
初場所の優勝争いは同い年の三つ巴の争い、栃東が千代大海との大関決戦で逆転優勝。その千代大海は名古屋で関脇朝青龍との直接対決を制して逃げ切り雪辱。秋場所武蔵丸と横綱をかけての決戦になっていれば、年を代表するカードとなり得たが、前日貴乃花の変化に挑戦権を奪われた。
初場所、この場所を制した栃東は、朝青龍の猛烈な張り手に鼻から大流血。異例の行司待った、止血中断を挟んで我慢勝ちした一番は、いきなり変化した決定戦以上に有名。
平成15年
2横綱が引退し、朝青龍が1人横綱に君臨。3大関も優勝を果たした。楽日相星決戦が2度。名古屋の魁皇ー千代大海と、九州の栃東ー朝青龍。楽日決戦は、千代大海ー朝青龍の1差対決。朝青龍が優勝した中では、14日目に1差の千代大海を破って決定した一番くらい。
やはり相星決戦から選びたい。どちらも内容のある一番になったが、ここは名古屋の大関決戦を選びたい。初場所の朝青龍も含めて大関が4場所を制した一年を象徴する大関の決戦。栃東はずっと不振だったこともあるが、のちに在位65場所の1位タイ記録を作る両大関の激突という点も見逃せない。
新横綱朝青龍は鮮烈な相撲で一世を風靡したが、まだ盤石ではなく、旭鷲山の髷を掴んで反則負けしたり、逆に引き落とされて土俵上で下がりを振り回して威嚇したりと前代未聞の悪態で話題を提供。人気者高見盛に金星を献上して座布団が乱舞した一番も印象深い。
貴乃花の壮絶な散り際も心に残る。雅山の二丁投げで負傷休場しながら超異例の再出場、連敗を喫して中日に引退した。